見出し画像

『挑戦すれば必ず失敗もある』久保利英明×小路明善

久保利英明×小路明善(アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長)
2021年7月対談vol.3

小路「横文字的に言うとですね。フォアキャスティングからバックキャスティングに。それから、コンサバティブから、何て言うんですかね、アンビシャスへと。現状課題解決から、未来志向に。確実性という保守的な考え方から、少し野心的な考え方というようなことも入れつつですね」
久保利「なるほど」

小路「経営の方向性を変化・対応から、変化創造型の変化を創造していく。いわゆる昔よく言われた「過去と他人は変えられないけど、未来と自分は変えることができる」ということの言葉に沿ってですね。「未来は対応するものではなくて、また待つものではなくて、未来は自分たちで創るもんだ」と。

事業を通して、私の場合は経営を通して、未来を作り上げていこうと。作り上げた未来を現実的なものに落とし込んで生活者に提供していこうと」
久保利「なるほど」

小路「そんな経営ができたらいいなと、少しずつ舵を切っています」
久保利「小路さんがそういうふうにお考えになってるとすれば、それは日本人だけ集まってもできない」
小路「できないですね」

久保利「日本人って足元をしっかりやってね、一つ一つこの石を積み重ねていってというのは大好きだし上手だけれども、でもそれをやると結局、イノベーション、違う文化とぶつかり合う。

これから2021年から30年後の50(2050)年は、こんなふうになるぞと、足元を無視して飛ぶという翼の力のない国民が、僕は日本人だと思ってるんですよ」

小路「そうですね。海外にもっと出ていくということが企業としても大事ですし、日本の人たちもですね、どんどん日本以外のところにですね、やっぱり出向く必要がありますね。今の環境でいくと、ネットで世界のことを知れるので、世界のことを知ったらいいのではないのかなとも思います。

デジタルトランスフォーメーションということが言われて、もう10年後には家庭生活にもうバーチャルリアリティーで、世界が家庭の中に」
久保利「入ってくる(笑)」

小路「どんどん入ってくる(笑)情報が入ってきた時にですね、それを処理することができなくなってしまうんですね」
久保利「だって、人間が変わるんですもんね」
小路「そうですね」

久保利「今20歳の人が50歳になっちゃうでしょう。そうすると人間そのものが変わっていくんだから。こんなことを言うと変ですけど、76(歳)の僕とか小路さん、そこで感じる人たちは違う人になっちゃうから、そいつらのwantsをやろうと思ったら、それこそ保育園の保母さんとかそういうところからやってみないと、この子たちが何を考えているのかというのがみえなくなりますよね」

小路「そうですね。ですから、企業経営をバックキャスティングというところに舵を切って、先ほど申し上げた生活者への新たな独自価値の提供と、それが生活に役立つ。

我々のビールは必需品ではありませんけど「必潤品」ですね。潤す」

久保利「うんうん」

小路「生活を潤す必潤品に成り得ていかなきゃいけないんじゃないかと」
久保利「僕にとっては必需品ですけど(笑)」
小路「(笑)ありがとうございます」

久保利「小路さん、いろんな面白いお話しが次から次へとある」
小路「はい」
久保利「新しいものが好きなんですか」

小路「ちょっとかっこいい言いかたなんですけど「前例踏襲をしない」ということをですね、自分にも課してみんなにも言ってきたんです」
久保利「ほぉ」

小路「敷かれた線路の上をしっかり走るということではなくて、線路を自分たちで引こうじゃないかと」
久保利「なるほど」


小路「「自分たちで敷いた」線路の上を走るっていうのは、自分たちが一番得意なわけで。人が引いた、敷いた線路の上を走るっていうのは、なかなかこれ結構難しくてですね」
久保利「なるほど」

小路「「前例踏襲をしない」自分たちで未来を切り拓いて何かをしていこう。そういう主義=新しいことをやることが大好き人間ですね」
久保利「それはいいですよね。夕日ビールになった理由は前例踏襲なんですよね」
小路「そうですね」


久保利「あんまり御社のことを僕が悪口言っちゃいけないけど(笑)」
小路「いやいや、そうだと思いますね」
久保利「多分、衰退していく会社って、国もそうですけど、みんな「前例踏襲」ですよ」
小路「はい」

久保利「いま、東大生が官僚になりたくないというのは、この国はどんどん沈没していくからイヤだと言って行かなくなってる。それはまさに、この国がずっと前例踏襲的なことをやってきたからです。

なんと言うかな。伝統墨守みたいな、幕末から明治に変わる中でちょんまげ落とさないと言って頑張っていた人だとか、そういうのと同じです。レールは自分で敷いていくという、それはもう絶対必須ですよね」

小路「どこにレールを敷くのか、どこの原野の中に道路を作るのがいいのかということをまず考えることって、私のみならずみんな楽しいと思うんですよね」
久保利「おもしろいですよね」


小路「未来を考える、将来を考える、未知の世界を考える、宇宙を考えるって、これからを考えるというのが、私は人生の中で一番楽しいんじゃないかなと思うし、

疲れた時、挫折した時、そういう時は、挫折した原因とか挫折した状況とかを考えるんじゃなくて、20年後の自分20年後の未来、20年後の自分の生活。それを考えると意外と気持ちがスッキリして、モヤモヤした雲がすーっと晴れていく。そんな経験を私自身はしたことがあります」

