着るあんこの商標登録問題と、アトあまの声明文を深く読み解く
日陰工房の響音カゲです。
今、Twitterでは「ゆっくり茶番劇」が商標登録された問題についてもちきりです。
金銭を要求するとか、使用権はどうなるのかとか。
同業者さん、他人事じゃないですよ?
過去に、着ぐるみ界隈でも商標問題が起ころうとしていたことはご存知ですか?
そう、着るあんこの商標登録問題です。
まずは自己紹介を。
私は響音カゲといいます。着ぐるみ製作歴おおよそ4年。
最近工房を立ち上げました。
普段は着ぐるみ制作の傍ら、YouTubeチャンネル運営をしています。
今回は、着ぐるみで商売をする私が絶対に無視することのできない、商標の話について。
そして、着るあんこ騒動の、アトリエあまのじゃくの本当の主張は何だったのかについて書きます。
皆さんは、「着るあんこ」をご存知でしょうか?
着るあんこというのは、綿やウレタンを服状に加工し、着ぐるみの詰め物として利用できるようにしたものを指します。
この、着るあんこという言葉が、ある日突然使えなくなるかもしれなかったのです。
それどころか、訴えられるリスクを抱えながら商売をしなければいけなくなった世界線があったかもしれないのです。
それは、私達のような個人事業主の弱小工房にとっては死活問題になりかねません。
知らず知らずのうちに商標違反をして、賠償金を求められた。
商標違反は「知らなかった」では済まされません。
弱小工房はそれだけで潰れます。
商標や特許、著作権というものを知らないうちに侵害するのは非常にリスキーなのです。
だからこそ、私はこの「着るあんこ」という言葉の商標登録にひどく驚きました。
みんなが使っていた言葉が、ある日突然誰かの物になって、私達のような個人工房は一切使えなくなるかもしれない。
もちろん、商売に関係ないような会話の中で使うみたいなことはできますが、商売では相手の許可がなければ一切使えなくなってしまいます。
それは、ある日私達が使っていた大切な言葉を1つ奪われるようなものです。
そんな問題を、もう少し深掘りしていきましょう。
そもそも商標登録は何か? についてお話していきます。
商標登録とは、商品の名称や販売に使う名前などを、独占的に使うことができるようにするための仕組みのようなものです。
以下に特許庁にある概要を引用します。
商標登録された名称は、登録者の許可なく勝手に使用することはできません。
商標を商品名として無断で使用した相手には使用の差し止めを行ったり、損害賠償請求などを行うことができます。
つまり、「着るあんこ」という名前が商標登録されることで、他の同業者は、同様の商品に対して「着るあんこ」という名称を許可なく使えなくなってしまいます。
「着るあんこ」のように、既に特定のコミュニティなどで一般的に使われている名前を商標登録されてしまうと、他の人が使用することができなくなってしまいます。
アトリエあまのじゃく株式会社は法律というルールに基づいてやってるだけなので自由ですが、それによってコミュニティから反感を買うのも勝手です。
今回のケースだと、結果的にブランディングに逆に傷が付くリスクがそれなりにあったということになります。
次は、この事件の経緯を時系列順に見ていきます
事の発端は2019年5月25日午前8時15分、 Twitter の商標登録の速報アカウントで、「着るあんこ」という商標がツイートされました。
SNS で拡散された内容に対するコメントもいくつかご紹介いたします
この他にも、いくらでも出てくるので気になる人は下のリンクで見てもらってどうぞ。
着るあんこという名称は、以前から様々なクリエイターが使用していました。
「着るあんこ」という言葉が着ぐるみの綿という意味で使用されている、最も古いツイートは2014年7月26日です。
Twitterで検索すれば大量に出てくるので、こちらも気になる方は1ヶ月ずつ日付をずらしてTwitter検索して頑張って調べてください。私はもうやりたくない。
もし仮にアトリエあまのじゃくが「着るあんこ」という名称を最初に発表したのが真実だったとしたら、一般名称化しつつあるラインだったから、アトリエあまのじゃくも必死だったのだろうなとは推測できます。
もしくは10万で第三者に名前パクられるの防止できるなら、まあダメ元で投げとくか、ぐらいの軽いノリで投げていたのかもしれません。
これに関しては、もはや知るよしもありませんが。
声明の本当の意味
さてこれらの炎上に対して2019年5月31日、アトリエあまのじゃくは声明をインターネット上で発表します。
「着るあんこの商標登録について」という内容です 。
この声明文で述べていることを整理しました。
・着るあんこの名称の使用を制限する意図はなかった
・2009年に最初に着るあんこを開発した
