スカイツリー

しばらく連絡の無かった、以前仕事で浅く関わったことがある年下の(しかも10個も)男性から、「スカイツリーに行ったことはありますか」とLINEがあった。突然の質問に少し驚きながらも、「ありません。」と答えたら、「それは残念ですね!」と返事があり、ここで会話は潰えた。残念ですね、の後の感嘆符は、会話の中止を意味する看板のように感じられ、私から連絡をすることは今後ないだろうと思った。

スカイツリーに行ったことはない。東京タワーならある。
東京タワーに最後に行ったのは何年前になるだろう。あの日は夏のはじまりの夜で、7月、七夕が近かった。東京タワーのそばにあるマリオンクレープには多くの人が並んでおり、その人の整列がとても「正しいイベント」に思え、私たちも並ぶことにした。クレープの味までは覚えていないものの、正しいイベントを正しく乗り越えるべく、多分チョコバナナあたりでも頼んだと思う。でもブルーベリーも捨てがたいと言ったかもしれない。正しさの前ではゆるやかな変化球を投げたい夜もある。

その時の東京も暑かった。夜だというのにアスファルトは太陽の熱を蓄えた漆黒の絨毯のようだった。汗と湿気で絡みつく髪の毛を何度か結び直し、クレープの紙を誤って食べないように注意した。早く食べないと、早く終えないと。私たちの底が抜けてしまって、甘さが漏れてしまう。

別れたら今日のことは書くの、と言うので書かないと答えた。書いてほしいの、と聞くと、寂しくなるけどあなたには書かれたいと思う、と答える。

彼が食べたクレープの味は覚えていないが、差し出されたものは覚えている。マリオンクレープはとても真っ当な正統派のクレープだった。寝起きには食べられないような甘さ。毎日食べるにはぬるすぎる糖。その日の私たちにはとても正しい甘さだった。彼と東京タワーに行った以上は、スカイツリーに行くことは野暮だと思っていたし、多分今後も、誰とも行かないと思う。そう誓うことも私にとっては正しいイベントだ。


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