Saluteにしか興奮しないひと

いくつか下書きを抱えているものの、思うような内容にならず、でも何か書きたいので以前やっていた取材の備忘録を書いておこうと思います。

ライター駆け出しの頃、私は不貞行為に関するコラムを担当していました。とは言っても下世話なものというよりは、法的アドバイスにつなげる内容のもので、わりと専門性は高いものでした。探偵使って証拠を集めるには、とか、探偵も良い探偵・悪徳探偵いるよとか、トークアプリや出会い系アプリの証拠の押さえ方とか、まぁそんな感じのものです。元々パラリーガルなので、持ち込まれる不貞行為相談で、証拠を作る仕事もしていたのですが、トークアプリが爆発的に増えていた頃なので、思いきって潜入取材を敢行しました。

私が実際にやっていたのはオルカやレモンといったあの辺(わかる人にはわかるだろう)で、ティンダ―は避けました。オルカでは正直にこれは取材であると伝え、女性2名・男性4名と通話で取材ができました。まぁなんでこんなのやってんのかって話を聞くわけですが、取材に至らなかったけどトークできた人も踏まえると、男性はほぼセフレ探し(いわゆるヤリ目というものですね)女性はさみしいか、売春でした。まだ今ほど売春が広がっていなかったので、パパ活という言葉は使われませんでした。今から2年ほど前ですかね。今はほぼ売春かもしれません。

街録chみたいなことはもうやめよう…とこういうスタイルの取材は今は全くやっていません。ただ、ああいうところは意外と皆さんいろんなことしゃべってくれるんですよ。特に男性は、セックスできないことについて自分を「被害者」だととらえている方が多く、結構驚きました。一生懸命女性に話しかけても、お金を払わないとセックスできないといつの間にか被害者意識を持つようです。恋愛しなくてもセックスはできますが、どこかで「あなたとしたい」と言われたいんでしょうね、男性も。言われたいと思いつつまぁそんなに簡単には言ってもらえません。欲情とは別に頭のどこかで常に自分を卑下しながら万札を渡すと、性格が悪くなるもんなんでしょう。

さて、ユニークな取材も多かったですが私は10歳下の、「Saluteにしか興奮しない青年」と、しばらくの間よく通話していました。Saluteとは知る人ぞ知るワコールの高級ラインで、セクシーな下着です。ギラギラしており、女っぷりが際立つ下着です。(私はもちろん持ってない)

通称サルートさんは、人妻とばかりセックスしている青年で、当時20後半だったわけですが、なぜあんなギラついたサルートが趣味なのか、と疑問に思ったので質問をしました。すると、10代の時にコンビニの書籍コーナー付近で中年女性がサルート風の下着をいきなりたくし上げて見せてきたそうで、そこが性癖の出発点になってしまったそうなんですね。まー大変。

それ以来、彼は自分でお金を稼ぐたびに、この人だと思う人妻にサルートを買って履かせる、という趣味に走ったそうです。サルートにしか興奮しない青年の爆誕です。本当かどうかはわからないですが、彼は小さな運送会社の三代目だそうで、ガンガン働いてはサルートを人妻に履かせているそうなんですねぇ、すごい世界。サルート高いよ結構。

サルートさんとはなぜか仲良くなり、彼からもよく電話をもらっていました。「僕とサルートが似合う桃ちゃんとの話を、誰かに聞いて欲しい」という願望を、面白半分で叶えていました。桃ちゃんは40ぐらいの人妻で、行為が終わると、「もうこんなことしたくない」と泣きながらサルートを投げつけて去っていくそうなんですね。でも2週間ぐらい後になると、新しいサルートを履いてくれるそうなんです。なんてドラマチックな素人たち、もうお腹いっぱいですね、この話は。

性癖って大変だな、と思ったものですが、なぜかふと「桃ちゃんには幸せになってほしい」と会話の中で伝えたところ、ぴたっとサルートさんから連絡は無くなり、サイト内でブロックされました。地雷を踏んだのでしょう。

私も結構取材に疲れたので、この頃にすべてのトークアプリは止めました。彼らのおかげで不貞行為の原稿はめちゃくちゃ捗りましたが、もうやりたくないな、一人街録chは…でも複数名の人と話すのは楽しいのかも。以前やっていたライブ配信とかまたやっても良いなと思います。(昔視聴者と懸賞の話ばっかりやっていて、当たったら報告せよという配信をやってました。当たったらみんなで拍手をして祝う、という謎のプレイで盛り上げていました。)

いずれ小説にでもしようかしらと伝えたら、桃と僕のことを書いてくれるなら嬉しい、と言っていたのですが、未だに上手く書けません。桃ちゃんはなぜ泣くのか考えたのですが、おそらく本当にやめたかったのでしょう。情欲というのは不思議なもので、満たされて納得する時もあれば、不快さが増すこともあります。特に日常から逸脱することを興奮材料にしてしまう人は、根本的な問題の解決から逃げているので、何となく、情欲は満ちても愛情が満ちることはないのですね。コンビニでサルート風の下着を見せた中年女性も、情欲は満ちてもその行為で愛情が満ちることはなかったでしょうしね。

それはそれで気楽で良いのでしょうが、40歳ぐらいだった桃ちゃんは、情欲は満ちてもいくら年下の可愛い男性とサルートごっこをしても、愛情が満ちない自分に、結構嫌気がさしたのではないでしょうか。どうでもいい人とセックスするって結構体力も気力も必要なので、「もうこんなことしたくない」のでしょう。やり尽くすだけやり尽くしても、寝る相手に愛情を持てないってまぁまあきついですよ。職業ならまだしも。一片の愛情すら持てない自分に嫌気がさす上、相手にも冷たくしちゃうという悪循環に陥りますからね。なので桃ちゃんにはぜひ、幸せになってほしいものです。(余計なお世話)

私も当時の桃ちゃんぐらいになっているので、情欲も愛情も両方満ちると嬉しいな、とは思いますが、どちらかしか選べないなら愛情を選ぶでしょう。




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