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VRChatユーザー必見!「お砂糖」のすべて

※見出し画像は三井製糖株式会社より引用

 https://adventar.org/calendars/6466 の25日目の記事です。

 VRChatユーザーの中には、「お砂糖」が気になっている方もいるのではないでしょうか?

 本記事では、そんな「お砂糖」について、自分なりに詳しくまとめてみたいと思います!

お砂糖とは?

「砂糖」とは、植物から取り出されたショ糖(スクロース)を主成分とする甘味物質です[1] 。植物は、主にサトウキビと甜菜が使われます。スクロースとは、「ブドウ糖(グルコース)」という物質と、「果糖(フルクトース)」という物質が結合した物質で、構造式は以下のようになります。ちなみに、このような、2つの環からなる糖質のことを「二糖類」と言います。

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お砂糖を摂取するとどうなるの?

 人間の舌には甘みを感じる部位があり、そこには甘味受容体と呼ばれる器官があります [2]

 スクロースがこの甘味受容体と結合することにより、人間は甘味を感じます。もちろん、スクロース(お砂糖)以外にも甘味物質はたくさん存在しており、先述したグルコースやフルクトース、またアスパルテームやサッカリンといった人工物質も、同様に人間に甘味を感じさせます[3]

 余談になりますが、お米やパンといったいわゆるデンプン質も、単糖類や二糖類の甘味とは違いますが、人間の味覚を刺激します。これらは、「多糖類」といって、スクロースを延長したような構造になっています。栄養学的には、お米やパンを食べることは砂糖を食べるのとそれほど変わらないのですね 。

 もちろん、砂糖の働きは単に甘い味がするだけではありません。体内に吸収されたスクロースは、加水分解によりグルコースとフルクトースに分解されます。そしてこれらの単糖類は、人間の小腸によって吸収され、血液や肝臓に運ばれていきます[4]

お砂糖を摂取するとどんないいことがあるの?

 砂糖の最も大事な働き、それはエネルギー源になることです。甘いものの美味しさが明日への活力になる……という話ではなく、人間の体には、車のガソリンのように、燃料となる化学物質が必要なのです。

 それが、ATP(アデノシン三リン酸)です。

 また新キャラかよ、と思う方もいるかもしれませんが、ATPは重要キャラなので覚えてください。ATPは以下のような構造式をしています。

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 ここで大事なのが左に3つ繋がったP(リン)です。これらを含むリン酸基からなる結合は「高エネルギーリン酸結合」と呼ばれ、反応性が高い上にとても高いエネルギーを得られるという特徴があります。あまりにも便利であるがゆえに、現在地球上に存在する全ての生物がATPを使ってエネルギーを得ています。我々が筋肉を収縮できるのも、細胞が運動をできるのも、すべてATPのおかげなのです。ATPは「生体のエネルギー通貨」と呼ばれます[5]

 全ての生物が必要とするATP、それを最短経路で生成できる物質。それこそが糖分なのです。

 砂糖(スクロース)が体内でグルコースとフルクトースに分解されることは先に述べました。多くの生物はこれらの物質を使い、クエン酸回路と呼ばれる一連の反応を行い、グルコース1分子あたり38分子のATPという莫大なエネルギーを得ます[6]

 ちなみにクエン酸回路の図は以下のようになります。これは覚える必要はありません。

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お砂糖はなぜ甘い?

 全ての生物はATPを合成する必要があり、糖分はそのための効率的手段です。そして、ヒトは糖分を摂取すると甘いと感じるようにできています。これは考えてみれば都合の良い話です。スクロースの分子を摂取したら強烈な忌避感を催すような生物がいても物理的にはおかしくないし、なぜヒトはそうならなかったのでしょう。

 これは、そのような生物だけが生き残ってきた、と考えるのが自然です。

 そもそも、現代のようにいつでもどこでも砂糖なりお米なりにアクセスできるというのは、生物史で考えてみれば極めて異常なことです。文明が発達する以前、ヒトを含むほとんどの動物の食事において、糖分はほとんど存在しませんでした。そもそも、食事を選べるという状況が稀で、常に飢えと戦っている生活だったはずです。

 そのような状況で、糖分(恐らく、その当時にあったものは少量の芋や蜂蜜)というのはチートアイテム級のエネルギーの塊です。これを好む人類は生存し子孫を残し、そうでない人類はそうはならなかった、と考えるのが自然です[7]

