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水中写真と構図について考える⑨ ~余白の役割と活かし方~

こんにちは、上出です。
今日は構図コラムの第9回です。

今回は、「余白を生かした構図」というテーマについて一緒に考えていきましょう。
きっとかなり深いテーマなので、丁寧に慎重に、かつできるだけシンプルに話を進めていこうと思います。
そんなことができるのかは知りませんが。笑

■日本人と余白

「芸術と余白」について語られるとき、しばしば引き合いに出されるのが「日本画」です。
日本画、あるいは日本庭園では、余白を生かして構図が設計されています。
余白もデザインの一つの要素と捉えるという感覚は、皆さんもしっくりくるのではないでしょうか?

一方、欧米の歴史的な名画では、いわゆる白い余白というのはあまりなく、全体が塗りつぶされているものが多いようです。
欧米では伝えたいことは伝える文化、日本では含みをもたせて感じてもらう文化、と言うとイメージが湧きやすいかもしれません。

SNSで海外のフォトグラファーが撮影した水中写真を見ていても、僕たちが好んで撮影している水中写真とは全然違うことがわかります。
色使いやコントラストのつけ方が違うのは明らかですが、余白の使い方にも違いがあると思いませんか?

とは言え、欧米に余白の文化が全くないとは、僕は思っていません。
ちょっと高級なフレンチかイタリアンに行った時のことを想像してみてください。
「こんなでかい皿テーブルに乗らねえよ!」という白い器に上品なお料理がちょこんと乗っている光景は、誰でも一度は見たことがあるはずです。
アメリカにそういう文化があるのかは知りませんが、少なくとも西欧には余白を生かすという概念がありそうですね。

■水中写真における余白とは何か

余白というのは、何も描かれていない、何も写っていない、つまりは何も無い部分のことです。

と言ってしまえば簡単ですが、絵ならともかく、写真で「何も写っていない」部分なんてありませんよね。
写真を見た方が早そうなので、下の2枚を比べてみましょう。

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どちらもクマノミ卵の写真です。
片方は卵が画面いっぱいに埋め尽くされていて、余白がありません。
もう片方は、ボケを使って、何も写っていない(何が写っているかわからない)部分が存在します。
この「被写体がはっきり写っていないスペース」が水中写真における余白だと考えられます。

下の写真の方が、より「余白っぽい」かもしれません。
「余白」ってそもそも「白」って字が入っているので、余白の基本は白なんだと思います。

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もちろん水中ワイド写真にも余白は存在します。
下の2枚、どちらに余白が多いか一目瞭然ですよね。
ワイドの場合は、海や水底が余白の役割を果たすことが多そうです。

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ここまでは、当たり前というか、みんな知っている話だと思います。
被写体が何も配置されていないスペースが水中写真の余白になる、という話でした。

■受け手にとっての余白

これは書くかどうか悩んだのですが、せっかくなので書きます。
ここまで書いてきたのは「写真の中に存在する実際のスペース」の話です。
一般的に、余白というのは、そういう文脈で語られるものだと思います。

ただ、個人的には、
スペースとしての余白はなくても、受け手の想像力を広げる余白はあるのではないか?
とも思っているんです。

例えがわかりやすいかどうか何とも言えませんが、下の2枚の写真を見てください。

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上の写真の方が、スペースとしての余白は広くとってあります。
下の写真は、クジラが目一杯写っていて、あまり余白がありません。

でも…です。
描き切らないことで、想像の余地を残してあげることもできると思うんです。
この写真で言うなら、あえてクジラの身体全体を写さないことで、受け手があることないこと想像を膨らませられるんじゃないかなと。

映画や小説で、「え、それで終わり?」というの、けっこうあるじゃないですか。
それと似た感覚です。

これ以上は深掘りしませんが、

・写真の中に実際に存在するスペースとしての余白
・受け手があれこれ想像する余地としての意味的な余白

は、時には分けて考えてもいいんじゃないかと思っています。

■余白の効果

余白は水中写真にとってどんな効果があるのか、どう生かすべきなのか考えてみましょう。
その効果は、ざっくり3つに分けられると思います。

①主役が引き立てられる

想像してみてください。
買ったばかりの真っ白なTシャツの胸の辺りについてしまった、トマトソースパスタの染みを。
目を背けようと思っても、これでもかってくらいに主張してきますよね。

