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石と土

(この記事はFacebookへの投稿に加筆したものです。主に、文末の「最後に、石と土という素材について」部分を書きました。)

三和土について

タタキと読みます。

コロナ禍の初期に、ポッカリと時間ができた方は多かったのではないかと思います。

私の場合は、大学の授業がしばらくできなくなり、
zoomによるオンライン授業などの環境が整うまでの間
2ヶ月くらいそんな状況がありました。

そんな時、何をするか?

今となっては、懐かしい気もしますが、
われわれに等しく与えられた時間の使い方の
ノウハウが問われた期間だった気もします。

私はというと、
軽トラックの後ろに積むキャンピングカーユニットを
DIYで作って
自転車を積んで方々を巡り
車中泊自転車旅行に勤しんでいたのと

もうひとつ、これはやって良かったなと思えることが、
自宅でもある南町テラスの通り土間に
池子石(いけごいし)という、昔、逗子の池子付近でかつて産出していた古い石を
自分ひとりで敷いた事です。

ちょうどその頃、
いつもお世話になっている阿部工務所さんの現場で
まとまった量の古い池子石をタダで譲って頂きました。

もしかしたら江戸期に遡るかもしれないという
旧家の改修工事を阿部工務所さんでされていて、
その家の基礎に使われていた池子石です。

改修後は使わないので
現場に埋めて処分してしまう予定だという事で
お願いして軽トラックで取りに伺い
重いので何度にも分けて運び出しました。

そのまま敷くにはサイズが大きいので、
鎌倉の石屋さんに相談して、
半分の厚みに割って頂き、
小坪の坂道を苦労して
南町テラスまで運び入れました。

石場建ての古民家の土台の下の基礎に使われていたので、
サイズや形状はかなりのバラつきがあり、
できるだけ表面を揃えながら乱張りするのが
唯一の方法でした。

元の石の形がまちまちなので、その形に合わせながら石を並べていきます。これが乱張り。石の隙間を埋めるために、三和土を施工してみました。

乱張りというのは、形が不揃いなものを、パッチワークのようにうまくレイアウトしながら張っていくやり方です。
同じ形の部材を並べるのに比べて、複雑な表情は出しやすいのですが、
下手をすると田舎っぽい、洗練されない、ヤボったいなどと形容されるような
いただけない印象になりやすいという難しさもあります。

仮置きして並びを確認し、
納得がいったら下に砂を入れて固定していく。
固定には極力、セメントなどを使わないようにしました。

石本泰博さん写真集「桂離宮」を見ながら
並べた池子石の敷石。

柔らかいので、永く使い込むと
次第に摩耗して落ち着いてくるのではないかと
エイジングを楽しみにしています。

私が不器用に並べた池子石の通り土間。
カフェのお客様は文句も言わず歩いてくださっていますが
乱張りしたため、
いろんなところに隙間が開いており
ちょっと危ない気もします。

気になる箇所があったので、最近になって
実験的に、以前からやってみたかった
三和土(たたき)を打ってみました。

三和土の材料は、3つだけです。
そのうちひとつを除けばとても簡単で、
土と消石灰です。
土は他の記事でも登場する、身延町湯之奥という集落の、江戸期の古民家の崩れた壁土を使いました。

消石灰はホームセンターなどで20キロ600円くらいで
手に入る気軽な材料です。
唯一、誰もが困ってしまうのが、ニガリですが
これまで何年も海水を使った塩炊きをやっていたので、
自家製のニガリが取ってありました。

これを配合して練って叩き締めるだけ。
面積も小さいので、施工は一瞬です。

南町テラスの石張りの通り土間、旧い池子石には採石時のタガネの跡が見られます。
隙間には雑草が生え、雨がかりには苔が生え、普通、石といえば冷たくて硬い印象かもしれませんが、
「池子石」は柔らかいせいか、なんだか優しい感じの素材です。

実験なので使いながら観察を続けていますが
半年近く経過した今も三和土は
とても綺麗な状態を保っています。

最後に、石と土という素材について

昭和の初期には採石が中止され、今は全く取れなくなった貴重な「池子石」。
小坪は旧いまちなので、路地の周辺に、「池子石」をまだたくさんみることができます。南町テラスの近くの坂道の擁壁や、天照大神社の石段にも使われています。

天照大神社(逗子市小坪)の100段以上ある石段も全て「池子石」でできています。

お隣の鎌倉エリアでも似たような石が取れ、そこでは「鎌倉石」と呼ばれています。

北鎌倉の浄智寺の石段は「鎌倉石」でできているため、長い年月で削れなんとも言えない雰囲気です。

また、葉山エリアでは「佐島石」横須賀エリアでは「鷹取石」など、それぞれ地元の採石地の名前で呼ばれています。これらは実際にはほとんど同じような組成なので、見て区別がつけられるようなものではありません。実は、南町テラスの石も、譲っていただいた旧いものなので、もしかすると、「鷹取石」だったりするかも知れません。この辺りは私も結構適当に、逗子市民としての地元愛から「池子石」と呼んでいるんだとご理解ください。

