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震災で沈下 今は隆起しすぎ

北上川で進む水辺乾燥化

 東日本大震災の地震で広域的に沈下した地盤は徐々に元の高さに戻り、北上川河口部ではむしろ発災前より高くなっている場所が出てきている。それによって河川敷が冠水する頻度が低くなり、乾燥化が進む。このまま隆起が続けば、象徴的な水辺のヨシ原が外来植物群落に変化していく恐れもある。

 国土地理院が管理する電子基準点のうち、北上川河口に最も近い「河北」の地盤高は、震災で57㌢沈下した。その後すぐに上昇に転じ、今年3月まで70㌢隆起。震災前よりも13㌢高くなっている。

ヨシ原 外来種に代わられる恐れ

 一帯は日本有数のヨシの群生地。河口付近から約10㌔上流までの水辺に広がり、環境省の「日本の音風景100選」にも選ばれている。ヨシは震災の津波と地盤沈下の影響で半減したが、徐々に回復してきていた。

地盤隆起で生態への影響が懸念される北上川河口

 しかし、地盤の上昇とともに、乾燥に強いイタチハギや繁殖力の高いセイタカアワダチソウの群落も拡大。国土交通省北上川河川下流事務所の予測では、海水が混じる汽水域で約20年後、ヨシよりも外来種などの面積が大きくなるという結果が出ている。

 同事務所は「ヨシ刈り、ヨシ焼きが継続されれば、ヨシ原が維持される可能性がある」という。かやぶき屋根材になるヨシは、冬の刈り取りと春の火入れが風物詩。人の手が加わることで地元の環境や産業が保全され、外来植物も一掃できる。

 現在、こうした作業は主に、かやぶき屋根工事などを手掛ける地元の熊谷産業が担っている。同社の関係者は「昔は集落や役所の人が入ってやっていた。ヨシは残したい風景だが、自分たちだけでは負担が大きく、いつまで続けられるか分からない」と話す。

希少トンボにも影響

 汽水域では絶滅危惧種のヒヌマイトトンボが生息しており、隆起によってヤゴがすむ湿地もできにくくなっている。将来的に、地盤下げや水路を作って水を呼び込む工事が必要になる可能性もある。

 隆起が今後も続くかは読み切れず、同事務所では当面、環境調査を継続。ヨシ生産者やNPO、河川協力団体などと情報共有を図りながら、自然環境を生かした地域づくりに連携、協力していくことにしている。
【熊谷利勝】

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