あれと一緒です。

余白の中にポツンと何かがあると、その存在感や美しさが引き立てられます。
僕はよく、砂地をぼかしてとばして被写体だけが浮き上がってくるような撮り方をしますが、この効果を狙っています。
邪魔なものはできるだけ排除して、非現実感を高めたいという狙いもありますね。

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②ストーリー性を演出できる

「余白とは写真にストーリーを与えるうえで最も重要な概念だ」

そんな名言はありませんが、僕はそう思っています。

これは僕が常に意識していることなので、写真を見てもらった方がわかりやすそうです。

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生き物の進行方向の先、あるいは目線の先に広めのスペースを取ってあげると、写真を見た人がその先のストーリーを想像しやすくなります。
はっきり言って、僕のマクロの構図はそんな意図で撮られたものばかりです。

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逆に、進行方向や目線の先のスペースをあえて狭くすると、緊張感や寂しさを表現しやすくなります。
ちょっと勇気がいる構図ですが、試してみるとおもしろいですよ。

③見ていて心地いい

写真をどんなサイズで見るかによっても違うと思うのですが、余白のある写真って、なんだか見ていて心地いいんですよね。
被写体がドーン!と写っている写真って、ずっと見ていられなかったりするじゃないですか。

余白がうまく取られていると、写真に入っていきやすいのかもしれません。
最初に書いた、日本人特有の感覚もあるのかもしれませんが。

本来遠いはずの水中世界がすぐそこにあるような、写真と僕たちの境界を自然に取り除いてくれるような、そんな効果が余白にはあるんでしょうか。

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■余白は白か青じゃないといけないのか

先ほども書きましたが、「余白」と言うからには、基本は白なんだと思います。
白が一番主役の邪魔をしないし、清潔感があって万人受けしそうです。

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じゃあ、黒は余白になりえないのか?と言えば、そんなことはないですよね。
下の写真の黒い部分を余白と呼べないなら、何と呼べばいいのでしょうか?笑

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とはいえ、やはり黒い余白は、白い余白とは受け手に与えるイメージが異なります。
清潔感よりも、ミステリアスな雰囲気が強まるような…そんな気がしませんか?

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「主役を引き立てる」という意味においては、被写体の色が明るい場合には、背景は黒や暗めの色の方が理にかなっていると言えそうです。
上のフタイロカエルウオのように、被写体の色が暗くても、黒い背景で普段と違った雰囲気を演出することもできます。

もちろん、余白は白と黒以外でも作れます。
少しごちゃごちゃはしてしまいますが、下の写真の、ウミウシ以外の部分は余白と言っていいはずです。
白の清潔感や黒のミステリアス感はありませんが、先ほど取り上げた余白の3つの効果は発揮されていますよね?

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水中ワイドの場合は、基本的には海の明るさをどうするかくらいの話なので、割愛しますね。
明るい青にするか、暗めの青にするか、黒くしてしまうか、色々あるとは思うのですが。

■余白のデメリット

なんでもかんでも余白を作れば良いのかと言うと、そうでもありません。
不必要な余白を多く作ってしまうと、ただ寂しい印象を与えるだけになってしまいます。
あるいは、アーティスティックだけど、実際なんだかよくわからない、という写真になる可能性もあります。

この辺は好みや感性にもよるので、必ずしもそれがダメというわけではありません。

自分なりに「余白を作る意味」を考えた上で、

どこに
どれくらい
どんな色で

余白を作るのかを決められるといいのではないでしょうか?
余白の作り方しだいで、全体の統一感や作品の洗練度も変わってきますよね。

それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました!

次回はいよいよ最終回。
「構図のセオリーを外す」ということについて考えていこうと思います。
お楽しみに!



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