そう、石には、思わず地元の名前をつけたくなるような、何か独特の愛着が湧いてしまう。それぞれの地域の住民が、こんな愛着を持ち続けてきた結果、沢山の名前が生まれてきたのではないでしょうか。

かつては身近に存在した地元の石を使った文化。

石が取れなくなったことにもよりますが、コンクリートに置き換わることで、石の加工技術の多くはすでに失われてしまいました。
実際、新しい擁壁や路面舗装として石が使われることはなく、殆どがコンクリート製です。

石や土を扱ってわかったのは、決して、新建材が石や土より合理的に優れているわけではないということです。

①コスト
石や土はあまり需要がないので、今回のように不要な方からの情報をキャッチすればタダで手に入る可能性がある。一方で、コンクリートは素材の値段は石や土に比較して安いかもしれないけど、とにかく購入しなければ手に入らない。この際、むしろお金を出して買うという感覚は見直すべきかもしれない。

②施工
土や石については、手間はそれなりにかかる。ただし、施工には素人でも、見よう見まねででき、参入しやすい。一方で、コンクリートも手間はそれなりにかかる。施工は、通常、専門業者によって行われることが多い。コンクリートは小規模なドマ程度であればDIYでもある程度できるが、打ち継ぎを嫌うため、規模が大きくなると難しい。

③経年変化
石や土は古くなると馴染み、より美しくなる。たとえば、旧い「池子石」は表面が風化され柔らかい表情になる。隙間に植物が根って小さな花が咲き、何とも言えない素敵なふるびかたをする。一方で、コンクリートは古くなっても味わいを増すことなく、ただ汚れた印象になってっしまう。

こうして比較すると、石や土の方がいいことばかりのような気がしてなりません。
贔屓目が過ぎるでしょうか?

それでは何故、時代とともに、素材が置き換わってしまったのでしょうか?
大きな理由としては、流通や産業の仕組みが置き換えられ、どこでも標準的に使うことができる均質な技術に我々が流されてしまったからではないかと思います。

④構造強度
実際に、建築基準法では土や石は副次的な素材として考えられており、構造部材として使うためには個別の実験などをする必要がある。素性や状態によって強度はまちまちで一般化にしくい素材だし、地震などの揺れで崩れてしまうことも多いため、関東大震災以降、法的にも圧倒的に使いにくい素材になってしまった。一方で、コンクリートは工業製品であるため、規格が定めやすく、標準的な材料を使って標準的な施工をすれば、標準的な強度が出せる、再現性が高い点という利点がある。

⑤再生可能性
今回、池子石や壁土を再生利用たが、石も土も、大切に扱えば、再生利用可能で、地域内で融通し合えば、半永久的に使える。既に産出していない「池子石」のような貴重な素材も、結構、埋めるなどして処分されることが多いようで、もったいない。もし今後、見直されて需要が高まれば、まだまだ、地域内に死蔵されたストックはあるはず。場所さえあれば、ストックしておきたい素材。一方で、コンクリートは化学変化を伴うため、再生しにくく、砕いて別のコンクリートの骨材にするくらいしか方法がない。

⑥地域や風土との関係
石や土は、色や質感において地域固有の特性を持ち、それゆえ独特なその土地その土地の風景を作ることができる素材。まちなみデザインという観点からも統一感を出せる魅力的な素材だと言える。コンクリートの多い街並みは殺風景。

土を掬う、土を練る、土を塗る、石を掘り出す、石を運ぶ、石を切る、石を削る。
こうした基本的な作業から、短い期間に、我々がどれほど遠く離れてしまったか。
最も身近であったはずの材料が、今や最も遠い存在になってしまっている気がします。

石や土を扱って、泥だらけになって作業していると、全く汚い感じがしないのは不思議です。水で洗えば綺麗に落ちるし、匂いもむしろいい匂いで、汚れって何なのか?汚いって何なのか?そうしたことを改めて考えさせられます。
子供の頃にあんなに好きだった泥遊びが、大人の世界には全くないなんて。

土間を作ると、家の床に細かい砂が上がりザラザラするのが嫌だとか、表面が滑らかでないのでツルツルピカピカにしにくいとか、掃除機がかけられないとか、今のハウスキーピングの発想から言えば、石や土は扱いにくい素材なのかもしれません。

しかし、作業を通じて、汚れや汚いという感覚を疑うようになった人ならば、むしろ今のライフスタイルの方に疑問を持つ可能性は低くないと思うのです。

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