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水中写真と構図について考える⑤ ~リーディングラインを引く~

こんにちは、上出です。
今日は構図コラムの第5回です。

今回まではちょっと理論的な話になりますが、次回からはもっと実践的な話に入っていこうと思います。

それでは予告通り、今日はリーディングラインについて考えていきます。


まずは、前回共有した前提を確認しましょう。

①人の目は線を追う性質がある。人は線そのものにイメージを持っていて、そこから逃れられない。

②線は必ずしも実際の線として引かれているわけではない。明暗や色のグラデーションだったり、視線だったり、様々なもので線は暗示されている。

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前回の構造線というのは「縦・横・斜めの線はそれぞれ特定のイメージを与える効果があるんだよ」という話でした。

それに対してリーディングラインというのは、「写真を見る人の視線を意図的に流すための線」です。


個人的には、水中写真におけるリーディングラインの役割は2つに分けられると思っています。

A:写真の中の重要な箇所に視線を誘導する

B:視線を手前から奥に流して奥行きを強調する


まずはAから見てみましょう。

先に言いますが、僕は「リーディングラインを引いて主役に視線がいくようにしよう」とか、普段考えていません。
別に主役じゃなくて「自分が見せたいもの」でもいいんですが、そうだとしても、そういう作例もあまり見当たりませんでした。

でも、後から見てみて「なんかいいな」と思う写真は、意外とAのリーディングラインが引けてたりしました。
下の2枚の写真を見てください。
どちらも主役に向かって線が集まっていますよね。

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上のクジラの写真のように、光の筋が主役に集まっている写真はけっこうあって、これはなんだか神々しい印象を与える気がします。
狙って撮ってるわけではないんですが、特にクジラの写真を見返してみると、そういうカットがけっこうあって、お気に入りのものが多かったです。

エビの写真は線が主役に集まるように狙って撮ってはいますが、こんなシチュエーションあまりないですよね。
「へー」くらいに思ってもらえればいいかなと思います。笑


おそらく水中写真においては、特に僕の撮り方だと、「主役がどこだか(なんだか)わからない」ということがあまりないですよね。

だから、わざわざリーディングラインで主役に視線を誘導することの意義がそんなにないのかもしれません。


一方、例えば下の卵の写真のように、主役が画面の中で小さくて、しかも同じものがたくさんあって、という時は、写真を見た人がスッと主役を見つけられるような配慮が必要です。
この写真はボケの使い方で線を引いているとも言えますが、実際には他の色々な要素も使って主役を目立たせているので、必ずしもリーディングラインの効果とは言えないのかなと思います。

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では、

B:視線を手前から奥に流して奥行きを強調する

について考えましょう。
この使い方は、自分の作例を見返した限りでは、「マクロではなかなか使えないけどワイドではけっこう使える」と言えそうです。

下のサンゴの写真は、水路が左下から右上に伸びていて、誰でもこの線を自然に追ってしまうはずです。
結果的に、視線が手前から奥に流されて、奥行きを感じましたよね?

なぜ第3回で急に「奥行き」に触れたのかと言うと、今日この話がしたかったからです。
個人的には、水中写真においてリーディングラインを意識する最も大きな意義は「奥行きを強調できる」ことだと思っています。

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ちなみに、奥行きをさらに強調する簡単な方法は、「縦構図」を使うことです。
下の写真では、光そのもの、光の当たった水底、ダイバーの目線(カメラの向き)で線を引いて、手前から奥に視線が流れるように工夫しています。

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下のヨスジフエダイの群れの写真は、明らかな線は見えないかもしれません。
しかしこれも、魚の向きを利用して、左下から右上ににリーディングラインを引いている(示唆している)と言えます。
自然と左下から右上に視線を流すことである程度奥行きも強調していますが、この写真に関しては、言いたいのは別の事です。

この作例では、左下の群れが、視線の入り口になっています。
「入口」を作ってあげると、スムーズに視線誘導ができるようです。
言い方を変えれば、狙い通りの視線誘導がしやすくなるということですね。

一方、視線の出口を作ると「解放感」を与えられる反面、視線がそのまま画面から出て行ってしまうというデメリットもあります。
この写真だと、右上が「出口」になっていると言えそうです。
まあ、厳密に考えすぎなくてもいいですかね。

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視線が画面から出て行ってしまうのは、なぜデメリットなのでしょうか?

一般的に、「いいな」と思う写真は、長く見てしまうものです。
しかも、「長い」だけでなく「隅々まで」見ようとすることが多いんですよね。
おそらく皆さんにも、そういう経験はあると思います。

これを逆説的に考えてみます。
「長く見てもらえる作品」「隅々まで見てもらえる作品」を作ることができれば、「いいな」と思ってもらえるのでしょうか?
感覚的にはたぶんそうなのだろうと思うのですが、個人的にもまだ答えが出ていません。

「見る人の視線を出来るだけ長い時間画面内に留めて、隅々まで見てもらえる写真(絵)がいい」というのは、色んな本に書いてあります。
でも、何でそうなのかということがどこにも書いてないんです。

ひとまずここでは、何でそうなのかは置いておいて、リーディングラインに話を戻しましょう。


画面内に視線を長く留めておくために、リーディングラインで画面内を周回させるというテクニックがあります。
構造線は縦線とか斜線とか、基本的に直線の話でしたが、リーディングラインは曲線でも構いません。

下のサンゴの写真は、撮影時に「リーディングラインを」という考えはありませんでしたが、あえて根の亀裂の部分を入れてみました。
結果的に、画面の右下の明るい部分が入口になって、奥に流れて、そのまま左にカーブして、手前に戻ってくるような視線の流れになりませんかね?

こうやって、視線をぐるっと回すことができると、長く隅々まで写真を見てもらいやすくなります。
周回する過程で、奥行きも感じられたのではないでしょうか。

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ちなみにこの「写真を長く隅々まで」見てもらえると「いいな」と思ってもらえるという話、吊り橋理論で説明できると書いているブログもあり、個人的にはなるほどなあと思いました。

吊り橋の揺れでドキドキする
→「ドキドキしているのは、目の前の女性が素敵だからだ!」
→女性を好きになる

写真を長く隅々まで見る
→「じっくり見ているのは、この写真が素敵だからだ!」
→写真を好きになる

ということだそうです。


ちょっとボリューミーになってしまいましたね。すいません。

今日はこの辺にしておきましょう。

実際僕も、撮影する時にリーディングラインを意識していることは、これまでほぼありませんでした。
明確に意識していたのは、最初に紹介したサンゴと水路の写真くらいでしょうか。

でも、後で写真を見返してみると、「なんかいいな」と思う写真は綺麗にリーディングラインが引けていたりするんですよね。
最後に、宿題をひとつ出して終わりましょう。

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このイルカの写真、自分でも気に入っていますし、周りの方からの評価も高かったです。

ここまで考えてきたリーディングラインの引き方や効果を思い出して、この作例ではどのような使われ方をしているか考えてみてください。

ちなみに、明確な正解があるわけじゃないですよ。
そもそもこのコラムは「一緒に考えよう」というスタンスなので。


第5回まで内容がちょっとヘビーで疲れたと思うので、次回はテイストを変えます。

「写真の用途(SNS・フォトコン・プリント等)によって構図は変えるべきなのか?」

というテーマで考えていこうと思います。

お楽しみにー!

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