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備忘録と治癒を兼ねて文章を書きます。仕事で新聞記者。演技や映画制作に関心があります。9…

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備忘録と治癒を兼ねて文章を書きます。仕事で新聞記者。演技や映画制作に関心があります。95年生まれ

最近の記事

納得のいくセックス

迷惑メールに行ってしまった必要メールを回収するために迷惑メールフォルダを見ていたら、「納得のいくセックスができていますか?」と件名で尋ねてくるメールを頂いていたことに気づいた。 演技についての社会人スクールに通っている一環で、受講者がそれまでの自分の経験などを「自分語り」する場が設けられた。それをもとに演出家が脚本を書いてくるらしい。 それぞれの人が、たぶんそれぞれの人なりに、あまりそれまで人には伝えてこなかった過去についてなぜか結構、明らかにしていった。 おれは自分が考

    • 信頼

      個別の企業について調べるとき、採用ページに立ち寄ってみる。 だいたいの企業はそこで「先輩社員の働き方」みたいな具合で、一日の動きや一問一答を掲載している。 「どんな新入社員を期待しますか?」という問いへの回答で多いのが 「一緒に働きたいと思うような人」「素直な人」の2つだ。 これはようするに、「自分の思うように動いてくれる人」ということの自白に過ぎないわけだが、そこから転じておれは、「信頼関係」という言葉について考えていた。 おれがこの数年、ずっと思っていることは「自分の

      • 行きたい方へ導く

        考え事というのは結局のところ、単純な結論に至った場合のほうが成功しているケースが多い。 ふとひらめいた奇手も、常識はずれなものの見方も、時間が経つうちに自分のなかで陳腐化しそのうちまったく価値のないものであることに気付くことになる。 演技というものを考える際には、「心」と「身体」を接続するということが割と一般的な理念として共有されることが多い。 たとえばある役を演じる際には、その役が悲しいと「思っている」ことを、演じる自分の身体でどのように「行動」して表すかということが焦点

        • 映画「ぼくのお日さま」を観に行く。 あまり館数が多くなく、自宅から3番目に近い映画館へ行く必要があった。 自転車で約5キロ。 映画鑑賞後の自転車移動は悪いものではない。 クルマとも歩きともちがう個人的なスピードは作品の反芻に一役買う。 帰り道も中盤に差し掛かったころ、通り雨に降られる。 しかしながら、気持ちが悪いのは最初のうちだけで、すっかり濡れ鼠になってしまえばこっちのものだ。夏のおわりの夕立は爽快至極とばかりに、傘に隠れて歩く卑怯者をかきわけつつ、自転車をすっ飛ばした。

        納得のいくセックス

          結婚

          高校時代の同級生の結婚式の通知をメールで受ける。 「なぜおれにまで」と中身をみると、自分が関わってきた大勢を集めて、久しぶりの再会を誘発したいというような主張がされた案内文。鼻白む。おれはもう親族でもない限り結婚式に参加することはないと決めているので自動的に欠席を選択する。 この男は高校時代、一時は学校規模の懸案とさえなった苛虐ないじめを主導したメンバーのひとりだった。いじめられた男は不登校になり、異常で不健康な太り方をし、学習の進捗に支障をきたし、いつのまにかどこかへいな

          始めるということ

          スープジャーに料理を仕込み、仕事に持っていくということを始めようと思っている。 今日はその初日だった。 鶏肉や野菜、きのこを煮込んだ具沢山のスープを、空いた時間にベンチで食べる。前日から作っておいたおかげで思ったよりもおいしく大変満足した。 この2年ぐらいのおれの食生活は、朝食に一番のウエイトを置くことになっている。夕食は酒とすこしのつまみくらい。空腹ぐらいの状態で眠る。 朝、負債のないからっぽの状態で起きると、なんとか一日を立ち上げる気力が維持できる。 そこで問題となるの