久保利「挫折の経験ってあるんですか」
小路「私は多分、10勝がすべての勝利とすると、経営者としては6勝4敗で。なんとか勝ち越しをしてきた」

久保利「いいとこじゃないですか。6勝4敗というのは」

小路「(笑)負け越しはしなかったかなと。ただ8勝とか9勝じゃなくて、なんとか51勝49敗っていうんですかね」
久保利「武田信玄もそう言ってますよね」
小路「そうですか」

久保利「完勝とか10勝0敗とか、というのはよくないと」
小路「はい」
久保利「勝負事は半々ぐらいがちょうどよい「5分をもって最上とする」と」

小路「未来に挑戦するって当然リスクがあるわけで、必ず失敗がついてくるので、その失敗から学べばいいわけなんですけども」
久保利「はい」

小路「10勝してきましたっておっしゃられた場合に、私の見方としては、この人挑戦しなかったから失敗もなく結果的に10勝という成果をあげてきたのかなと」
久保利「うんうん、そうですよ」


小路「挑戦すれば必ず失敗もあり」
久保利「負けることもありますよ」


小路「失敗は成功の母であり、リスクはもちろん会社をつぶすようなリスクはとってはいけませんけども、リスクは極小化することによって、あえてリスクを享受して経営していくということを、リスクアペタイトでもERM(Enterprise Risk Management)でも説明してきました。

リスクをとらない経営では持続的な成長はできないんじゃないかなと思います」
久保利「おっしゃるとおりでしょうね」

久保利「小路さんは、挫折恐れずリスク恐れず。ただし恐れるべき、あるいはとってはいけないリスクはとらないけどもチャレンジはするんだと」
小路「はい」

久保利「それでもちょっと元気なくなったようなということはないですか」
小路「挫折は、やっぱり、私、怖いです」
久保利「(笑)」

小路「(笑)元気なくなったこと、会社を辞めようと思ったこと、人生、ビジネスマンとしての自信をなくしたことは、もう枚挙にいとまがないぐらい、実はあります」
久保利「(笑)そうなんですか」

小路「ただただ、やっぱりそのときに助けてくれたのは、歴代のいい社長さんであり、先輩であり、同僚であり、後輩だということで、私は非常に人に恵まれたなあというふうに思ってますね。もちろんそのかっこいい言いかたをすると家族も私を支えてくれまして」
久保利「ほぉ」

小路「一人であったらば、私のこれまでの挫折を乗り越えることは、間違いなくできなかった」
久保利「ほぉ」

小路「先輩、同僚、後輩、そして家族が、私の不安を聞いてくれて、そして、慰めてくれて(笑)」
久保利「(笑)」
小路「それで支えてくれたと。いうことで、ちょっとかっこいい言い方ですけども」

小路「(笑)もちろんあれですよ、ステークホルダーの皆さんのために」
久保利「もちろんそうなんだけれどもね」
小路「経営者として経営をしていることは大前提ですけどね」

小路「社員のみなさんに、何のために働いているのって思った時に、もちろんお客様のため、それから株主のためということは当然なんですけど、家族のために働いているということを忘れちゃいけないんじゃないの。ということを言ってるんです」

久保利「たぶん“ために”というのは即物的に金稼ぐために働いているとかそういう話じゃなくて、家族が喜んでくれる、あるいは「お父さんこんなことが世の中で起きてるけども、会社大丈夫?」と言われたときに「俺はそんな変なことはしないよ」と言える。コンプライアンスの研修会で言うのは「あなたがいまやっていることは、家に帰って子供や奥さんに話せますか」というのはありますよね」
小路「おっしゃるとおりですね」


久保利「話せないようなことをこれは会社のためだからといって、どぶさらいみたいなことをする。それでほんとうに誰が喜ぶんだというのを僕はいつも思うんです」

小路「ウェルビーイング(well-being)っていう言葉があるんです。家庭のウェルビーイングを実現しそれを持続的にするため働いているという思いが、私は強いですね」

久保利「それは結果的には自分の家族を幸せにするだけじゃなくて、ステークホルダーも含めて、顧客も美味いビールが飲めたぞと。小路さんのおかげだと。こういうふうにつながっていくという良い連鎖がどんどん始まるんじゃないですか」

小路「お父さんがそういう考え方で働いていることによって、仕事へのモチベーションが高くなる。顧客も喜び我々の商品を買ってくれる。それこそがステークホルダー、シェアホルダーの皆さんに対しての還元にもつながっていく。そんな考え方でやってます」

久保利「それ、飲んだくれの家庭を顧みない奴が社長のビール会社ってやばいと思うんですよね」
小路「(笑)おっしゃるとおりですね」

【小路明善 PROFILE】
アサヒグループホールディングス株式会社 取締役会長兼取締役会議長

1951年 生まれ
1975年 朝日麦酒株式会社入社
2001年 執行役員就任
2003年 アサヒ飲料株式会社 常務取締役企画本部長
2011年 アサヒグループホールディングス株式会社 取締役
    アサヒビール株式会社 代表取締役社長就任
2016年 同社 代表取締役社長兼COO
2018年 同社 代表取締役社長兼CEO
2021年 同社 取締役会長兼取締役会議長

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?