農耕という名の隷属

 狩猟社会において、糖分とは偶然手に入るお宝のようなものでしたが、人類はやがてその宝を安定して手に入れられるようになります。

 農耕です。

 田畑で穀物を栽培することにより、人類は他の動物という不安定なリソースではなく、安定したリソースから栄養を摂取できるようになりました。そのスケーラビリティは狩猟社会のそれの比較ではなく、人類は急激にその人口を拡大していくことになります。

 しかし、農耕がもたらすものはメリットだけではありません。

 高い収量と食味を持つ作物は、自然に中で放置すれば元気に育つということはまずなく、雑草を防除したり、病虫害を予防したり、肥料を与えて常にメンテを続ける必要があります。

 また、単一または小数の作物に頼っている状態は、病虫害によってそれが一気に崩れてしまう危険性があります。実際に、その栄養のほとんどをジャガイモに頼っていたアイルランドでは、19世紀に発生した疫病によりジャガイモが壊滅したため、人口の約4分の1が死亡しました[8]

 加えて、病虫害に対するリスクという点では、人間それ自体も農耕によってそのリスクに晒されるようになったと言えます。ペストもスペイン風邪も、人間が密集して動けないが故に大きな脅威を持つものです。農耕が始まる前は、病気が流行っても、場所を変えたりお互い距離を取ったりすればよかったので、大した問題にはならなかったでしょう。農耕が始まると同時に、人類と感染症との戦いもまた始まったと言えます。

 それでも、人類は農業を続けるしかありません。人類と穀物の関係は、一種の共犯関係にあると言えますが、ひょっとしたらそれは悪魔との契約だったのかもしれません。農耕を「最大の詐欺」であったと評する学者もいます[9]。いずれにせよ、もう昔に戻ることはできません。我々は今更人口を半減させることも、お米やパンの味を忘れることもできないのですから。

世界を結び、人類を狂わせた植物

 農耕を始めて、莫大なエネルギーを摂取可能になった人類。しかし、人類の欲望は留まることを知りません。お米やパンよりももっと直接的なエネルギー源を、人類は早い段階から手にしていました。

 砂糖です。

 恐らく東南アジアで生まれたそれは、長らく「高価な薬物」として少量が貿易によって売買されるに過ぎませんでした。しかし、17世紀から、ヨーロッパ人の間で砂糖が身近になってくるにつれ(紅茶に砂糖を入れる習慣が根付く等)[10]、砂糖の需要は大きなものとなっていきます。しかし、ヨーロッパには、サトウキビの栽培に適した箇所はほとんどありません(亜寒帯でも栽培できる甜菜からの製糖法が確立されたのは、18世紀中頃です) 。

 そこでヨーロッパ人は、アメリカ大陸を侵略し、そこにサトウキビの大規模栽培地(プランテーション)を建設します。侵略の過程で、先住民達は虐殺され、残った者は奴隷にされ、強制労働を課せられました。加えて、労働力が足りない分は海を離れたアフリカで奴隷を捕まえて持ってくるという、現代では考えられないほど非道な行為をします。

 これによって、アメリカ大陸の運命は完全に変わってしまいました。現代では、あらゆる国で奴隷制が廃止されましたが、ブラジルがサトウキビの世界最大の産地であること、ハイチやドミニカ共和国に黒人が多く住んでいること、それらは上に述べたヨーロッパの侵略の影響が現代にも続いていることを示しています[11]

 しかし、そのおかげで砂糖は大量に供給され、高級品からありふれた調味料へとその立場を変えました。いま歴史を振り返ると、砂糖を栽培するために人間はここまで残虐になれるのか、という思いが湧いてきますが、砂糖にはそれだけ人類を狂わせる能力があるのかもしれません。こうした歴史に胸を痛めても、現代人の素朴な感情としては、やはり砂糖が安価に供給されるメリットを享受しないではいられません。

現代病、糖分の過剰摂取

 前二章では、穀物や砂糖といった糖分が、チートアイテムから、身の回りに溢れた調味料へと変わっていった歴史を紹介しました。もはやそれらは高級品ではなくなり、現代ではむしろ安価な食生活を続けていると、それらを過剰摂取してしまいます。ここでは、もう一度、糖分の生理学的な面に目を向けています。

