異世界探報期 最強タンクの迷宮攻略
体力9999のレアスキル持ちタンク勇者パーティを追放される
追放系のキーワード
なろう作品は何かしら作者と読者の欲望を強く反映したものが多い。所謂追放系に対応している欲望は「もっと評価されたい」だと考えている。今いる場所(ぶっちゃけ職場とか)では手違いで評価されていないが、しかるべき場所ではしかるべき評価を受けるはずだし、都合のいい異性が自分を評価してくれるはずだ…というナイーブな欲望がストーリーの発端にある。
別に動機がなんであれ、それが面白い物語を作るなら結果オーライというものだし、名作はロクでもないところからも平等に出てくるものだろう。しかし粗製乱造された大量の作品群は欲望が作品になるまでの過程を欠いているといわざるを得ない。
自分は説得力が欠けているものの一つだと考えている。「主人公は評価されてないだけなんだ、実はすごいやつなんだ」に始まり、主人公を欠いたパーティが失敗する理由も、主人公がファックしたいだけのメスブタに好かれる理由も、作者の「こうならいいのに」という結果の部分ばかりが優先されて過程など他の何もかもが足りていない。だから欲望だけが先行して視聴者は絵に描いた餅を見続ける羽目になる。
こう書くと誰も見る理由がないのだが、この手の作品はあるスキルがあれば楽しむことができる。主人公に感情移入して一体と化すのだ。そうすれば無限に続く接待を自分のことのように感じられるだろう。先ほどの説得力とは、主人公に入れない状態から感情移入するに至るのに必要な要素の一つで、作品の一般性を高めるためにとても重要ではないだろうか?そこが欠けているから無条件でダイブできない人には優しくない。
異世界技巧:自己啓発
異世界接待を考えるうえでこの作品はかなりわかりやすいものといえる。なぜならこの作品は隙あれば主人公をあの手この手でヨイショし続けるからだ。接待の密度という意味ではかなりのものがある。それ以外に見るべきところがないので、否応なしに構造そのものに考えが及ぶ。
たとえるならなろうは終わらないワルツのようなもの 金 暴力 SEXの三拍子がいつまでも続く…
けがをした子供に爆速で寄ってきて、擦り傷だけなのにもう家に帰ろうかという過保護な母親のように、主人公には常に何かしらの庇護が与えられている。都合の悪いことの一切を許さないため1話で描写された崖っぷちの状況は3話の頃にはほとんど消滅しているのは序の口で、6話くらいまであらゆる意思決定に関してウダウダしてる主人公に対して「あなたはどうしたいのか、好きにやればいいでしょ」と事あるごとにヒロインが言ってくる様はさながら自己啓発セミナーだった。1回でも十分キツいところを2回もするな。女の子にそこまで言わせておいて、その言葉が響いてなかった時には脱力した。
女の子にいちいち背中を押してもらうだけでもけっこうアレなのに総出でヨイショされてようやく重い腰が上がる人をどう好きになれというのか。別に他人を信じづらくなった過去の出来事とかないしな。
細かいみどころ()
戦闘の作画は全体的に終わっている。魔法を放つシーンは両手を前に出し、魔法陣から属性に応じたエフェクトが発射される描写になっているのだが、この作品はやる気がないので、メスブタ3人を横一列に並べて全員に同じポーズを取らせる。使う技も見栄えなく全員で炎魔法を斉射する。
ただし炎魔法は山なりに発射されるので消防車の放水みたいな構図になっている。やっていることは火に油を注いでくるエグめの放火魔だが。
戦闘関連の描写では他にも、奥行きが消えた集合写真が戦闘の最中に映りこんだり、たびたびパースが狂ったり、HPの減少値が画面の端に妙なフォントで出るのだがhpの最大値が分からないのでどれくらいの被弾なのか一切わからないなどしている。5桁ダメージを受けて死んでないことで主人公の最大HPがいつの間にかサブタイの9999を超えていたことが分かった時は何事かと思った。
この手の作品にありがちな、男に媚びることしか能がない万年発情期女の痴態狂態もちゃんと見られる。頼むから死んでくれ。接待の体を取りつつ、主人公に好意を向ける様を描こうとするものの、奥ゆかしい表現ができないために性欲に忠実なアバズレしかいなくなるのだ。作品を接待に寄せすぎた結果としてあらゆる要素が順当に腐っている様を想像して欲しい。狂ってる?それ事実陳列罪ね。
リリアとリリイという薄汚いレズ姉妹のクッソ雑な姉妹愛も搭載されている。姉妹同士で発情しているように見せかけて、片割れが主人公にお礼と称してキスしたりするので、いちいち人の神経を逆なでするのが上手だと思った。ちなみにこの姉妹は合体するのだが、合体シーンの目を閉じて向かい合い手をつなぐシーンは完全に使いまわしである。合体後の額の部分にそれを映して脳内会話してるシーンは流石に笑った。限界オタクのつけるカチューシャみたいになっててキモい。バンクをフリー素材にしてスタンプみたく使うのはオリジナリティがあってしかも珍妙な光景だ。
キャラの顔が崩れないことに全力を出すのは最近のクソアニメのトレンドだ。ほとんど全員好きになれないし、なんなら腹立つのが玉に瑕。
終わってる倫理観
こういう揚げ足取りの割合は本来感想内であまり大きくしたくない。順番に挙げていくときりがないからだ。しかし、せっかく追放系全体に触れたのでなろうにありがちなサイコとこの作品での具体例についても触れておこうと思う。
おおざっぱに言うと、主人公クンに次はこのアイテム(地位・富・女)を上げよう!というところから逆算して、問題の解決を雑に済ませるせいでどこかで筋が通らなくなり、誰かの倫理観が犠牲になる…ということがよくあるパターン。逆算型の脚本が失敗したときにおこる他の弊害は、解決すべき問題にその解決方法を持参させて自分の足から歩いてきてもらう…というパターンからも生まれる。これはこれで深刻で、物語におけるあらゆる出来事が茶番と化し、主人公の偉業の説得力がガバガバ通り越してマイナスになる。何って…知育パズルを解いて積み木を穴にハメただけだが?
