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渡り鳥の科学夜話

この春、見つけたとたん胸に抱えてレジに並んだ一冊があります。

全卓樹著『渡り鳥たちが語る科学夜話』(朝日出版社刊)です。

帯に「物理学者が紡ぐ、21世紀の千夜一夜物語 第2幕」とあります。
そうなんです。
その第1幕、寺田寅彦賞受賞の『銀河の片隅で科学夜話』を読んで、すっかり魅せられたのです。

さっそく、本を開きます。
エピグラフに、カフカの言葉。
ついで著者の想いがつづられ、
目次。
「天体」「極微」「街」「生命」と、テーマは4つに分かれ、最初の「天体」は、
第1夜 アステカの陰陽神
第2夜 フォンターナと金星の月
第3夜 土星の環から霧雨が降る
第4夜 ブラックホールの旅
第5夜 革命家のマルチバース
とならびます。

ちなみに『銀河の片隅で科学夜話』の「天空編」は、
第1夜 海辺の永遠
第2夜 流星群の夜に
第3夜 世界の中心にすまう闇
第4夜 ファースト・ラグランジュ・ホテル

そのまま映画か小説のタイトルになりそうなものばかりです。そして、この詩情性から想像できるとおり、ひとつひとつの話、たとえば科学者の功罪、変遷、展望、ロマンなどが、文学的な感性をもってわかりやすく語られます。しかも、いくつかの夜話は新書1冊分あるのではと思うほど、知識がぎゅっとつまっています。ただし、柿の葉寿司のそれでなく、和菓子の練りきりのようにゆったりとして。

話の流れをひとつあげてみます。

タイトルにある「渡り鳥」。それが書かれているのは最終話「インドの鶴の神秘」です。
前著『銀河の片隅で科学夜話』のラストもやはり渡り鳥で、グライダー様の飛行体に率いられた7羽のアメリカシロヅルの話です。
同じく世界を飛び回る科学者として、渡り鳥たちに特別な親しみをお持ちなのかもしれません。

その「インドの鶴の神秘」は、
ガンジスのほとりで、アネハヅルが踊る恋のダンスに見惚れていたことに端を発し生まれた叙事詩ラーマーヤナの韻律「シュローカ」、
春と夏はモンゴルの大草原で、冬はインド北西の村々で過ごすアネハヅルの、ヒマラヤ越えルートの謎、
そのインドでの大冬営地を作り上げたジャイナ教徒の青年、
鳥類学者たちが観察する、集団としてのアネハヅルの社会力学、
カルカッタのガダーダル少年とオオヅルたちの放つ白い光、
と順に語られて帰結をむかえます。

どの話もそうなんですが、結びは余韻を含み、旅のつづきを誘うようです。
冒頭の「はじめに」にも、こう記しています。

読書とは自らの心の凍土とうどをうち砕いて、奥底に眠る異世界を探究し魂に自由を取り戻す旅に他ならない。もしこの書が、読者諸氏の異時空への旅のよきお供となるならば、それは筆者欣快きんかいいたりである。

じつのところ、この本のなかには、そのむかし科学の授業ではやばやと迷子になっていたわたしにとって、かなりの集中をしいられるものもありました。それでも、科学と神秘を縫いあわせていくように心地よくすすむ語りは、読む者を惹きつけて離さなかったのです。

ところで話は変わりますが、魂は死なない、といいます。そうだとして、それならいつ生まれたんだという疑問が湧きます。想像を巡らせて、つたない頭でいきついたのは、宇宙のはじまりのときではないか? ということ。宇宙のかけらにすでにあったんじゃないか……?と。
全卓樹さんの著作には、この2冊より前に『エキゾチックな量子』があるようです。
量子力学。
どうやらこの分野に、この疑問を解くカギがありそう…な予感がします。


2回目です。
前回の公開後、段落を変え、行間を変え、明朝体に変えと、いろいろ試行錯誤しました。
へたっぴな文章はしかたないとして、すこしでも読みやすくなっていればいいなと願っています。 
そして、読んでいただいたかた、ありがとうございます。そのうえスキまで押してくれたかた、ほんとうにうれしいです。ありがとうございます。


あなたと、あなたの大切な人のおなかが
今日もおいしいもので満たされますように。




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