メモリーズオフという作品を思い出す一夜目の夜

 俺はギャルゲーというものがとても好きだった。過去形にしたが、今でも好きである。だがしかし、現在それはもはやゲーム業界に存在しない、と言い切れるようなものになってしまった。考えようによっては、ソシャゲの大半はギャルゲーとも言えるのだが、建て前としてはヒロインと仲良くなることが第一の目的ではないので――本音の部分ではそこにしか魅力がなくても――ここでは語らない。

 さて、そのギャルゲーの中でも長く続いたシリーズが「メモリーズオフ」シリーズだ。いや、一応まだ続いているような気がしないでもないのだが、一度は完結したし、再始動した作品の出来から考えて、たぶん自然に死んでいくので続いた、でいいと思う。絵は好きだったんだけどな、シンスメモリーズ。それ以外が大体すべてアレだったけど。

 ともあれ、このシリーズはそれまでのギャルゲーらしくない作風にしよう、という気概が強かったゲームだ。一作目からして、主人公には死別した彼女がいて、その彼女との想い出を抱えて生きていくか、別の誰かと心を分かち合って生きていくか――想い出か未来か、みたいなゲームだった。これで一番人気になったのが、死別した彼女だったから面白いというか、いや一応ちゃんとヒロインの中でも並び立つくらい人気があったヒロインもいたが、あまりにもバランスは悪かった。

 ヒロインの中には、今でも高い人気を誇る声優、田村ゆかりがいた。だが当時は人気がなかったし(というかデビュー直後だったし)、ヒロインもこれまたギャルゲーにしては珍しく、元カレがいて、そのせいで恋愛に嫌悪感があるタイプだった。後の時代ほどではないが、処女信仰の強かった当時で受けないのは当然だった。余談だが、公式の後日談で主人公の悪友キャラであり、シリーズの顔役、稲穂信といい仲になっていたのだが、それは最終的になかったことになった。いい出来だったんだけど、あのドラマCDと小説。まぁ小説の話をすると、その信は後の作品でも選ばれなかったヒロインとフラグを立てたが、やはりなかったことになったのだが……。

 そんな名作メモリーズオフの遺伝子を受け継ぎ、その上で強化したのが「2nd」である。これはおそらく、シリーズの中でも最も人気が高かった。最終作のメモリーズオフifが出来では負けていないが、インパクトというかギャルゲーとして、それはありなのか、という意味では勝てなかった。

 なんと言っても、この作品は最初から主人公に彼女がいたのである。その子とますます仲良くなることはできたし、一応それが正史ルートなのだが、もちろん他のヒロインもいるわけで、そちらのルートに行く場合は浮気をした挙句に、実は好きじゃなかった、という展開になって新しい彼女に乗り換える、というシステムだった。これが受けたのだが、ヒロイン候補には彼女の親友と姉がいて、しかも親友に関してはかなり早い段階で恋愛が始まるので、女の友情とは一体……となったりもした。姉ルートに関しては、一時的にだが、主人公は最善の方法だと称して、姉妹に二股をかけていた。

 そんな主人公だったので、まぁ人気は出なかった。が、当時はエロゲー界にはもっとおかしい主人公が存在していたこともあり、そこを基準にすればまだまし、と言われていた。もっとも、ギャルゲーに限定すれば、あそこまで嫌われた主人公を俺は知らない。公式でも自虐ネタにするレベルだった。後の誠死ね、に比べればだいぶかわいいレベルではあったが、あれと比較するのはさすがにかわいそうだ。こっちの主人公は性的な関係を結んだことはたぶん、ない。匂わせ描写があったが、健全なギャルゲーでは描かれていないので、きっと、大丈夫だ。エロゲーなら姉妹丼ルートがあったかもしれないと思うと、エロゲの不健全さがわかる。個人的には大好物だが、倫理的に見れば完璧にアウトだろう。

 そんな尖がったこの作品には、若手時代の水樹奈々、千葉紗子だったり、今では文学評論家になったと言っても過言ではない、池澤春菜なんかが参加していた。
 シナリオなどの出来はさておき、今や声優界の大物歌手水樹奈々の歌う「オルゴールとピアノと」は名曲として人気が高かった。水樹奈々ファンで聞いたことがない人はぜひ聞いて欲しい。おそらく、YouTubeにある。

