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『ユニコーン・ウォーズ』激甘ポップでコーティングされた極めて愚かな戦争の歴史

『ユニコーン・ウォーズ』は、アルベルト・バスケス監督による2022年の長編アニメーション映画である。テディベアとユニコーンの戦争を背景に、魔法の森に送り込まれたクマの兄弟の物語を描く。監督は、戦争の恐怖、宗教、暴力の本質といった複雑なテーマを探求している。手描きアニメーション、鮮やかな色彩、不穏なイメージを通して、古典的な戦争映画の要素と、宮崎駿作品を彷彿とさせる環境保護のメッセージを融合させた。結果として生まれた作品は、視覚的に魅力的で思考を刺激する、大人向けアニメーション映画の異色作となっている。

『ユニコーン・ウォーズ』の主なテーマは、戦争、宗教、家族、特に兄弟間の競争である。これらのテーマは、擬人化されたテディベアとユニコーンの戦争という、一見気まぐれな物語を通して探求されている。

劇中の戦争は兵士の目を通して、特に若いテディベアの新兵であるゴルディとアスリンの兄弟を通して描かれる。戦闘シーンは、アニメ映画としては珍しく残忍で血なまぐさい。また、軍国主義と、盲目的な信仰、恐怖、憎悪のプロパガンダを通じて若者を戦争に駆り立てる様子も探求している。

また組織化された宗教、特にカトリック教会に対する痛烈な批判を提示している。テディベアは、ユニコーンに対する聖戦を正当化するための宗教的テキストを持つ。この宗教は軍国主義的イデオロギーを支えており、テディベア社会における宗教指導者の影響力は、教会と国家の分離の重要性についての疑問を提起している。

一見すると温かくも見える主人公の家族は、アスリンとゴルディの兄弟関係を中心に展開される。幼少期からのアスリンのゴルディに対する嫉妬と虐待は、映画全体を通してエスカレートし、最終的に悲劇的な結末に至る。この物語は、兄弟間の競争、嫉妬、愛と憎しみの複雑な関係を探求している。

映画の視覚スタイルもテーマ探求に重要な役割を果たしている。テディベアと彼らの世界は一見無邪気に描かれる一方、ユニコーンと森はより現実的で美しく描かれ、両勢力の対比を強調している。また、リサ・フランクを思わせる鮮やかな色彩と、エル・グレコを彷彿とさせる構図を用いて、不穏でシュールな雰囲気を醸成している。

本作の影響源として、古典的なディズニー映画「バンビ」が挙げられる。特に森の環境の描写に見られる。色彩の使用はメアリー・ブレアなど、ディズニーの古典的アーティストの影響を受けているが、より暴力的で大人向けの内容となっている。

制作における最大の課題は、限られた予算と世界中のスタジオとの遠隔作業だったそうだ。制作費は300万ドル未満という低予算で、パンデミックの発生により、制作チームはリモートワークを余儀なくされている。技術的にも、ユニコーンの疾走シーンなど、困難な課題に直面した。

音楽面では、バスケス監督は宗教音楽とミックスした、エレクトロニックでアンビエントな音楽を目指している。ブルガリアのフォークミュージックを現代のエレクトロニック音楽と組み合わせるなど、独自の音楽性を追求されている。

バスケス監督は、単なる善悪の対立ではなく、より深遠で複雑な戦争の様相を描写することに注力した。『ユニコーン・ウォーズ』は、邪悪の本質、環境、人間の愚かさを探求し、『地獄の黙示録』などの古典的戦争映画からインスピレーションを得て戦争の心理的影響を表現している。アニメーションという媒体を通じてこれらのテーマを描くことで、戦争の残酷さと不条理さを際立たせている。その戦争描写は表面的な対立を超え、イデオロギー、宗教、人間の心の暗部を探る多層的なものとなっている。

原題:Unicorn Wars 監督:アルヴェルト・バスケス(2022年)


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