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2021年MUBI配信映画ベストテン

2021年も残すところごくわずか。今年もたくさんの映画を観ました。劇場公開作品・配信作品のすべてを振り返るのはもう少し先にしたいと思いますが、今回はMUBIで視聴した125作品の中から10本の映画を選びました。

1位:『The Dawns Here Are Quiet』

1972年アカデミー国際長編映画賞ノミネートのソビエト映画。舞台は1942年春の東部戦線。酒を飲み女遊びに明け暮れる男性兵士に悩まされていた軍曹のもとに女性部隊が派遣されてくる。前半では女性兵士たちがそれぞれに抱える戦争で負った心の傷、叶わぬ恋、対空戦の勝利、つかの間の休養が描かれる。

後半はいよいよ敵との直接対決。ドイツ兵2名の目撃情報を得た軍曹は5人の精鋭と共に最前線へと向かう。泥沼を渡り目的地に着いた一行はさっさと敵を片付けて帰るつもりが、対岸に16名の敵兵を発見。ここから天に見放された地獄の戦闘が始まる。前後編合わせて158分の大傑作。スタニスラフ・ロストツキー監督作。ロシアの作家ボリス・ワシーリエフによる小説『朝焼けは静かなれど』が原作。2015年には映画『レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦』としてリメイクもされている。

2位:『Play It Safe』

ロンドンの演劇学校に通う黒人青年が主人公。同級生の白人たちはフレンドリーで偏見とは無縁に見える。しかし彼らから頼まれた役はステレオタイプのチンピラ。「彼らのために協力してほしい」と教師も背中を押す。違和感を残したシーンの後に、ロールプレイの授業が始まる。ランダムに引いたカードに描かれた動物を生徒たちがそれぞれ演じる。「don't play it safe」と自分の殻を破るように促す教師。黒人青年が引いたカードは猿。困惑する周囲の視線をよそに、彼は生々しい猿の演技を見せつける。たった13分で無自覚の差別をえぐり出す。

3位:『Sole』

身重のポーランド人女性レナは、子供のいないイタリア人夫婦に赤ん坊を売ることに同意した。夫婦の甥であるエルマンノは、代理出産を禁じる法律を回避して養子縁組の近道とするために、赤ちゃんの実の父親を装わなければならない。同居を余儀なくされた若い二人の関係性の変化を描く。

血縁がないにもかかわらず子供と対面した青年に芽生える父性。出産しても子供に愛着を見せない母親。手放すことを前提に冷静を装っているからこそラストで爆発する感情に力がある。私の中では『Juno』よりも好評価。人物の上に空白を取る構図も独特でとても好みだった。

4位:『I Won't Come Back』

主人公の大学院生が孤児院時代の友人にドラッグを預けられたことをきっかけに警察に目をつけられ逃亡者となる。年齢より若く見えることを逆手に孤児院に潜り込むが身元が割れる。そこで出会った少女との連帯。周囲からいじめられる少女を救い出したことがきっかけに、少女の祖母が住むカザフスタンへの二人旅が始まる。ロシアに帰る場所のない二人が対立と和解を繰り返しながらヒッチハイクを続ける。突然の悲劇的な展開と美しいラストも含めて傑作ロードムービーだった。

※下の予告編はYouTubeのサイトで再生できます

5位:『リコーダーのテスト』


キム・ボラ監督による2018年公開『はちどり』の前日譚を描いた29分の短編作品。リコーダーのテストが近づく小学生の少女を主人公に、彼女の家庭環境を描く。”子役”という言葉は明らかに不適切なほどに名演技。80年代のジェンダー観、家庭における子どもの立ち位置、悪しき家父長制のしわ寄せがどこに向かうのか。この家族に漂う重々しい空気に潰されそうになる。たどたどしかったリコーダーの音色が最後に軽やかに響く。主人公のそう遠くない将来は『はちどり』で確認すべし。

6位:『The Bones』

「1901年制作の世界初ストップモーションアニメが南米チリで発掘された」という架空の設定。作品の中で少女が執り行うプリミティブな儀式。バラバラの人骨に少しずつ肉が付き、皮が付き、人間の姿へと蘇る。生首を散歩する少女の姿は絶妙な気味の悪さを纏っている。蘇ったのはそれぞれ19世紀と20世紀のチリで憲法起草に関わった男たち。ピノチェト統治下の暗黒時代を経たチリという国を知っていれば読み取れる情報も増えるはず。ストップモーションアニメとしての完成度の高さ、表現の豊かさも伝わってくる。アリ・アスターがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた短編作品。

7位:『Purple Sea』

燦々と照りつける太陽、青い空、青い海。地中海を漂う身体にくくりつけたGoProが水面と水中の往復を撮影する。水面には泣き叫ぶ男女の声が響き、水中には置きどころのない無数の足が漂う。自身も難民としてシリア脱出した監督が一部始終を撮影する。難民の経験する悲劇を一人称視点でこれでもかと見せつける。67分の漂流体験。こんな作品はこれまで観たことない。

8位:『The Unseen River』

不眠症の治癒を求めて寺院にやってきた若い男女。30年ぶりに再開した中年男女。メコン川を前に二つの物語が進行する。雄大な水の流れが時間の流れを象徴する。ほとんど起伏のないドラマだが、戻れない過去と見えない未来へのそれぞれの思いが描かれる。ベトナム人監督による23分の短編作品もっと肉付けすれば十分にアートハウスで上映される作品になることは間違いない。

9位:『Songs My Brothers Taught Me』

先住民が暮らす米国サウスダコタ州パインリッジ居留地に住む青年と妹。父を不慮の事故で亡くしアルコール密売で生計を立てる。青年はガールフレンドとの色恋、妹は本来なら子どもがいるべきではないライブ会場に足を踏み入れる。それぞれの成長物語と挫折。青年は居留地を離れLAで仕事を始めようとするが旅立ちの日は来るのか。今やマーベル作品まで手掛けるクロエ・ジャオ監督の2015年公開第一作。彼女の雄大な自然を映し出す手法はこの時からすでに確立されている。邦題は『兄が教えてくれた歌』。日本公開もそう遠くないのでは。

10位:『妈妈和七天的时间』

90年代中国のとある農村を舞台にした7日間の物語を12歳の少女を主人公に描く。前半の変化の乏しい農村の退屈な映像が一変。後半は出産を迎えた母親に臨む悲劇とそれを受け止める村の人々。中国らしい賑やかな葬儀で母を失った悲しみがピークを迎える。李冬梅監督の経験をもとにした作品。英題『MAMA』日本語訳すれば『母と七日の時間』。小津安二郎の影響下にあることは監督自身が公言している。

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