Limegreen beryl

ノックも無く
スタジオの扉が開く

見知った
けれど
全く違うその瞳が
テギョンをとらえ
フッと笑みを宿す

テギョンは目をそらし
鍵盤に指を滑らせる

「お疲れ」
「あぁ」

「何やってんの?」
「お前のアルバム候補のデモ作りだ」

「ふうん」

テギョンは心の中で溜息をつく
まだ慣れない
色々と・・・
だがそれを表面化させる事はない

以前のミナムになら
間違いなく意見し
態度を改めさせていただろうが
今のミナムにそれをしないのは

ぐちゃぐちゃに入り組んだ
事情やら
感情のせいもあった

唯一きっぱりと言い訳するとすれば
ミナムは評価に値する
アーティストであったし
<A.N.JELL>に上下関係は必要ない
それはテギョンの中にある
揺るぎないこだわりだった

「そうだ
テギョン、これ」

例えばこの呼び方も
「兄貴」と呼ばれるよりはまだマシと
違和感を飲み込む

「何だ、それは」

一瞥しただけで
鍵盤へと視線を戻し
興味なさげに
テギョンは答えるが

「あいつから」
とミナムは答えた


その一言に
その目は
「それ」に
くぎ付けになる

ピンクの小さなリボンがついた
「それ」
をくれた
「あいつ」
は簡単に思い当たる

手を伸ばしたテギョンの
手のひらに乗ったそれに
テギョンの表情が微かに緩む

ミナムはそれを察知して
微かに微笑んだ

「で、お前の方の詞は
進んでるのか?」

話を仕事の事に逸らしながらも
テギョンは丁寧な扱いで
リボンを解き
包みを開ける

箱の中には
ライムグリーンに光る
小さなピアスが入っていた


ふとあの
芳香と酸っぱさと
切ない記憶が蘇る

目の前にいる
ミナムの知らない
ミナムとの記憶

テギョンはそれらをまた
丁寧にしまうと言った

「あいつに
よろしく言っておいてくれ」


テギョンの言葉に
ミナムは怪訝そうな表情を浮かべ
テギョンの眼前に顔を寄せる

「それ
俺が言う必要ある?」

言われてテギョンは絶句する

確かにそうだった

もっともな指摘

ふと思う

その疑問を口にせず
しばしミナムを
見つめると

テギョンは作業に戻りつつ

「後で電話しておく」

とだけ告げ
ヘッドフォンを
つけた

今度はミナムがテギョンを見つめ
ふぅとため息を吐くと
テギョンの片耳から
ヘッドフォンを持ち上げた

「あいつんちに
届け物に行ったら
預かった

俺らは世界的スターだけど
俺とあいつは兄妹」

そこまで言うと
ミナムは笑顔を見せて

「それだけ」
と継いだ

そうして
ヒラヒラと
手を振りながら
スタジオを出て行った

テギョンは
首を左右に振り
苦笑を浮かべる

何と言ったらいいのか
色々本当に複雑な
関係やら
気持ちやら

でもそれは
これまで長く長く続いた
テギョンの消えない淋しさを
忘れさせてくれるもので

テギョンは改めて
小箱を開け
ライムグリーンの
輝きを
柔らかな表情で
見つめていた





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