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『フィラリアの薬を ノープライスで配っているんですよね』『はい 22億錠』久保利英明×内藤晴夫

久保利英明×内藤晴夫(エーザイ株式会社 代表執行役CEO)
vol.3

久保利「世界中の、後進国で薬が手に入らないというところへ、薬を配ってるんですよね
内藤「そうです。一番最たるものは、顧みられない熱帯病のフィラリア症ですね」
久保利「フィラリアですね」

内藤「リンパ系フィラリア症の治療薬は今、イベルメクチンが有名ですけど、うちが作ってるDEC(ジエチルカルバマジン)錠っていうのもイベルメクチンと一緒に使うと、非常にフィラリアを撲滅できるんですね。これはプライスゼロですから」
久保利「ねえ、差し上げちゃうんですものね、全部

内藤「プライスゼロで22億錠作ってますね。インドのバイザックっていう工場で、一生懸命、非常に質の高いDEC錠を作ってますけれども、これも奥が深くて、あの、熱帯病って感染症ですから
久保利「はい」

内藤「そのコミュニティ全員がのまないと意味がないんですよ
久保利「たしかに」

内藤「そうすると、じゃあ、アフリカとかインドのそういうビレッジに行って、エーザイですと。こういう薬がいいからのんでくださいと。誰ものまないです。やはりそこの村長さんとか、宗教的指導者ね
久保利「ああ、なるほど」

内藤「いいって言わないと、ダメなんですよ。Mass Drug Administration(集団投薬)ができないので」
久保利「なるほど」
内藤「そういう人達に、どうやって
久保利「飲み方(笑)」
内藤「というのも、またリアリティとしてはね、現実そういう問題なんですよね、やはり
久保利「そうでしょうね」

内藤「そういうラーニングも出来てきましたしね。だから考え方だけでプライスゼロで、無償供与して立派な事やってるじゃないかって言っても何の意味もなくて
久保利「飲んでもらえなかったらね、意味ないもんね
内藤「現実そこ行って、飲んでなかったら意味がないんでね」
久保利「うん。なるほどね、それは経営って大変ですね
内藤「それ、でも、あれまた、醍醐味ですよね
久保利「うん」

内藤「それで結構、リンパ系フィラリア症が撲滅された国も
久保利「ほお」
内藤「このところ、7,8か国出てきてるので」
久保利「そうですか」
内藤「ええ」
久保利「いいことしてらっしゃいますよね」

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内藤「ええ。これはね、エーザイ単独じゃとてもできなくて、やはりWHOと、すごいのはゲイツ財団(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)なんですね。ビル・ゲイツのところの
久保利「あの財団が

内藤「その熱帯病に対する貢献っていうのは、もうすごいです。ゲイツ財団なくしては、熱帯病を撲滅って、とんでもないですね

久保利「そういう観点から、エーザイは一生懸命やっているけれども、日本のODAとかですね、日本が、本当はビル・ゲイツの財団がなくても、そういうことをやりますよとか、そういう話って僕はあんまり聞いたことがないんだけど、どうなんですか

内藤「いや、これね、あの非常に重要だと思いますね。だいたい欧州諸国はかつての植民地の贖罪意識があるんで
久保利「罪滅ぼしですね」

内藤「はい、アフリカとかに非常に関心があるんですけども、我が国はそういう歴史はないんで、だからよりね、中立的な立場で、本当に介入出来ると思いますし、やることたくさんあるんですよね。この熱帯病の領域って
久保利「そうでしょうね」

内藤「あの、ネグレクテッド・トロピカル・ディジーズと言われるように、顧みられていないんですね」
久保利「ああ、なるほど」

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内藤「今でもたとえば、マイセトーマっていう病気なんかは、何が感染源でなんだかわからないんですけども、そういうものに対する治療薬もうちでは手掛けてるんですけど。

これの治験はスーダンでやんなきゃいけないんです。スーダン行って治験やんなきゃいけないんです。ところが、やっぱりスーダンでずっとやってる、NGOとか日本人のグループもいくつもあるんですね。それから、スイス系でそういうとこで治験をやってきてるグループもあって」
久保利「あるでしょうね」

内藤「ええ、そういう人たちとコラボして、ゲイツ財団が入ったりして、やるんですね。それが本当のいわゆるPublic Private PartnershipっていうPPPっていうやり方で、なかなか普通のビジネスでは味わえないような、地味なんだけれども、本物やなぁという連中がですね」
久保利「たしかにね」
内藤「いるんですね」

久保利「僕もスーダンには行ったけれども、スーダンは当時、南スーダンもスーダンの一部だったんですけども、スイス人って、なぜかジュバ(注:南スーダン共和国の首都)が好きで、行くって言って、みんなどんどん降りてくんですよ。「あの湿地帯で何やるの?」って言うと「誰も知らない、いろんなものがあるんじゃないか」と言ってね、そこで働くっていうわけですよ。「働くのならスイスで働きゃいいのに」と、「いや、同じ働くなら南スーダンのジュバで働く方が面白いじゃないかと、お前はなんでまた日本にかえって弁護士やるんだと」
内藤「(笑)」

久保利「言われて、発想が違うなあと。だから結局、日本が日本がっていうふうに言って、日本で小っちゃくかたまってると、なんかこう、世界から置いていかれちゃうような感じがしますよね。それをすごく心配していて」
内藤「うんうん」

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久保利「内藤さんも、もう結構あれですよね、高齢者っていうか(笑)」
内藤「もう、ギリギリですよ(笑)」
久保利「(笑)僕はもう喜寿です、77なんで」

