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『First Cow』1820年代のオレゴンを舞台にドーナツ屋で一儲けしようとする男たちの物語

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物語の冒頭は現代と思われる場面から始まる。野原で飼い犬を放していた女性が犬の不自然な動きに気づく。近づいてよく見るとそこには白骨死体が埋まっていた。一体ここで何が起きたのだろうか。

ここから時代は一気に遡り1820年へ。フィゴウィッツ(通称クッキー)という名の料理人が粗暴な狩人たちと共にオレゴンを旅している。ある夜、彼はロシア人を殺して逃亡中の中国人移民キング・ルーと出会う。フィゴウィッツはこの中国人を一晩かくまい逃亡の手助けをする。

その後、フィゴウィッツは狩人たちと別れて街に出る。もちろん街と言っても開拓時代ということもあり、今で言う街らしさはない。全体的に薄汚い雰囲気が漂っている。街の中心の酒場でケンカを見物していると座席の向こうから親しげに話しかけてくる男がいる。よく見ればルーではないか。二人はルーの掘っ立て小屋に行き再会を祝して乾杯する。交わされる他愛もない会話から彼らのこれまでの人生や将来の夢が見て取れる。そして地元権力者(原文:チーフファクター)の家にこの土地で初めての乳牛がやってきたことが話題に出る。フィゴウィッツはボストンでベーカリーに勤めていたことを思い出し、ルーと共に牛乳を盗み出す計画を立てる。闇夜に紛れて牛の乳をしぼるフィゴウィッツ。木の上で見張りをするルー。手に入れた牛乳・小麦粉・はちみつで作ったオイリーケーキ(揚げドーナツ)を街で売ってみると大評判となる。毎回行列ができるほどの人気ぶりに二人の牛乳泥棒に拍車がかかる。

ある日、いつもと同じように商売をしているとチーフファクターが二人の前に現れる。もちろん牛の飼い主は牛乳の出どころを知らない。彼はその場で食べたオイリーケーキの味を絶賛し、次の来客時にティータイム用のデザート・クラフティーを作って欲しいと依頼する。怪しまれることを恐れて断ることもできず、依頼されたクラフティーを持参するフィゴウィッツとルー。満足げなチーフファクターの顔を見てフィゴウィッツは「そろそろ潮時だ」と感じる。しかしルーは「あいつはバカだから気づくわけがない」と言い張る。この時のフィゴウィッツの悪い予感は後に的中する。

おじさん二人のケーキ屋さんは果たしてどうなってしまうのか。そして冒頭に登場した白骨死体の正体とは。登場人物たちの話す英語にそれぞれ独特な訛りがあるのが印象的だった。英語に詳しい人ならキャラクターの階層や身分の描き分けまで理解できるのかもしれない。ジョナサン・レイモンドの小説『The Half-Life』をケリー・ライカートが映画化した作品。起業家精神や白人とアジア人の友情を中心とした穏やかで、終盤に向けて緊張感の高まる西部劇。いずれ日本でも劇場公開されるはず。(※MUBIで配信がスタートしましたが日本は対象外です)

●作品情報 監督:ケリー・ライカート 上映時間:122分


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