トランクルーム

一年以上家出をしていた弟の居場所がわかったと、父親からLINEがきた。

一年前大学受験に失敗した弟は、父親が勧めた滑り止めに進学するのを拒み、実家で一世一代の大立ち回りをし、ご近所さんの通報で警察出動、人生初パトカーに乗せられ警察署でイケメン警察官に叱られ逆上、一晩牢屋で過ごした。
翌朝迎えに行った父親と帰りにすき家のドライブスルーに立ち寄っている最中に姿を消し、以来父親はショックのあまり牛丼が食べられない体になっていた。

弟はこの一年間、家の目と鼻の先にある貸しトランクルームの中で姿を潜めていたという。協力者は母親だった。食事を差し入れし、衣類は洗濯して取り替えていたという。
弟はトランクルームで勉強をし続け、志望校に合格したことで家に戻ってきた。
父親の傷は深い。

「電気とかどうしてたの」
「キャンプ用のポータブル電源、家で充電して持って行って」
「ネットは」
「Wi-Fiモバイルルーター契約して」
「風呂は」
「スポーツジムのシャワーで」
「なんでトランクルームを」
「だってアパートだとお父さんに印鑑借りないといけないから」

その日初めて見た父さんの大立ち回りは、挙動から弟との血のつながりを感じさせるものがあった。

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