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海外メディアにNext TikTokと称されたショートドラマアプリ「ReelShort」とは?

みなさんこんにちは!夏目です。

早いもので、今年も残すところわずかとなりましたが、日本のスタートアップ業界にとってはビッグイヤーとなったのは間違いないですね。私自身も、今年は大きなターニングポイントを迎えて、今は目の前の事業に取り組みながら、来年はしっかりとしたご報告をできるように着実と準備を進めております。詳細についてはまた来年のどこかでご報告できれば嬉しいです。

さて、そんな年末にお届けしたい内容がNext TikTokと呼ばれるショートドラマアプリである「ReelShort」についてです。現在、北米を中心に急成長している「ReelShort」は、今年の7月に一部報道で世界最大の動画ストリーミングサービスであるNetflixのUS市場における月間売上に追いつき、まだサービスローンチ(2022年8月)から一年足らずの快挙に、メディアでは「TikTokの再来か」と大きく話題になりました。

日本でも「BUMP」や、「ごっこ倶楽部」といったショートドラマサービスが急成長を遂げる中で、日本国内で「ReelShort」について検索をしたところあまり記事として取り上げられているものも少なかったので、今回は地球の裏側で躍動する「ReelShort」について解剖していきたいと思います。

Netflixを脅かす「ReelShort」

一見、アメリカ発のサービスに見えるReelShortですが、実は中国の上場企業である「中文在線」(COL Group、SZSE: 300364)が北米や、ヨーロッパ、東南アジアなどで展開するショートドラマアプリです。

この「中文在線」は2000年に、筆者の母校でもある清華大学で立ち上げられた中国最大の電子出版企業であり、2015年に中国国内の深圳取引所で上場しました。主な事業としてはオンライン小説のプラットフォームを運営し、現在は450万人を超える小説クリエイターがプラットフォーム上で作品を投稿。今では550万を超える作品がプラットフォーム上で投稿されています。そして、これらの作品をもとに、「中文在線」がIP化し、オーディオブックや、漫画、アニメ、映画、ゲーム、そしてショートドラマの制作などを行っています。

元から新規事業に前向きだった「中文在線」は、過去数年の間でメタバースや、web3など次々と手を出してきましたが、ことごとく失敗に終わり、株価も振るわず、低迷していました。ところが、2022年8月に起死回生の一手として、中国で爆発的に成長していたショートドラマプラットフォームを北米地域で展開することを決め、リリースしたところ瞬く間にアプリストアで上位にランクインし、今年の11月にはiOSストアで総合3位、エンターテイメントでは1位を飾り、ダウンロード数は一時期TikTokを超えて、メディアにも「TikTokの再来か」と大きく報道されました。

「ReelShortはアメリカ市場を征服する次の中国からの輸出品」との見出しーThe Economist
COL Groupの株価推移(5年分、Yahoo Financeより)

では、「ReelShort」はどのように北米市場を開拓したのか。まず、ショートドラマ自体は、中国で2018年から大手動画ストリーミングサービスであるiQIYIなどがショートドラマを制作し、TikTokや、Kuaishouなどを利用して、すでに縦型動画に慣れ親しんでいる中国ユーザーに対して提供したところ、大きな注目を集めました。その後、従量課金制を導入し、マネタイズの兆しが見えたところで、2020年にコロナが流行り始め、映画館などがシャットダウンする中で、ショートドラマはさらに成長を遂げました。

そして、中国国内でショートドラマサービスのビジネスモデルが一定ブラッシュアップを経た段階で、各事業者が次に目をつけたのは海外市場です。というのも、コロナ以降、中国の消費市場は低迷し、インターネット産業や、エンターテイメント産業における政府規制も増えてきたため、中国の大手IT企業にとっては”出海”と呼ばれる海外参入は必然的であり、中国国内のリソースを用いて海外市場の攻略がある一種のトレンドとなっていました。現に、2023年最もダウンロードされたアプリであるTemuや、前述のTikTok、そして同じくByteDanceの傘下であるCapCut、SHEINもそうです。ショートドラマもまさにこのトレンドに乗って、”出海”したといえます。
(中国スタートアップ・ベンチャーキャピタル業界の変遷についてはまた年始に記事として出したいと思います)

実はショートドラマを北米市場で展開する事業者は「中文在線」の子会社である「Crazy Maple Studio」以外にも、数社存在しており、中には大手ゲームデベロッパーであるネットイースもありますが、「ReelShort」が他社を圧倒的に抑え、首位に立ちます。その理由は明確で、自社制作、と「中文在線」が持つ豊富なIPです。