・万一第三者に商標を出願され使用料の請求をされた場合の対策のために出願した
・「着るあんこ」の名称の最初の使用はアトリエあまのじゃくが2014年から行った
という4点です。
制限する意図はなかった、という主張は、私達の思っていた意図と違う風に汲み取って不愉快な思いをさせてしまったことは申し訳ないと思うが、私達の意図は間違っていないということを暗に主張しています。
つまり、商標を取るのはやめるとは言ってないし、商標を出したことは間違っていましたとも言ってません。
名称を使用することを制限する意図がないだけで、一部の悪意を持っている(と客観的に証明できそうな)同業者に関しては何か理由があれば権利行使も辞さないとも読み取れるでしょう。
この点は商標出願を取り下げたのまネコ事件のエイベックスネットワークとは対照的です。
「着るあんこ」の制作経緯と販売については一見関係なさそうに見えますが、これは商標権の使用の意思の主張に関連していると思われます。
アトリエあまのじゃくは商標登録したことに対して一切悪いことはしてないし、私達が最初に作ったんだし当たり前だよね? ということをこの声明で述べています。
この着るあんこの名称だけでなく、制作の起源の主張も同時にしている、という意図を汲み取ってる人が少なすぎます。
「この意図はなかった」という表現は、自分の意図を正しく理解しない相手を「不快にさせてしまったこと」だけであり、自分の意図それ自体には何の問題もないと主張していることになります。
仮に特許が通らなくても、自分たちが起源ですって暗に主張している記事が「着るあんこ」のGoogle検索でトップに出るようになってるんですけどね。
そして、特許庁からの拒絶理由通知
着るあんこの商標は2019年3月13日に拒絶理由通知書が送られています。
商標は出願をして終わりではなく、その後に審査があり審査が通った後に登録をしてから初めて商標として認められ、効力を有します。しかし着るあんこの商標は審査が通りませんでした。
拒絶理由通知はJ-PlatPatで2019-048381で検索すれば出てきます。
「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもの」という理由により、通りませんでした。
あんこが詰め物、着るはあんこを着るという表現や着るあんこ、という表現がすでにあるため、だそうです。
それはそう。
主に以下の内容が理由です。
・広辞苑
・犬工房のウェブサイト
・西尾市観光協会のウェブサイト
・マイナビニュース
・着ぐるみ制作オフin京王のTwipla
・小動物ケージのブログ
・mixiのブログ
というか、あれだけ通らない通らないってみんな騒いでたのに、誰も商標登録異議の申立て出してないんかい!!!
騒ぐぐらいなら出してくれ!!!!!
別に同業者じゃなくても出せるんだからさ!!!
さいごに
昔の私と同業者へ。
結果的に商標登録されなくて良かったね……とはいいがたいです。
謝罪文出てみんな納得してるますけど。
あれは謝罪文でもなんでもなくて、着るあんこの起源はアトリエあまのじゃくですっていう文章です。
そこまで読み取ってる同業者が少なすぎます。
起源主張ほど不毛な議論はないですが……。
全員へ。
商標に関する情報って一次情報にきちんと当たっている人が少なすぎるし、商標や法律に関する知識がない人が間違った知識や憶測で語ってる情報、又聞きで語ってる情報が多すぎます。
リサーチしてる間にも、明らかに間違った情報を他人に又聞きで伝えてるのを見かけました。
第三者が嘘の情報を広めるのは誰も幸せにならないので、いったん深呼吸して、それが本当かどうかを一次情報にあたってよく調べてから発信してください。
特に、こういう炎上しかねないセンシティブな情報を又聞きで拡散するときはよく考えてください。
私も専門家ではないので他人のことは言えませんが、それなりに今回の内容は調査して発信しています。
内容の修正や情報提供に関してはコメントでお寄せください。
感想
着るあんこの商標に関する情報をちゃんと調べて発信してる人が少なすぎます。
私ももっと早くこの検証をやるべきだったし、私ももっと売上出してちゃんと商標登録異議の申立てはすべきでした。
この記事では、動画よりもさらに同業者向けに、踏み込んだ部分まで書きました。
アトリエあまのじゃくは私の個人的に好きな工房でもあるからこそ、その発信内容に関しては厳しく批判をさせていただきました。
そういえば、商標といえば今度は逆に英語圏で話題になった日本の着ぐるみ制作者がもう1人いますね。
そのうち気が向いたら、そっちの話も探っていきましょうか。
なんかまとまりのない主張になりましたが、以上です。
日陰工房の響音カゲでした。
キャラクターの創作費に使わせていただきます。