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春休みにおすすめの映画「日日是好日」

日日是好日。「日」が三つもある。読み方もてんで分からない。そもそも日本語なのか、中国語なのだろうか。よく分からないながらも、樹木希林さんが出演されているということで、気になっていた映画。観れば、必ず「お茶」(茶道)を始めたくなること間違いなしなのだ。

あらすじ

大学時代に、一生をかけられるような何かを見つけたい。でも、学生生活は瞬く間に過ぎていきー。典子(黒木華)は二十歳。真面目な性格で理屈っぽい。おっちょこちょいとも言われる。そんな自分に嫌気がさす典子は、母からの突然の勧めと、「一緒にやろうよ!」とまっすぐな目で詰め寄る同い年の従姉妹、美智子(多部未華子)からの誘いで“お茶”を習うことになった。まったく乗り気ではない典子だったが、「タダモノじゃない」という武田先生(樹木希林)の噂にどこか惹かれ…

映画『日日是好日』公式サイトより
https://www.nichinichimovie.jp

お稽古の初日は歩き方から始まる。畳の上を歩くのにも作法があって、茶室に入る時は左足から、畳の縁は踏まない、畳一帖を六歩で歩く。すり足で歩くのりこを、「コソ泥みたい」と笑う従姉妹が本当に愉快で、「お茶ってヘンですね!」と素直に先生に言えてしまうところも大好きである。言い出しっぺの従姉妹よりも、乗り気でなかった方が「お茶」が性に合うのが妙にリアルだし、後から入門してくる、習いたての方のビクビクと怯えた顔つき、慣れない正座に足の感覚をなくして転けてしまうシーンには思わず笑ってしまう。いかにも真面目そうな、茶道の映画なのに、笑いながら楽しく観られてしまうのである。もっとも、「昔の自分を見ているみたいでしょ?」という先生の一言に、仰る通りです、と襟を正されたのだけれど。

他にも、お稽古中の先生の言葉が、歳を重ねただけの重みと、自然体で力の抜けた感じを伴っていて、理不尽な感じがすることも、心地よく沁みるのである。

「お茶はね、まずカタチなのよ。はじめに、カタチを作っておいて、その、容れ物に、後から、心が入るものなのね。」

次は何をすればいいんだっけ、と典子が止まってしまう場面では一言、

「頭で考えちゃダメ。習うより慣れろって言うでしょ。稽古は回数なの。そのうち手が勝手に動きます。」

そんなこと言われても…なんて思うのだけれど、ある日、なぜか急に、のりこの手が自然と動く。体が覚えるということや、できなかったことができるようになること、知らなかったことを知る楽しさを感じながら、自分まで一緒に教室に通っているような気持ちになっていた。

それから、この映画、背景に小さな変化がたくさんあって、それらに目を向けながら鑑賞するのも、「お茶流」で楽しいと思う。毎回変わるお茶室の掛け軸やお花、器、季節を表すお菓子。どれも素敵なものばかりで、先生が心を込めて選んでいるのがわかる。そして、先生(樹木希林さん)のお着物。お稽古ごとに変わるのだが、そのどれも上質で、粋なのである。もしやこの映画の着物写真集はないか、と探してしまうぐらい、見惚れてしまう。
また、夏のお稽古の場面で、お茶室の向こうにお庭の緑が透けて見えるのも綺麗だった。透けて見える、というのは、文字通り、すだれのようなものがはめ込まれたシースルーの障子から、透けて見えているのだ。調べたら、簾戸(すど)、もしくは夏障子というらしい。こんな素敵な建具があるなんて。それが、冬には雪見障子になるのが、またニクい。

この映画を観て、お茶を始めたくなる人、多いんじゃないだろうか。私は眠っていた茶筅を引っ張り出して、目下毎日シャカシャカしているところである。
一日一日、一期一会を大切に、小さな変化を楽しみながらしなやかに生きていきたくなる映画だった。春の陽だまりのような温かさと、「下萌え」(観た人にはわかる)に見る希望に包まれる映画だった。


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