あべのまち

なぜ、石巻には阿部さん多い?

名字の「五十音順」で席順が決まった高校時代。教室には阿部さんたちが4~5人いて、新学期、席の最初の方には阿部さんが多く並んでいた。生まれも育ちも石巻の私は「阿部は全国的にも多い名字」だと思っていたが、社会人になって市外に就職して、そうではないことを知った。
社員23人の石巻日日新聞には阿部さんが2人いる。そのため下の名前や苗字と名前を組み合わせた愛称で呼び合い、社員に割り当てるメールアドレスも同じ名字で混乱しないよう工夫している。「阿部」が多いとされる石巻の事業所ではよくある話なのかもしれない。紙面にも度々「阿部さん」が登場するが、実際、石巻市には何人の阿部さんがいるのか。その起源も含めて調べてみた。(石森洋史・2019年6月14日掲載記事を再掲載)

およそ10人に一人が阿部さん

石巻市役所市民課によると、住民基本台帳による2019年5月23日現在の阿部さんは12,594人。同市の人口143,527人(同日)に対する割合は8.77%で、およそ10人に1人が阿部さんということになる。ちなみに市内には「あべ」と読むとは限らないが、安部も安倍、阿辺さんもいる。

地元で1位も全国25位

石巻市の風土や歴史自然環境について紹介した平成18年発行の「ふるさと知図帳」(NPO法人いしのまき環境ネット発行)には、市内に多い名字ランキングが掲載されており、「阿部」は堂々の1位となっている。

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市内の名字ベスト10と全国ベスト10(参考:名字由来net)を比較すると、全国との共通点や地域性が読み取れる。石巻で最も多い「阿部」は全国では25位となり、高い地域性を持つと考えられる。また、全国1位の「佐藤」は石巻でも2位となっている。

このほか、全国4位の「田中」は石巻には260人(石巻の0.18%)しかおらず、地域では珍しい名字。石巻や宮城県内では上位に入る「佐々木」は全国13位と、これも地域性を持った名字と言えそうだ。
阿部姓は県内では5位にランキングされ、全国的にみると東北以北で上位に入る。東北以外では新潟県、徳島県、大分県でも多く見られる。

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阿部
石巻では約9%を占めるメジャーな名字。前九年の役を経て石巻地方にも落ち延びた安倍一族の影響を今に残すとされる。

佐藤
全国で最も多い名字。石巻でも数多く見られ全国性が反映されるが、石巻では地域性が強い阿部さんの数よりも少ない。

佐々木
全国2位鈴木、4位田中を抑えて、石巻では多く見られる。宮城県内でも上位にランキングされることから、地域性が高い名字といえる。

鈴木
全国2位、県内では3位の全国に広まる名字だが、石巻では全国13位の佐々木よりも少ない。

田中
全国4位だが、県内では49位で、石巻においては260人しかいない。全国的にみると多いが石巻では少ない名字も存在する。

奈良県の発祥か

石巻市の郷土史家の邉見清二さん(72)によると、阿部氏は大和の国(奈良県)葛下郡安倍を発祥の地としている。東北に多い「あべ」は平安期に陸奥国で起こった安倍氏や、地方役人の郡司のうち阿部臣(あべおみ)姓を賜ったものたちの子孫だという。
陸奥国の有力豪族で朝廷に反抗した安倍頼時と貞任親子が宮城県北から岩手県にかけて戦場となった前九年の役(1051年―1062年)で源頼義らに討伐されると、一族のうち一部は逃れて本吉郡や各地に落ち延びた。その最南端が石巻地方であったと考えられ現在、あべ等を名乗るのは集団化した一族の末えいだとされる。

中世時代には多数分布

江戸時代、仙台藩が編さんした「安永風土記」(1773年)は当時の領内の人口や面積、地名の由来などを伝える史料で、桃生・牡鹿郡内の村々、とくに海岸部について記された「代数有之御百姓」(だいすうこれあるおんひゃくしょう)の中には、渡波、流留、浦宿、真野などの地名と一緒に阿部姓を名乗るものが多く記述されている。

これらの家々はほとんどが7―9代相続、という家で、中には16代相続という家もある。中世の桃生・牡鹿郡には既に「あべ氏」が多数分布していたことを今に伝えている。平安時代にさかのぼると前九年の役や安倍氏の影響が石巻地方に及んでいた可能性が大きくあると言える。

中世には葛西氏が牡鹿郡を拠点に沿岸部や北上川流域に勢力を広げ関東出身の御家人が石巻地方に多数入り込んだことや、江戸時代には北上川水運により江戸と交易が盛んに行われた。石巻の歴史を振り返って邉見さんは「全国の人々が産業や技術を持ち込み往来する場であったことが地域に佐藤などの全国姓をもたらしたのではないか」と推察する。

全国との共通性と地域の独自性を持つ石巻の名字。東日本大震災後、全国から駆けつけたボランティアや移住者も名字の多様性を持ち込み、地域性を際立たせている。

参考文献・サイト
石巻の歴史 第一巻 通史編(上)
石巻の歴史 第九巻 近世編
いしのまきふるさと知図帳
名字由来net

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