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『アサヒはもう夕日にはならない』久保利英明×小路明善

久保利英明×小路明善(アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長)対談vol.4

久保利「小路さんは一番好きな酒を一つあげろと言うと、やっぱりビールですか」

久保利「本当のことを言うと、ワインが好きだとかウォッカが好きだとかないんですか」

小路「スーパードライが一番好きで、2番目はジャックダニエルですね」
久保利「ジャックダニエル、ほぉ」

小路「スーパードライは1987年に出したんですが、発売する前に社内で試飲をさせてもらったんですね。そのとき、感動という言葉で言ってもいいくらいの印象を持ちましたですね」
久保利「ほぉ」
小路「いろんなビールを飲みますけど、スーパードライが一番好きですね」

小路「ジャックダニエルはですね。我々の年代って学生時代安いバーボンウイスキーを炭酸で割って」
久保利「あぁ、ありましたね」
小路「あるいはコーラで割って飲んでたんですね。コークハイって言うんですかね」
久保利「コークハイですね」

小路「その味がまだ心と頭に残っておりまして。いつかはバーボンウイスキーをアサヒでやりたいなと思っていたところに、ジャックダニエルを日本で専売で売るというチャンスが来まして、すぐジャックダニエルの会社と提携して販売をスタートしたんです」

小路「アメリカの出張のついでにですね、バーボンウイスキーを作っているところを見たいということになり、テネシー州の」
久保利「テネシー州ですね」

小路「リンチバーグ(Lynchburg)ってご存知かと思いますけれども、リンチバーグってまだ禁酒法が施行されている村で」
久保利「へぇ」
小路「お酒だけは作れるんですけどね」
久保利「(笑)」

小路「飲むことはできないけど、作ることはできるんですね」
久保利「作る(笑)」

小路「工場から一歩出たら、お酒売ってないから飲めないんですけど、ぜひ試飲でたくさん飲んでいってくださいということで、飲みました」

小路「学生時代は高くて飲めなかったんですけど、現地で作ったジャックダニエルは美味しいなあと思って飲みましたですね。で、実はこのジャックダニエルって、ろ過するときにサトウカエデの木を炭化してろ過してるんですね」
久保利「ほぉぉ」


小路「だから、少し甘みがある」
久保利「甘みがある」
小路「のはですね、メイプルシロップがですね、炭化しても残ってまして」
久保利「へぇ」

小路「メイプルシロップの甘味がここにうつってるのと、それからサトウカエデの木で樽で作るもんですから」
久保利「樽がね、樽香がね」
小路「樽の中にこの甘味が出てくるんですね」

久保利「なるほど」

小路「今の若い人も甘いお酒は好きだと聞きますが、よく考えたら私も若いころ甘いお酒が好きだったなと思いましてですね(笑)」
久保利「これが好きですか(笑)」
小路「はい。ジャックダニエルも好きですね」
久保利「なるほど」

久保利「酒の話から突然、ごはんの話になるんですけど、食べものは何かお好きなものがあるんですか」

小路「年齢とともに食べ物の嗜好も変わってきてるなと思うんですけど、今はですね、魚と豆とチーズが好きです」
久保利「豆が好き」
小路「はい」
久保利「マメな人生ですね(笑)」
小路「マメな人生なんですよ(笑)
そら豆とか枝豆、ビールのおつまみになりますから」
久保利「そうですよね」

小路「あまりチーズの名前知りませんけど、小さいころから親父がよくチーズ食べながらビール飲んでたもんですから」
久保利「へぇ。洒落てるおうちですね(笑)」

小路「なんかチーズが好きで、親父はですね(笑)6Pチーズを食べながらビールを飲む」
久保利「はいはい」
小路「小さいころからチーズは食べてたので、そのまま好きになった。ゴーダとかチェダーとか関係なくて、特にスモークペッパーチーズというやつが好きで」
久保利「はいはい」

小路「お酒も最近は様々な酒造変化が、進化がされてきまして。アメリカではですね。CO2を原料にしてウォッカを作ってるということを」
久保利「ウォッカを?」
小路「はい、できてきましてですね」
久保利「CO2から作ってる?」

小路「二酸化炭素と水を化学反応させるとエチルアルコールが出来まして」
久保利「ほお」
小路「そのエチルアルコールを醸造してウォッカにすると」
久保利「へぇ」

小路「穀物を一切使わないという工法」
久保利「えらく原価安そうですね」

小路「えぇ。まだ醸造技術が、蒸留技術が結構難しくてですね、コスト的にはちょっと高いんですけど、原材料はゼロに近いですね」
久保利「ゼロですよね」


小路「先ほど、未来を未来をとクドイように言いましたけど、そういった技術革新においても全世界の潮流を常にウォッチしていかなければ、おいてかれてしまうっていうんですかね」

