いつの日かあなたを憎みそうなとき思い出すピノの一粒だろう
いつの日かあなたを憎みそうなとき思い出すピノの一粒だろう/藤井
うたの日 2022.12.30『みそ』
嫌いになれたらいいのに、と思うことが何度かあった。
あなたの未来にどんな不幸が待っていようと、知らん顔をしてみたかった。
あなたが笑い、悲しみ、喜び、涙することに、ひとつも心を動かされないでいいと思った。
それでも、ひとを嫌いになるのは難しい。
それはあなたが私の重い病気を治してくれたからではなく、断崖絶壁で手を取ってくれたからでも、怪獣の破壊光線から守ってくれたからでもない。
あなたがあなたの好きなアイスを私に分けてくれるひとだと知っているからだ。
ただそれだけの理由で、私はあなたを憎むことができない。
命の恩人だとか、そんな大袈裟な話ではないんだ。
そんなことあったっけと言われてしまいそうなささやかな思い出が、どうしてもあなたを憎ませてくれないんだ。
大切、という言葉が固体になったら、海とか山とか森とか、地球とか太陽とか、そんな途方もない質量のものにはならないんじゃないかな。
多分、ピノの一粒くらいの、触れれば溶けてしまうくらいの、かけらみたいなものなんじゃないかな。と思う。
これからもわたしは大切なひとたちの優しさを記憶して生きていきたい。
そんなこと覚えておかなければよかった、と思う日が来ても、ちゃんと苦しめるように。
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