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セックス、ドラッグ、動物園

Netflix『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』(原題:Tiger King: Murder, Mayhem and Madness )

『米国では1万頭のトラが捕らわれている。野生に生きるトラは4千頭以下しかいない。』

主人公は私設動物園を運営するジョー・エキゾチック。長い金髪。顔や耳には無数のピアス。口ひげ。トラを繁殖させて”猛獣とのふれあい”を演出する裏側で違法な生体販売にも手を染める。年の離れた若い夫が二人。好きなだけコカイン・大麻・覚醒剤を与えて自分のもとに住まわせている。

彼に敵対するもう一人の登場人物。キャロル・バスキン。劣悪な環境で飼育される猛獣を救出するビッグ・キャット・レスキュー代表。頭には常に花輪。彼女の理念に共感する人々とともに保護動物を飼育する”楽園”を運営している。

ジョーの私設動物園は名前だけで実態はトラの多頭飼育。動物たちにとって決して理想的な環境ではない。本人は否定したところで動物保護団体の格好の標的にされる。キャロルの団体やPETAなどによって舞台裏が暴露され日を追うごとに劣勢に追いやられる。

この状況を打開するためにジョーはネット配信で反撃に出る。実際のところはお粗末な誹謗中傷のオンパレード。名誉毀損で訴えれば確実に負けるレベル。この絵に書いたようなヒール役にバカバカしさ半分、恐ろしさ半分。

しかしこのドキュメンタリー。決して彼だけが悪人ではない。

動物保護のことしか頭にないキャロル。この女、崇高な理念の影にとんでもない秘密を隠している。恵まれない動物の救出・保護・飼育となれば莫大な資金が必要である。ではその資金は一体どこから?

実は彼女は年の離れた夫と結婚していた経歴を持つ。それも隠し財産を持つ大金持ち。この夫が無類の女好き。キャロルとの関係が悪化するとびた一文渡さない手はずを整えて離婚するつもりだった。だがしかし。。。

夫はある日忽然と姿を消す。

そして全財産は都合よくキャロルの手に。

周囲の人間はキャロルが”やった”と信じて疑わない。

ここに目をつけたジョー・エキゾチックは「あの女は自分の夫をミンチにしてトラの餌にした」とデマを流す。この言い草はあまりにも酷いが、状況証拠はキャロルが限りなく黒に近いグレーであることを示している。

やばい、このドキュメンタリー全員狂ってる。

後に苦境に陥ったジョーを資金面で支える新たな人物が登場して物語はますます捻れた方向へと進んでいく。

この作品は私設動物園vs動物保護活動家という社会問題がテーマではない。動物王国同士の戦争を描いているのだ。

荒唐無稽で奇想天外なエピソードの連続は素直におもしろい。

しかし画面に映し出される肥大した私欲と歪んだ愛は、形を変えて我々のすぐそばにも存在しているような気がしてならない。

おやすみなさい。


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