内藤「私ね、日本人ってやはり凄いと思いますよ。何がっていうか調和を重んじるじゃないですか
久保利「はい、はい」

内藤「ハーモナイズしようとするんで、あんまりダイレクトなコンフリクトとか敵対的なものの接し方っていうのは
久保利「しない

内藤「しないんですよね。これはちょっと、世界でも特筆すべきことだと思いますね。やはり我が国はそういうとこでは何て言うかな、全員の満足を得るような最適解、最適解というか満足解かな、を得ようとするっていうのは、日本人のちょっと特徴で
久保利「なるほど」

内藤「これは今のPPPとかねやるときには、ものすごい美質だと思いますね」
久保利「なるほど」
内藤「ええ。そういうことからすると日本人は
久保利「もっとやれますね

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内藤「ええ、やることはもっとたくさんあると思いますよ。格差、格差是正するとかね。そういうところでですね、格差自体はご承知のごとく、どんどん拡大してるじゃないですか」
久保利「すごい差に、どんどんなってますよね」

内藤「COVID-19(コロナウイルス)も、こんなにさらに拡がっちゃるんで。やはり、いかに格差を解消してくかっていうのは本当に大事で、

その時にはもうパブリックマインドしかない。パブリックマインドと、それからハーモニゼーションを重んじる心ってそういうことしか、この格差解消にはないんで、それは、日本人がもう出番なんじゃないかなあと思います
久保利「特性としてはもってるんですよね」

内藤「と思います、日本の政治もそうですよ。我が国の政治なんか今こそ先生、出番じゃないですか」

久保利「出番だけど、誰が出てくるのかねえ。内藤さん、やればできるんだろうけど、みんなすごいこう縮こまちゃって、小さくなって、元気なくして、本当にもうこの小っちゃな島国で生まれて育って、一生終わるみたいなね。そういう発想はちょっと行き過ぎてないかという感じは僕はしますけどね。

関心持ってないし、世界戦略とか、そういうリスクマネジメントとか、今の日本はビルマに対して何をしたらいいんだろうっていうね。そういう発想も、みんな持たなくなっちゃってて。小さなエリアのなんとか県みたいなことばっかり」
内藤「(笑)」

久保利「考えてて、なんかこれ情けないなと。だからもう今のお話聞いてるだけで、ずいぶん元気になりました。じゃあパレスチナどうなってるんだと、イスラエル問題どうなんだと、世界戦略が何にもないんですよね。だから、逆にいうと、製薬会社で、そういう風にいろんな地域のいろんな悩み、苦しみを、自ら現場でこうやってらっしゃる、その企業っていうほうが、実は下手な政治家よりは、よほど真っ当なセンスがあるのかなと僕は思いますけどね」

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内藤「政治や行政が、やはりそういう方向に動かないと、プライベートインダストリーがいくらやっても
久保利「難しいですよね

内藤「ダメなんですよね。例えばさっきの熱帯病の薬なんかでも、熱帯病の薬として承認されないといけないわけです
久保利「確かに、確かに」

内藤「熱帯病の薬として、これもう本当に困ってる人は何億人もいて、それが、癌の薬とか認知症の薬と同じ、厳しい審査基準で審査されるんですよ。そうするとね、なかなかね、プライスゼロですから
久保利「うんうん」

内藤「プライスゼロの薬を作ろうとしてるときに、そんなね、何千例の治験をやって、ダブルブラインド(二重盲検法)で証明してきなさいって言われても難しいですね
久保利「放っておきゃ死んじゃう人がいっぱいいる中で、こんなもんで死なないよっていう薬だってあるでしょうね」

内藤「そう、それは、wisdomの中で承認のプロならば、承認を与えるんですね。プロならばわかるので。そういうその、多少柔軟な承認体制を、例えばどっかで、どっかの国がうちはやるよと言えば、そこにどんどん申請来るんです
久保利「いきますね」

内藤「それはそれで、また一つのセンターになるし、そういうその柔軟性をね、行政や政治で持たないとなかなか物事解決しないですよね」
久保利「なるほどね。そう思いますね」

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久保利「内藤さんの場合には、会社をどうするかってのが一番大きなテーマなんですかね
内藤「そうですね。企業価値の向上が図れる人ということではありますけれども、かと言って、じゃあITリテラシーかと、DXかっていうわけにもいかないんで
久保利「ねえ」

内藤「やはりあのかなり資質的な部分がね、あって、それはやはり人の成長が我が喜びとするような、そういう人でないといけないだろうし、そこはこうなるべく全体像がわかるように
久保利「なるほど」
内藤「評価をしていきますけれども、まあtime to timeで、みんな弾にあたりますからね
久保利「ねえ」
内藤「ええ」

久保利「みんなね、弾がどんどん飛んでくるからね」
内藤「(笑)弾にあたってダウンした時にどう評価するかとかね」
久保利「そう」
内藤「難しいとこですよね」

久保利「また、這い上がってくる奴がね必要だし、おっしゃるとおりですね」
内藤「ですから、企業っていうのはやっぱり人から成り立ってるんで、人をどう理解するかとか、どういう風に評価するかってのは、もうほんとにcore(核)中のcoreですね
久保利「そうでしょうね」

【内藤晴夫 PROFILE】
エーザイ株式会社 代表執行役CEO

1947年 生まれ
 慶應義塾大学商学部卒業後、ノースウェスタン大学経営大学院でMBA取得
1975年 エーザイ入社
1983年 取締役
1985年 研究開発本部長
1988年 代表取締役社長
祖父は、創業者の内藤豊次氏。
父の第2代社長内藤祐次氏に続き、第3代社長に就任。
2014年 エーザイ取締役兼代表執行役CEO(現任)

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