ひとつ嘘混ぜたらぜんぶ嘘になる 擦り切れたって恋なのになあ
ひとつ嘘混ぜたらぜんぶ嘘になる 擦り切れたって恋なのになあ/藤井 うたの日2023.1.28『 たら/たり/たる/たれ 』
禁断の恋、と少し前まで言われていた恋を、いま私はしている。
私には同性の恋人がいる。
私は女性。恋人も女性。
当事者である私には禁断どころか何の違和感もないことだが、理解が進んだのは最近のことであり、時代に関わらず同性愛がマイノリティであることは意識している。
お互いの家族や友人などには打ち明けているが、たとえば職場の人全員に話しているわけではない。
禁断だとか、恥ずかしいだとか、そういうことは思わない。
ただ、人によっては必要以上に気を遣うだろうな、反応に困らせてしまうなと思い、初手で話すことはまずない。
職場で、彼女の話をするとき。
私は「彼女」という言葉を使わずに、「恋人は、」や「今同棲してて、」といったぼかした言葉を使うようにしている。
同性の恋人がいることを打ち明けていないとしても、私が自らの口で「彼氏が、」なんて言ってしまったら、ものすごく大切なものを裏切った気になるのだ。
それでも、何も知らない人に「じゃあ彼氏はさ、」と話された時には。
訂正せずに、うなずく。
うなずいて、私はせめてもの反抗のように「恋人」という言葉を使い、また相手が「彼氏」と言えば、またうなずく。そうやって、そのまま話を進める。
そうしてうなずいているたびに。
うなずくたびに私の心は、コンクリートで膝を擦りむいた時のようにひりひりと痛むのだ。
どんなに私があなたへの恋心を確かに持っていても、たったひとつの嘘で全部なかったことになってしまう気がして怖くなる。
どんなに私があなたに愛の言葉を伝えても、たったひとつ嘘にうなずくだけで、あなたを否定してしまっている気がして泣きそうになる。
だから私は、同じ境遇の人々に比べると、同性の恋人がいることをオープンにしている方だ。
それは、私がそうしないと怖くて、泣きそうになるからであって。
オープンにできない沢山の人々の気持ちは痛いほどわかるし、マジョリティの理解が追いついていないことを責めているわけでもない。
だけどこの間、職場のある男の子と初めて恋愛話をした時に、その子が最初から「パートナー」という言葉を使ってくれて、私はすごく救われた気持ちになったんだ。
この文を読んだ人はこれから「パートナー」という言葉を使ってほしい、なんて思ってはいない。
ただ一歩だけ、今までよりも想像力をもって、ただ一瞬だけ、もし自分の周りの人に打ち明け話をされたら、と想像してくれたら。
この世界はまた少し風通しがよくなるんじゃないか。
つかないでもいい嘘から逃れられる人がいるんじゃないか。
そう思う。
だから私も、一歩だけ、今までよりも自信を持ちたい。
この先また嘘をついて、心が少し擦り切れてしまっても、あなたへの恋心だけは絶対に嘘ではないと。
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