 スクロースが体内に摂取されると、血管や肝臓に運ばれることは上に述べました。ここで、血管に存在する糖分(血糖値)が高すぎると、活性酸素により血管等の体組織が傷つく等の弊害が出ます。健康な状態であれば、血糖値が上がりすぎないように、インスリンというホルモンが血糖をグリコーゲンや中性脂肪等に変換しますが、高血糖状態が続くとこのインスリンの調節機能が壊れてしまいます。これが糖尿病です。こうなると、血糖値上昇→インスリン抵抗性の現象という負のスパイラルに陥り、体中の組織がボロボロになっていきます。最終的には失明、神経障害、腎不全等の重篤な合併症を招きます[12]

 そこまではいかなくとも、糖分の過剰摂取は中性脂肪の増加による肥満を招きます。溜め込んだ糖分を全部エネルギーに変換してくれてもよさそうですけど、ヒトの体はそうなっていません。これは、「糖分をいつでも摂取できる」という環境の変化が急激すぎて、動物としてのヒトの体がついていっていないという側面はあるでしょう。ヒトの体はまだ、氷河期で飢えに怯えていた頃のままなのです。だから目先に食べ物があると食べてしまいますし、それを脂肪として蓄えてしまいますし、「糖分がありすぎて困る」なんて状況は想像すらできなかったはずです。

 それが今や、現代人の課題は「いかに糖分を取りすぎないか」なのです。昔の人類からしてみれば、何と贅沢な悩みでしょうか。ちなみに、砂糖は多糖類に比べて分解・吸収が早い分、血糖値の上昇も早いので、甘いものが欲しい時でも、大量の砂糖は控えた方がよいかもしれません……。

人類のパートナー

 かつて人類は、穀物によって狩猟社会を農耕社会に変換させ、砂糖を得るために非人道的な所業を行ってきました。そして今は、糖分による健康被害を防ぐために気をつけています。

 それでもなお、糖分が最速のエネルギー源であること、人類はそれなくしてはカロリーを維持できないことには変わりません。人類は糖分と共に生きていくしかないのです。

 ヒトとお砂糖(糖分)との複雑な関係は、まだまだ続いていきそうです。

VRChat上での「お砂糖」

 ところで、VRChat上ではカップルやパートナーのような関係を「お砂糖」と称する事例がよくあるようです。これについては当人同士が納得すればどういう呼称してもいいとは思いますが、個人的には、既に日常的に大きな意味を持つ言葉に、更に定義不明の意味を上乗せしたら、いつか混乱しそうだなと思います。「カップル」とか「パートナー」でいいんじゃないんですかね……?

参考文献

[1] 大東製糖株式会社「砂糖のキソ知識」、https://daitoseito.co.jp/topics/basic、2021年12月12日閲覧
[2] 独立行政法人農畜産産業振興機構「分子レベルで明らかになってきた舌で甘さを感じるしくみ」、https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001042.html、2021年12月12日閲覧
[3] 前橋 建二「甘味の基礎知識」、日本醸造協会誌106-12、2011年
[4] 大阪教育大学「< 糖質の役割>」、http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~ioku/foodsite/eiyouso/tousitu-w.htm、2021年12月12日閲覧
[5] 東北大学「生命エネルギーの通貨ATP 〜ATPのエネルギー放出の分子メカニズム〜」、https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20190523-10293.html、2021年12月12日閲覧
[6] 福岡大学「解糖」、http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm、2021年12月12日閲覧
[7] キリンホールディングス株式会社「甘味と苦味の感覚の進化」、https://wb.kirinholdings.com/about/activity/episode/vol01-1.html、2021年12月12日閲覧
[8] 世界史の窓「ジャガイモ飢饉」、https://www.y-history.net/appendix/wh1202-048.html、2021年12月12日閲覧
[9] ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田 裕之「サピエンス全史」(河出書房新社)、2016年
[10] 川北 稔「砂糖の世界史」(岩波ジュニア新書)、1996年
[11] 世界史の窓「砂糖」、https://www.y-history.net/appendix/wh1002-082.html、2021年12月12日閲覧
[12] 糖尿病情報センター「糖尿病とは」、https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html、2021年12月12日閲覧


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