この作品の具体例はというと、まず作中にはダンジョンが存在する。このダンジョンには魔物がうようよしており、それらを突破して奥にいる主を倒すと願いをかなえる魔石がもらえたりする。ドラゴンボールでも7個だったぞ!と言いたいが、願いが叶う度合いが1/7くらいなので主人公は七つの大罪に沿ったボスを倒して、7個ほど集める必要があるようだ。ドラゴンボールオマージュとしてこれ単体でみれば何か面白い話が作れそうである。途中で最初の願いを続けるか迷うとか。
追記:願いをかなえる魔石はweb原作では魔本のページだった。コミカライズかどこかでわざと魔石と魔本を魔石と魔石にしたらしい。ややこしい。
そしてこの願いをかなえる魔石がなくなったダンジョンはかなり危険度の高い炭鉱のようなものだと考えられる。wiki知識だが魔物は倒すと溶けてなくなり、魔石と呼ばれるエネルギー源のようなものを落とすらしい。内燃機関のようなものはないので、資源としての重要性が高いとは見づらい。そして主人公は町の近くにできたダンジョンの主と和解し、管理運営を任されるのだった。
ダンジョンが人を集めてその近くに町ができるのは、願いが叶う魔石による部分も大きいんじゃ…?しかもモンスターを増産する仕組みはダンジョン内の冒険者の外皮(外付けのHPのようなもの、これが尽きない限り冒険者本体にダメージは入らないようだ。サブタイの外皮はこれのことを指しているらしい。別の概念だと思ってたわ。)が減少した分によって賄われている。
…つまり攻略後の唯一の資源である普通の魔石は入ってきた冒険者から二度手間を介して生成されている側面があるといえる(魔物は一応自然発生もする)。自然沸きの駆除は大事な仕事だが、魔石を稼ごうとする行為自体は命の危険がない分、自分の外皮削って冒険者が適当に生成すればいいんじゃ…?そもそも主人公は願いをかなえる魔石をダシに人を集め偽りの希望で踊らせているようにしか見えない。もしかしたらどこかに言い訳が書いてあるのかもしれないが、アニメ制作陣はその辺どうでもいいらしく誰も触れない。狂ってんのか?初代世界樹の迷宮でそのマッチポンプやってたのはラスボスだったぞ。
なんか最近なろうで流行ってる町つくりゲームライクな要素を俺も入れたいなあ…みたいな俗っぽい意図しか感じなかった。主人公君は戦ったダンジョンの主を仲間にしつつ都合のいい迷宮を手に入れてしかもそれで発展した町のまとめ役を任されることを考えると、都合のいい成果のために倫理観が犠牲になっていることがお分かりになるだろう。女の在庫は十分だから富と権力を同時にもらった形になっている。
まとめ
主人公ヨイショの一点に特化し、あらゆるすべてをもって接待する様は教科書に載せれるお手本のようななろうだと感じた。一つの意図に沿って意思決定がなされることであらゆる要素はそれに沿って構成され…でも目的の部分がそもそも間違ってるから…あらゆるすべてが癪に障る!この作品で唯一褒められるのはアニメ放映部分で肉体関係をにおわせる要素が皆無だったことだ!それ以外にない!
アニメ製作陣も製作陣である。こんな訳のわかんないやつをいちいちアニメ化すんじゃねーよ。
-85点くらいの出来。-90以下は肉体関係を使った下劣な媚び売りやらよほどのことがないとたどりつけないんだ。仕方ないね。
余談だが、サムネのモザイク肉を食べるシーンはアニメで一切の説明がなかった。どう見ても時間差しょうもないギャグが来る展開だと身構えていたのにまさかの完全スルーとは恐れ入る。どうせならまるまる一話モザイクかけたら、SNSで話題になってよかったんじゃないかな。そんなのに騙されて1話でも見る被害者がいなくて私はうれしいです。
幻覚
タンクは味方のダメージを庇う職業である。それが身に染みている主人公は、苦難や苦痛だけは目の前で背負って見せるが自分で問題を主体的に解決したり責任を負うことはどこか他人任せにしてしまう妙なアンバランスさがあった。
追放の理由は大部分が言いがかりだが、無神経に見えた男の放言の中には主人公に深く刺さるものもあり、自分の甘えた部分を鍛え直すため追放処分は真摯に受け止める。
自己肯定感の低さがストイックさに繋がっているため一度そうと決めれば、突っ走り続ける主人公。しかし主人公は今まで何もしていなかった訳ではない。主人公の頑張りを陰で見続けていたヒロインは何かと主人公を気にかけ、それでも主人公は自分たちを庇い続けてくれたのだと、やってきたことの全てが無駄だったわけではないと、主人公を"庇い"窮地を救う。今までにない経験と、自分を心配してくれる人の存在。心境の変化から主人公に新しいスキルが芽生え…!?
そういう話かなってタイトル見た時に思った。あるわけねーだろ。
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