 さすがにもう尖がった設定と作風は無理だろ、というファンのお0もいを裏切る形で、三作目の「想い出に変わる君」を放ってきたのだから、メーカーであるKIDは何かがおかしかった。だから滅びた……と言えるのかもしれない。メモリーズオフシリーズは、KIDでは5までしか出ておらず、以降はスタッフや関係者が別の会社で作ったので、公式では正統続編だが、血筋で言えば養子が跡を継いだみたいなことになったくらいだ。

 この「想い出に変わる君」は一見、2ndよりは尖っていなかった。主人公の高校の時の彼女がある日いきなり失踪して、大学生になった主人公の下に戻ってきて始まる物語だ。その彼女と、高校生の子のダブルメインヒロイン体制だったのだが、この二人のtrueルートに入るには全ヒロイン攻略を強いられ、挙句にどのヒロインのルートも尖がり過ぎ、という際物だった。そして苦労して突入したtrueも尖がっていた。このゲームに癒し、という当時流行った概念は一ミリもなかった。
 開発スタッフによれば、前二作をプレイした学生たちは大人になったはずだし、大人向けのストーリーにしたい、という狙いがあったようだが、大人向けと尖がり過ぎたとんでも展開連発のシナリオはイコールではない。特撮の話になるが、大人向け特撮が成功しづらい理由がわりとこの部分であり、当時はまだあまりそれが知れ渡っておらず、そのために生まれたギャルゲー界の異端児とでも言える作品だった。

 またかよ、って感じだが、起用された声優は若手中心、で固められており、後に人気声優となった清水愛や、当時人気最高潮の川澄綾子、演技派声優として名高い沢城みゆき、今ではナレーターがメインになった高橋美佳子、絵本作家として化けることになる浅野真澄。そこに当時でもベテランだった白鳥由里という隙のない布陣だった。
 中でも、メインヒロインを務めた福井裕佳梨のインパクトは凄まじく、デバックまで声優を知らなかったスタッフさえも驚愕した、と言わしめるかわいらしい声と芝居、それを裏切る尖がったヒロインで少し話題になった。中の人の都合で以降は村田あゆみが演じるになるし、見た目や設定からすれば間違いなく彼女の方が相応しかったのだが、どういうわけか、福井裕佳梨を支持したいのが俺だ。

 この「想い出に変わる君」が尖がり過ぎ、変化球過ぎ、ということで、当時は非常に批判された。いや実際、面白いのかと言うと、まったくそんなことはなく、典型的な大人向けを誤解した代物だったし、正直、ヒロインと仲良くなるよりも男仲間でダラダラしている時間の方が楽しかったくらいだ。ゲーム開始からヒロインが出るまで、セリフをいちいち聞いていると、十分とかかかるくらい、男同士の交流が多かったのもその原因かもしれない。余談だが、この男友達の中には現在では偉い人になった、志倉千代丸がおり、この次の作品にも参加していた。上手くはなかったが、下手でもなかったのでなんとなく許されていたように思うが、問題は次の作品では重要なキャラになったことで、わりと批判を受けていた。

 ……と、ここまで三作をあげたが、どれも今では発売すらできそうにない代物だ。この後は王道になったり、また大人向けにいったり、バランスを取ろうとして大失敗したり、有終の美を飾ったり、再始動で大コエしたりと歴史は長いのだが、その辺りはまだいつか書く。というか、なんとなくの思い付きで書き始めたが、変に書けてしまったので戸惑っている。メモリーズオフシリーズにはそういう力があり、俺にはそうするだけの思い入れがあるのだ。ここには書いていないが、初代に関しては誰よりも主人公の性格と言動が尖がっていて、そこが賛否両論だったのだが、俺はそんな主人公と彼の悪友である信の関係が大好きだった。それも、思い入れを強くした理由であろう。なぜか映像媒体やドラマCDは緑川光が声優を務めていて、奇天烈な言動をしても、まぁいいか、となる説得力を持っていた。あれはいい判断だったと言える。

 ともあれ、今日はここまで。続きはいつか書くだろう。この文章が想い出に変わる前に

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