久保利「おっしゃるとおりです。ビール発祥の地ってアフリカなんですよね。アフリカに50何年前に行ったときに、向こうの地ビールみたいなやつを飲みましたけど美味しくないですよ。絶対スーパードライのほうが」
小路「そうですか(笑)」
久保利「美味しいし」
小路「味の進化(笑)」


小路「先生の本はこれで(『志は高く目線は低く』を見せる)」
久保利「はい(笑)」
小路「169ヶ国ですかね」
久保利「そのあと一つ増えてイスラエルに行ったので今は170になったんですよ」
小路「あ、170ですか」
久保利「はい」

小路「非常に刺激を受けました。数年前に拝見しました」
久保利「23歳で出てった時の話ですから幼稚っぽいんですけどね」

小路「これ(『久保利英明ロースクール講義』を見せる)も読まさしていただいて」
久保利「ありがとうございます」
小路「必要なところをこう折ってあるんですけど」
久保利「(笑)」


小路「「人生の主人公は自分だと。自分の人生なんだ、誰のために生きるのか、どうやって生きるのか。何を目標にしてるのか、自分の頭で考え、戦略を練り、自分自身で選択をしなければもったいない」これ、私の経営にとりこんで」
久保利「一緒じゃないですか(笑)」
小路「おりまして。先生の言葉から、さっき言った自分自身で考えて将来をというところに考えが及んでいったところです」

久保利「僕の考え、どっちかというと利己的な考えでもあるんだけども、小路さんのお話っていうのは、社会にあまねく広まっていく、そういうスタイルだからいいですよね」

小路「さらに言うとここにも「旧来のやり方を変える」と」
久保利「はい」
小路「これも、あぁなるほどと。それからこれもですね(『経営の技法』を見せる)以前拝見させていただいて」
久保利「ありがとうございます、何から何まで」

小路「『経営の技法』ですね、これも必要なところ折ってあるんですけどね。これは「社外取締役とはなんだ」というところが大変勉強になりましたですね」
久保利「(笑)」

小路「それから「儲かる仕事ほど危ない」と。なるほどなぁと」
久保利「(笑)それはそうですよね」

小路「経営にも人生にも勉強になる本で読まさしていただいて」
久保利「いやいや、儲かるっていうのは危ないんですよ(笑)」
小路「(笑)」

久保利「損してる仕事は儲からないわけですからね、儲かる仕事でいかにリスクをちゃんととりながら、場合によってはヘッジしながら、儲けるか。ところが、そんなのって絶対試験科目にないんですよ」
小路「うん」
久保利「営業能力はどうだとかね、マーケティング能力はあるかとか。そんな試験じゃないですよね」
小路「そうですね」

久保利「例えば司法試験もね。暗記力の試験です。いっぱい物を覚えて頭はちきれそうになって優秀だと言われる若い人が、弁護士としてなかなか成功しないのは当たり前の話で、

せっかく司法試験受かったのに金が儲からない。そんな試験やってないからね。金が儲かるかどうかは別なんです。

それをやるならビジネススクールへ行かなきゃいかんかもしれないし、ビジネススクールに行ったって、ただ頭にいろんなもの叩き込むだけだったら、人間の心がわからないから、たぶん成功しないですよね」

小路「まったく私も同調でして、同じ考え方でありましてですね。ある団体の教育大学改革推進委員会の委員長というのを仰せつけられまして、去年からやり始めたんですけど。

学生さんだとか、今の若い人たちに、いろんな提言をしていこうということで、その中のこれは私の個人的な考え方なんですけど、今の若い人には、幅広い教養を身につけてほしいとよく申し上げてますね。

横文字で言うとリベラルアーツっていうんですかね。古代ギリシャ語の言葉らしいんですけども。

最近うちに入ってくる人たちも大学でかなり専門性の高いところを勉強しています。一定の専門性はある部分では非常に高いんですけど、幅広い教養という面でいくとですね。薄いという感じがするんですね。

社会常識とかコンプライアンスだとか、さらにいえば、歴史だとか文化だとかそういったところに疎く、無趣味という人もけっこう多かったりしてですね」
久保利「無趣味なんですか、ほぉ」

小路「海外なんか、仕事終わってみんなで飲むとスポーツとか歴史文化とか」
久保利「ですよね」
小路「趣味の話に入ってしまうんですね。そうすると日本人はついていけない。学生時代にですね、広く学んで、幅広い教養を身につけてビジネスマンになっていったり専門家になっていったりしてほしいなぁと思います」

久保利「ほんとそうですよ。みんな幼稚園ぐらいから追われてるでしょう」

小路「私の時代はですね。振り返ってみると、一つの答えを導き出すために、どういう手法を使ったらいいかという教えを学んできたわけですね。
だから答えは一つだというのが刷り込まれてますね。

