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食べきらない彼女

「酸っぱい蜜柑が好き。」
甘い蜜柑を食べながら彼女は言った。
「これは甘いから好きじゃない。私はもう要らないから貴方にあげるわ。」
差し出された一欠片の蜜柑。

私は激しく怒りが駆け巡った。自分でやり始めた事を他人に解決してもらおうという彼女の甘えに怒りが溢れ出してしたのだ。
「最後まで食べないんだったら蜜柑なんて食べるな。」
私はそのまま蜜柑をゴミ箱に投げた。彼女は顔がだんだん険しくなり、その場から逃げ出すように部屋を出た。

次の日、何ら変わりもなく太陽は登った。私達もなんも変わらず朝を過ごしていた。
ふと、テーブルの上に置かれていた『猫が書かれた小さな皿』、彼女は絵の中の猫を愛でるように微笑んでいた。彼女は思い立ったかのように柿の種の袋をちぎった。そのまま、小さなの皿の上に並々と注いだ。私は昨日の記憶が蘇り、また怒りが込み上がった。柿の種は外気に触れれば足が早い、どうせ全部食べきれないくせに、また同じ過ちを彼女は繰り返すのだと。

すると、彼女は私の前に皿を移した。私が驚いていると彼女は何事も無かったかのように皿の上の柿の種を食べ続けた。これは蜜柑とは違う。「彼女が食べる為に開けた」んじゃない。「私と食べる為に開けた」のだ。

それなら、いいか。

私は皿に手を伸ばし、1つの柿の種を口に入れた。その柿の種は辛みもありつつ、後からほんの少しだけ甘みを感じた。

柿の種の間から覗く猫は朝日を浴びながら、幸せそうに眠りに落ちていた。

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