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ほぼアドリブの名司会 佐藤さん

花火大会で聞くあの声


 「より良い花火をお見せするため、しばらくお待ち下さい」。
 月にむら雲花に風というように、花火も煙がつきもの。客がしらけそうな場面こそ、長く司会を務めてきた佐藤千代さん(76)=石巻市渡波=の真骨頂だ。石巻川開き祭りの花火大会は長い歴史の中でトラブルも多々あり、順番に上げるはずの花火の一部が同時に上がってしまったことも。何とも豪勢だが、事情を知らない客に佐藤さんは告げる。「次の花火は上がりませんから、今、網膜に焼き付けてください」。
 司会はベテラン女性2人が務めており、佐藤さんは台本にないことを即興で言えるのが強み。名司会と評判だ。間違うこともあり、花火の大きさを20号玉と言って「宇宙まで飛んでいくよ」と指摘されたとか。「明るく楽しく、はっきりしゃべっています。ほとんどアドリブですが、スポンサー名だけは間違わないようにしています」と笑う。
 よくあるのが迷子の連絡。かつて2歳の女児の行方が分からなくなった際、打ち上げの合間に「周囲を見渡してください」と放送したところ、すぐに見つかった。それを報告すると、会場から尺玉が上がった時のような拍手。人の温かさに包まれた大会になった。
 佐藤さん自身、記憶は定かでないが、花火大会の司会は30年ほど。地区の行事で司会をした経験があったことから、関係者に誘われた。頼まれれば「はいはい」と応じる性格。川開きをきっかけにラジオ石巻でパーソナリティーもしている。
 間近で花火を見続けてきた佐藤さん。忘れられないのが東日本大震災の年だ。小規模で歓声もない鎮魂の花火。切なさで胸がいっぱいになったが、泣かずに務め上げようと臨んだ。「最後に支援で上がったミニフェニックスがすごくきれいだった。いろいろなものが救われ、旅立った人も上から見て納得してくれているだろうと思った」という。
 震災を経て迎える第100回川開き。花火大会の会場は、街なかから13年ぶりに上流側へ戻る。「人と人が美しさに感動する物語があり、大いに楽しめる夜になれば」と佐藤さん。今年はどんなアドリブが飛び出すのやら。目も耳も離せない。【熊谷利勝】

 【メモ】花火大会は5日午後7時40分から、開北橋下流。広く会場が取れる今年は、ジャンボスターマインや水陸同時など東北最大級の約1万6千発を打ち上げ、橋のナイアガラ大瀑布も復活。打ち上げ前にはディスニーのドローンショーも。


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