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第4信 古代、蝦夷へ

 拝啓、大暑の候、みなさまいかがお過ごしでしょうか。先月ご紹介した第8回企画展、お楽しみいただけましたでしょうか。企画展は、昨日、無事閉幕し、次は来月3日から始まる佐藤忠良展に向けて鋭意準備中です。こちらもどうぞお楽しみに。さて、連載4回目となる今回は、再び常設展のご紹介に戻ります。時代は古代です。先月の第3信とあわせてお楽しみください。

新たな文化の流入と国家勢力の拡大

 古代の石巻地域では、長くこの地で暮らしてきた人びとと、北と南から訪れる人びとが交流して新しい文化が定着していきました。しかし、律令国家として国の範囲・制度が整うと、国家は勢力を拡大し、この地にも軍事基地として城柵をつくり、国家の範囲へ組み込む動きを強めていきました。国家の影響力が大きくなるなか、石巻地域に住む蝦夷の不満が徐々に高まり、次第に蝦夷対国家の対立へと発展していきます。

古代展示室
古代展示室(正面は桃生城のジオラマ模型)

モノからみた北の文化、南の文化

 蛇田地区にある新金沼しんかなぬま遺跡は、古墳時代前期(4世紀)の遺跡で、約40軒の住居跡が見つかっています。平成7~12年(1995~2000)にかけて、三陸自動車道の建設に伴い、発掘調査が行われました。北海道系土器(続縄文土器)や東海・関東系土器が出土しており、他地域との交流がうかがえる遺跡です。海岸や北上川河口からも近く、交流の拠点であったと考えられています。

新金沼遺跡出土 続縄文土器

 出土した続縄文土器は、文様や形態も北海道で出土しているものにごく近いものの、土器の土を分析してみると、在地の土師器に土質が類似していることが分かりました。このことから続縄文文化圏の人間が石巻に来て、石巻で土器を製作した可能性が高いとされています。

埋葬の変化

 ヤマト王権の中心であった近畿地方では、3世紀中頃から前方後円墳が多数つくられるようになりました。その流れは次第に地方へも波及し、仙台平野でも遠見塚古墳をはじめとする前方後円墳がつくられるようになりました。ヤマト王権と各地方を結びつけるのが前方後円墳であったと考えられています。この時代、石巻地域では、前方後円墳は発見されていませんが、方形ほうけい周溝墓しゅうこうぼがつくられました。

 方形周溝墓とは、台状に土を盛ったところの周囲に四角く溝を掘った古墳時代前期のお墓のことをいいます。盛土された中央部に穴を掘って埋葬しました。

 蛇田地区にある新山崎遺跡から3基の方形周溝墓が見つかっています。全体が検出できたのは1基のみで、溝が全周しており、県内では中規模クラスといえます。古墳時代前期には石巻地方にも古墳文化が広がり、集落が営まれました。見つかったお墓は、集落の有力者クラスのお墓であると考えられます。また、出土した土器には、新金沼遺跡と同様に、東海・関東地方の土器の特徴が見られるものがあることから、方形周溝墓をつくった集団に関係する可能性があります。

飛鳥・奈良に都がつくられて

 大宝元年(701)、国家の基本法となる大宝律令が制定され、天皇を中心とする国家が完成し、平城京の都市も整備されました。国家は律令に基づいて、人びとの戸籍をつくり、税を徴収する制度を確立させました。そのころ東北では、蝦夷は国家に貢物をし、国家は蝦夷に布や食料を与えることで関係を維持していました。

 しかし、国家は蝦夷が住む地へ領土を拡大する政策をとり、7世紀半ばには、東北各地に城柵が置かれるようになります。

田道町遺跡出土 木簡(複製)…  この木簡は、律令国家に服属した牡鹿地方の有力な蝦夷集団に対して、延暦11年(792)に出挙(稲の貸付)を内国同様に実施したことを示す重要な資料です。

 城柵によって支配が安定すると国家は各地にぐんを置き、「郡家ぐうけ」と呼ばれる役所が建てられました。郡家には、地方の有力豪族が任じられた「郡司ぐんじ」がいました。郡司をはじめとする役人は、行政から軍事にいたるまで様々な仕事を担い、戸籍の作成や税の徴収、裁判なども行いました。

出挙制の実態が明らかに

 石巻市内の田道町遺跡から出挙すいこを示す木簡が発見されています。出挙とは、稲籾の貸付のことで、返納する際は高額な利子がつきました。木簡には延暦11年(792)分の出挙額が記録されており、当時この地域で行われていた出挙制の実態を解明する上で重要な資料といえます。

 また、田道町遺跡からは、役人が使っていたと思われる銅製のベルト金具や刀子とうすが出土しており、一般的な集落ではなく、公的な施設があったと考えられています。
(学芸員・佐藤麻南)

 毛利総七郎が生きた明治・大正・昭和の石巻にまつわる資料を展示している。



石巻市博物館

〒986-0032 石巻市開成1-8(マルホンまきあーとテラス内) ☎0225-98-4831
利用案内
開館時間 9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌日休館)、年末年始(12月28日~1月4日)
入館料  常設展 一般 300円、高校生 200円、小・中学生 100円 

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