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バカみたいだと思った。

1年前、バカみたいだと思った。
そんな恋愛をしてた。
短編小説みたいで、あっけなくて、はじめから終わりが決まってたみたいなそれだった。

2年前くらいだった。
はじめて出会ったその人は、なんだか全てが素敵な人のように感じた。声も雰囲気も優しかったし、なにより面白い人だった。
その人が言ったことに対して爆笑する なんてことはなかったけれど、いつもクスッと笑ってしまうような、そんなことを言う人だった。

いつから好きなの? とか大学の子はよく聞くけれど、たいていのことって、そんな“いつから”なんてわからない。知らぬ間に始まって、知らぬ間に終わってる。“いつから”と“いつまで”がわかってる人は、きっと終わってから気がついてる。絶対そう、だと私は思ってる。

例外ではなく、私のそれも始まりと終わりがわからない類いのものだった。二度しか会ったことのない人だったけれど、私は知らぬ間に好きになっていたし、知らぬ間にその感情は薄れていた。あの夏の夜の 好きだと思ったよ も聞かなかったことにして。

今思えば、その人の優しさの全てはあのなんとも言えない距離感のためにあった。終わるとわかっているものは始めない、あの人はそんなことを言っていたけれど、ほんとのところは今でも知らないし、知る必要もないと思っている。

会えば二人で夜道を歩いたりしたけれど、私とその人の影がつながることは一度もなかった。いつも掠っては離れる、そんな二人の影だった。それでも、昼の太陽がつくった二人の影より、夜の月や深夜の街灯がつくりだした二人の影の方が なんだか愛おしく感じた。
そう感じてしまうあの時間は魔法のようで、でも、魔法ならば ふたりの影はつながっているはずだった。

そんな 話せば 短編小説みたいだね と言われるそんな記憶たちも、半年前から全然思い出さなくなった。バカみたいだと思っていた恋愛は、知らない間に煙になって 風に吹かれていた。

忘れていく、思い出せなくなる、思い出さなくなる、薄れていく、風に吹かれていく。

悲しくも寂しくも思えてしまうようなこれらに なんらかの意味があるとするならば、それは思い出して感情が溢れたりしないようにするためなのだと思うし、前に進んでいいんだよ という合図なのだと思う。


#エッセイ

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