私はそうではなくてですね。最適解なんて、人生にも経営にもないんだと。
答えは一つではなくて、たくさんの答えがあるんだと。

最適解は一つではないんだということを探し当てるためにも、幅広い教養の中から、様々な価値を生み出していくことができる力を養ってほしいです。

だから一つの答えを教えるということではなくて、可能性を豊かにするために、それぞれのその人たちの個性とか独自性をより育む必要がある。そのための幅広い教育をと。
よく、横文字でSTEAM教育って言ってるんですけどね」
久保利「ほぉ」

小路「もうちょっと数学とか理科とか社会とか、そういうのを幅広く学んで、専門性の高いところに入っていくことによって、その幅広い教養から様々な知識が身に付き、それが日常生活とか仕事に役立ってきますよと。いきなり専門能力を大学生のうちにドーンと高くしてしまうと、いわゆる最適解は一つしかないと」
久保利「そうなんですよ」
小路「いうような」

久保利「それ困ったもんなんですよ」

小路「私はですね。経営者になり経営トップを務めさせて頂いて、久保利先生から、大変大きなことを、これ決してお世辞じゃなくて学ばさせて頂き、実践にうつしてきております。

一つはやっぱり先生が「社会適合性」ということを本にも書かれ、講演会でもおっしゃって、これ非常に私、心に残っておりましてですね。

ステークホルダー、生活者、それからコミュニティ、ここの人たちとのですね、価値観の変化があれば、そこから決して離れてはいけないのではないのかなと。勝手ながらそういう理解をして、私の経営は「社会適合性」ということをですね、まずベースにおいて経営をしてきました。久保利先生から本当に教えていただいた言葉の一つであります。

先ほど申し上げた「社員は会社の命である」ということが二つ目ですね。
三つ目は、「価値創造企業になろう」と。

未来を常に想像し、未来を待つのではなく、未来を自分たちが作り上げていくと。このことをですね、若い人たちに申し上げておきたいなというふうに思います」

久保利「「社会適合性」というのは僕が作った言葉で、コンプライアンスというのを、みんな日本では法令遵守というふうに訳したんですね。そうじゃないでしょうと。コンプライという言葉の中にどこに法令が関係するんだと。

コンプライアンスというのは元々、柔軟に対応していくという、これが一番の大事なこと。

例えば、レコードの、今、あんまりレコードって言わないけども、あれ、音を出すためには針が必要なんですね。針がプレイヤーの中でずっとその溝をなぞっていく。そのなぞるときに、正確にその溝をなぞればアンプによって拡幅されてですね、音が出るわけですよ。その音がいかに忠実に溝をひろっていくかというのを、これがまぁコンプライという言葉なんですね。

法令遵守とかそんな言葉じゃない。社会が求めている、そういうものをしっかりと拾ってそれを実現していますか。この企業は社会から必要とされるようなことをしっかり社会の要請に応えてますかという意味で「社会適合性」というふうに勝手に訳したんですよ。

僕はこのほうが法令遵守よりははるかに真っ当だなあというふうに思っています。だから「社会適合性」という言葉からそこまで深く読み取って頂けたというのは大変ありがたいと思います。

僕は、新しい一面というのか、今まで仕事が続いているだけではわからなかった小路さんのなかなかすごい哲学的な発想」
小路「(笑)いやいや」

久保利「企業経営者としても大事なことだし、人間としてね、やっぱりみんなが学んだ方がいいよね。こういう人がトップリーダーを務めていて、謙虚に自分を見つめ、勉強して、一生懸命考えをどんどん変えていこうとしているという、この姿勢というのはすごいな。

夕日を朝日にして、これから旭日がだーっとあがってくんだよという会社のトップを、そういう意味では歴代そうなんですけれども、自分の言葉で、自分で考えたことをこれだけプレゼンテーションできる人がトップにいる。ぜひこれからも私もお付き合いをさせていただきたいというふうに思います。今日は素晴らしい」

小路「朝日はですね、自然の原理でいくと頂上に来て夕日になると。だけど私はですね、北極圏の真冬を見ろと」
久保利「ほぉ」
小路「常に朝日がずっと360度回転してきて」
久保利「きてますね」
小路「夕日には、ならないだろう」
久保利「ならない」
小路「そういう企業になりたいなと思います」

久保利「なるほど。北極圏のような太陽ですか(笑)」
小路「北極圏の(笑)はい」

久保利「いや、素晴らしい。そういうふうにずっと続く。これもまた大変でね、そうは言ったって、必ず何か影が出てくるんだけど」
小路「そうですね」
久保利「だけどそれをみんなの力で、社員は命という気持ちがあれば、みんなで支えていけますよね。期待してます」

【小路明善 PROFILE】
アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長

1951年 生まれ
1975年 朝日麦酒株式会社入社
2001年 執行役員就任
2003年 アサヒ飲料株式会社 常務取締役企画本部長
2011年 アサヒグループホールディングス株式会社 取締役
    アサヒビール株式会社 代表取締役社長就任
2016年 同社 代表取締役社長兼COO
2018年 同社 代表取締役社長兼CEO
2021年 同社 取締役会長兼取締役会議長

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