北米市場で展開する中国のショートドラマプロバイダー

「ReelShort」を展開する前に、「中文在線」の子会社である「Crazy Maple Studio」は、北米市場において「Kiss」と「Chapters」という小説プラットフォームを展開していました。両サービスとも、北米においては比較的好調で、当該プラットフォームを通じて、ユーザーのニーズを捉え、データを蓄積してきました。

例えば中国市場では時代劇(特に過去、未来の逆転劇)や、恋愛、戦争(特に英雄物)などがヒット題材になりますが、北米市場においてはバンパイア・狼男系(Twilightのような題材)、富豪劇などが多く受け入れられています。また、ユーザー層も、中国では大都市以外の中小都市に住む中年男性がボリュームゾーンですが、北米では家庭主婦がボリュームゾーンになります。こういった違いを初期から認識し、IPの開発に臨んでいます。

また、「Crazy Maple Studio」が事業を展開する中で、北米におけるショートドラマ市場は三つの変遷を遂げ、①中国のショートドラマに直接英語の字幕付けした時代、②中国の事業者が海外でショートドラマを撮影するが、脚本はアジア人思考の時代、③北米で撮影をし、キャスト、編集者、脚本家全て北米出身の方が担当する時代、へと変わり、「Kiss」や「Chapters」を展開していた「Crazy Maple Studio」は、その時代の中で経験を積み重ね、これらのプラットフォームを通じて、自社IPの開発とニーズ調査を実施する以外にも、自社の制作チームを着実に育てて行きました。

新規参入するプレイヤーにとっては、初の海外市場、特にショートドラマという新興領域においては基本アセットライトで、IPだけは自社開発するが、制作から監督まで全てアウトソーシングという状態で臨んだため、「ReelShort」のコンテンツ力にはなかなか及ばず、後塵を喫します。

ReelShortの作品の数々
Kissのアプリ画面
Chaptersのアプリ画面

直近の数字を見ると、アメリカにおける 「ReelShort」のダウンロード総数は1,635万回にも上り、特に10月31日以降はNetflixのダウンロード数を大きく超えています。また、サブスクリプション単体のNetflixと異なり、「ReelShort」は従量課金制をベースに展開しているため、リテンションが低く、課金ユーザーこそ少ないものの、全体のARPUは高く保ち、非公開ながらもNetflixに近い売り上げを立てているとの報道もあります。

現在、「ReelShort」のショートドラマ(約2分間)は一本あたり0.7~1ドルで、一部60本ほどで構成されています。もちろん、広告視聴などを通じて、無料でドラマを視聴することも可能ですが、2分間 x 60本 = 120分間のドラマを視聴するために、約42~60ドルを支出しなければいけません。Netflixの月額料金はスタンダードで6.99ドル、プレミアムで22.99ドル、Disney+はベーシック7.99ドル、プレミアム13.99ドルということを考えるとかなりの高額設定にはなりますが、それでも着実に課金ユーザーが増えているのも事実となります。

中国の分析サイト「雪球」より

実は、中国の事業者が北米市場でショートドラマを展開する前に、ウォルトディズニーや、ワーナーブラザーズ、アリババグループなどが$1.8B出資した「Quibi」もショートコンテンツを北米市場にて展開していましたが、プロダクトリリースからわずか6ヶ月で撤退しました。とことんハリウッドスタイルを追求するというコンセプトのもと、鳴物入りでデビューした「Quibi」はNetflixと同じく、4.99ドルから7.99ドルというサブスクリプションモデルで展開していましたが、モバイル端末にはフィットせず、加えてTikTokの台頭もあり、あえなく短期間で事業を撤退しています。

しかし、今はコロナ禍で急成長したショートドラマが世界で席巻し、従来の視聴体験や、消費習慣を変え始めています。もちろん、「Quibi」の状況を鑑みて、まだまだ判断に時間は必要だと思いますが、TikTokのような数多くのプラットフォームが存在し、可処分時間が限られている中で、ショートドラマはすでに一定のパイを占有できたのではないのでしょうか。加えて今年はAIの台頭もあり、制作から、編集、翻訳など全てにおいて効率化を図ることができ、ショートドラマ産業にも大きなインパクトを与えうると思うので、今後もショートドラマ市場を要チェックしていきたいと思います。


中国のスタートアップ市場は政府規制や、ポストコロナによって大きく影響を受けつつも、新たに”出海”という選択肢が誕生し、国内市場以外でイノベーションの道筋を辿っています。今後も「Tech in China」はそういったイノベーションを追い続け、日本のスタートアップにも参考になるビジネスモデルやテックについて記事にしていきたいと思います!

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参考文献:

ReelShort对标奈飞(附最新数据)
短剧出海,下沉无国界
短剧,披着内容外衣的买量“游戏”
中国「土味」短剧,在美国杀疯了
再聊Reelshort的恐怖增长

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