タイパク14話 無為


[名・形動]

1 何もしないでぶらぶらしていること。また、そのさま。「せっかくの休日を無為に過ごす」「無為な毎日」「無為無策」

2 自然のままに任せて、手を加えないこと。作為のないこと。また、そのさま。ぶい。

「日頃忘れていたゆったりした―の歓喜が」〈宮本・伸子〉

3 《(梵)asaṃskṛtaの訳》仏語。人為的につくられたものでないもの。因果の関係を離れ、生滅変化しない永遠絶対の真実。真理。⇔有為 (うい) 。

野に放たれた無軌道な漫画が、その無軌道さの結果として死亡した。つまるところ、こう言ってしまえば終わりである。

それでは味気ないので14話だけでなくある程度全体を通してこの漫画がどのような状態か適当にイチャモンをつけてみることにする。この作品は例えるなら関節が全部逆にへし折れた人間のようで如何にアイデアがよく一部の筋肉は立派でもそもそも立てないので生物的に終わっているというのが全体に対する最初の感想である。では死者に対する冒涜にお付き合いいただきたい。

画像1

序盤

罪を犯そうと即座に物語が終了するわけではないが、それは主人公の魅力を単に損なうだけで終わる。ただ主人公に都合がいいだけの世界を展開し続ける割に、話としては進展がなくただただこれは悪いことではないですよ!という類の主張を延々とし続け時間を浪費した。最初のセッティングをもっと綿密に組んでおけよ。安定して掲載が可能な媒体だったと仮定してもセッティングのミスは変わらないので擁護意見も満足に立てれそうにない。

中盤

10週で打ち切りになる漫画は第一回でおおよそ命運が決まるらしく、14週のこの漫画の命運は編集部的にはおおよそ6〜7話に決められたと言える。つまり7話は一巻の終わりになる衝撃の幕引きとしてある。そこから9話くらいまでは序盤の不調を挽回し読者を引き込むためのパート…なのだが、みえていたはずの地雷を踏み抜いて大慌てし好感度が高くなるわけもない主人公の独り芝居と責任転嫁が続いた。

ここでも目立つ見通しの甘さに加え、全体的に主観すぎる作品観も問題だろう。読者の声に始まり、主人公の客観評など作品を俯瞰する要素はほとんどない。主人公が主人公なら作品への没入度が確保されまとまったファンも得られたかもしれないが、哲平を好きになるのは非常に難しい。

10話ではとうとう観念したのか、ヒロインの回想が始まった。打ち切りあるあるでせめてメインキャラの掘り下げだけは十分にしておこうという配慮である。謎の宗教視もここで生まれたが話は市井の主人公からブーメラン的に放たれた世界観はあっという間に市井の話へと帰着し、セカイは展開されなかった。

話を主人公とヒロインの二者に集中させるため数多のキャラがポイ捨てされた。不法投棄のジジイ、アシスタント×3、一瞬存在を匂わせた主人公の師匠。存在感がゲームの没データに毛が生えた程度しかない。濃度が上がってやることが独り芝居なのがFCP(ファッキンコミックポイント)が高い。ナマポでパチを打つ人間の如し。

そして終盤へ

サイコロボットの杜撰極まりない計画が明らかになる。連載前にもうちょっと考えておかなかったんだろうか?そこからひたすら都合のいい停止空間に入り主観でかつ都合が良い展開はついぞ是正されぬまま最終話に至る。では最終話を追っていこう。

漫画技巧(スキル)を磨きつつ作品に大事なメッセージを込めた主人公は時間を動かしアイノの元へ行く。サイコロボットはしれっと死亡した。二度と帰ってくるなよ。そしてアイノにネームを渡し、アイノは漫画の中に光を見出し感動して今度は哲平の元へアイノが行く。二人は軒先で棒立ちのまま最後の会話をする…。

漫画に込めたメッセージを受信し悟る→読者にも分かるように、またお互いのコミュニケーションとして会話をする→幸せな未来へ(ハッピーエンド!)という運びである。

やはりどう見てもおかしいのは中段であろう、謎の漫画空間でお互いのイメージを見るみたいな突飛さも最終回では許されるのだから、なにもキャラが作品を経てどう変化したか?何がしたかったのか?が一切でぬまま口で全てを説明するただただ地味で不毛な絵面を展開し続けることはない。重ねて、読書で直接どんな変化が起こったか一切描写されず光って終わりなのはすごい。

画像2

(週刊少年ジャンプ2020年 39号より)▲ページが実は中性子を反射する素材でできていて、ウラン原稿が臨界に達したため光っている可能性も微粒子レベルで存在するかもしれない。

会話の内容は「描く楽しさがまず初めにあったことを思い…出した!したし全人類に楽しんでもらいたいのは単に己の孤独の裏返しでしかなかった。だからこれからは楽しさ重点!」→「全人類に届く漫画なんかない、俺は君に向けて書いたよ漫画なんてそれでいいんじゃない?」→「あと漫画はもっと健康的に書いた方がいいよ!」「「アハハ!」」

繰り返しになるが、自分が間違ってただの思い出しただのを口で事後報告して終わりなのは如何なものか。特に間違えていた方は哲平にその片鱗が開示されていてはいるもののそこを思い返し返答を込めたわけではないので、真っ当なやり取りとは言い難い。「お前の親は痩せてきたから麓の村に逃したよ」みたくことのついでで物事を解決するな。

加えて、「いのちだいじに」が作業をするのに理想的な空間に20年ほどいた主人公がどの口で訴えるのか?アイノからもお前が言うなと半ば冗談まじりで言われてしまっている。アイノのアプローチには間違いがあったことも踏まえてアイノの死因はただの過労なのでどうせなら過労自体もガッチリ解決しておけばいいというのは…些事か

意味のある結論

作品を通して何を伝えようとしたのか?作品を語る上で大事なのでみてみよう。まず1話を通して提示されたのは以下の通り

主人公…夢を追いかけ続けるが追うこと自体の進退に悩む
悩み…伝えたいものがない
派生する問題点…大衆受けどころかニッチ受けさえ難しい

話の展開としては有り得ない出来事からあるはずのない展開が生じていく。犯した罪への応対から主人公の人格(ロクでもない)を浮き彫りにしつつ、試練を乗り越えて最後に結論を得るはずである。

最終回でやったのは主人公は自分の同類に対してようやく語るに足る自己の中身を見出し、そもそも誰か一人にウケたら幸せじゃない?となった。そう、まだ哲平は己の問題点を完全には克服していないし、夢と現実の折り合いをどうつけるかの結論やアマを脱しプロとなる過程で初志はどのようにするかの結論も出ていない。作者がそのどれにもがっぷり四つしてないんだからよしんばやっても火傷するだけな気もするが…

とにかく、主人公の行く末やらが細かく描かれなかったりあくまで主人公は自分の同類との内輪の中にいたままだったりで完結したように見えるが俺たちの戦いはこれからだ!エンドなのだ、別にヒロインを助ける義理も薄ければそれ自体が当初から目的であったわけではないので中ボスを倒して終わり程度なのだ。作者は言いたいことだけ言って、特にモノローグなどをつけることもなく物語は裁断機でプッツリと切られてしまった。

無為な死

そんなわけで最後までグッダグダのまま、死に体は遂に死体となった。両先生の捲土重来をお祈り申し上げておく。あとはタイパクのメッセージが一人はいるかもしれないイチマせんせいの同類に届きますように!

画像3



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?