新たな試み「朗読劇」第一話 プロローグ タイトルはまだついてません

暑かった夏も過ぎ去り山の紅葉も赤く色づき、まもなく空から白いタンポポの綿毛のようにヒラヒラ舞い落ちる季節になる頃、僕は産声を上げた。

農家の長男として生まれ、祖父母や母にたいそう可愛がられていた。

田舎の長男というのは、跡取りという名のもとにどの家庭でも宝物のように育てられるものだ。例外に漏れず僕もとても大事にされた。ある一人を除いては…。

それは父だった。父はあまり働くことが得意ではなく、人前では大人しく振舞ってはいたがお酒や大きなトラックが好きだった。

ある日いつものように父はお酒を飲み酔っぱらっていて、母や祖父母は畑や田んぼ仕事に精を出していた。もちろん生まれたての僕は、父と家にいた。

赤ちゃんだった僕は、もちろんお腹が空いたり、おしめが濡れたりするだけで泣いていた。無論お酒を飲んでいる父は、世話など出来るはずもなく一瞥をくれるだけであったろう。

そして、鳴き声に気づき母が家に戻ってくると父は、

「おい!うるさいからどうにかしろ!!」と言い、

二階の踊り場から階段を駆け上がろうとする母に向かい、僕を投げ捨てるのだった。

やがて雪が本降りになり始め、稲刈りが終わった田んぼが白く彩られる。

しかし僕の家では、農業機械など無かったので寒風が吹きすさぶ中僕をおんぶした母は、凍える手で稲刈りをしていた。

そんな中、ある日父はとても大きく豪華に装飾されたトラックに乗って帰ってきた。母がどうしたのかと聞くと、買ってきたんだと一言。

さすがの母もこれではもう無理だと思い、世間的には出戻りと、ひそひそ話をされながら僕をつれて実家に戻った。

母の実家では、母の両親、妹たちが出迎えてくれていた。もちろん僕も母の妹たち、僕にとっては叔母二人にそして祖父母に可愛がられ新たな生活を始めた。


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