          始めるということ

          言葉

          脚本を書いていた時に、自分のなかから何気なく自然と出てきた台詞を、最近になってよく思い返している。 「ねこは言葉が通じないからいいですよね」 我が家のねこは、おれがソファに仰向けに寝転がったことに気付くと、すみやかに駆けつけ胸のあたりに乗っかってくる。なでつけてあげると喉をゴロゴロと鳴らし、頭を擦り付けては、舐めてくる。 誰も不在の時間が長かったのちに帰宅すると、通常より高い声のトーンで何かを訴えながらかけ寄ってくる。 おれは抱え上げて匂いをかぎながらこう思う。 「ああ、言

          ハンカチ

          トイレの洗面台で、尻ポケットあたりからハンカチを取り出す男を見かけるたびに、どういうメカニズムで暮らしを設計すれば、毎日清潔なハンカチを持って出かけるというような快挙がなし遂げられるのかを不思議に思っていた。 おれはこれまでの人生、トイレで手を洗ったあとに(ちなみにおれはせっけんで手を洗うことがすきなのでよく洗う)たいていはズボンのモモあたりで拭いてきた。あからさまにズボンがぬれている見た目というのは社会的な場面では避けるべきことなので、その場合はモノが入っていないポケット

          ハンカチ

          づらさ

          すねから流血しながら宝くじを買っている人がいた。 宝くじ売り場の正式名称が「チャンスセンター」であることに気付いてから、通りかかるたびに毎回、やっぱり間違いなく「チャンスセンター」であることを確認してしまう。 近所に学童がある。夏休みは朝から小学生が集う。 イケメン好青年スタッフの出勤を待望する、おませな女子児童が二階から玄関を見下ろしているのと、目が合った。 最寄りのコンビニで働く内藤さんは、色黒でがっちりしている角刈りのおじさん。「肉まんいかがでしょうか~」と客に積極

          づらさ

          異常値

          電車の端の席は人気だ。座席の多くが空いている場合、多くの人は端の席に座りたがる。 なのでおれは、空いている電車で座る場所を選ぶとき、端から1つ隣を選ぶことにしている。 端の席を選ぶ人が多いということは、すなわち、その隣に座る人は少ないということだ(電車のなかでは、人と人の間がなるべく空くように駅ごとに調整することがマナーとされている) なのでおれは、1度座った位置は決して修正しない。そのため、混みそうな電車では座席には座らない。脇にスペースがあるタイプのドアの横を確保し、固持

          おなかに

          また今日も、移動の電車で腕組みをしながら突っ立っていた。 近くの空いていた優先席に、「おなかに赤ちゃんがいます」マークをつけた女性が腰掛けた。その人がつけていたのは、木製にみえる「おなかに赤ちゃんがいます」マークで、ちゃんと気にしないと気づかないくらいの地味なやつだった。 1番ベーシックなピンクのやつは、人によっては目立ちすぎるように感じるのかもしれない。逆に、周りにビーズのような装飾を施している人も見かけたことがある。 「人ぞれぞれだなぁ」と考えていると、隣の車両から、ベ

          おなかに

          得意

          チェスの世界チャンピオンがコンピュータに負けたのを見て、コンピュータの専門家は「人間はチェスが苦手すぎる」とコメントしたらしい。 コンピュータはほとんど無限の処理能力を持つようになった。囲碁でも将棋でもそうだが、いくつもの打ち手があったとしても、それが無限でない限り(全てのパターンをコンピュータに入力できる限り)、コンピュータは正解にたどり着ける。 どこかの本でこの話を読んだあと、よく、「これは人間が得意か」「人間に向いているか」ということを考えるようになった。 例えばS

          無理

          「東京というのは世界の都市と競争せざるを得ないんです」 都知事選挙を機に聞いた言葉が、ことあるごとにアタマのなかで反響している。 明日の都知事選、20時の開票が始まった瞬間にNHKで小池百合子の当選がアナウンスされ、そして小競り合いの末、日付が変わらないうちに蓮舫が石丸伸仁にも負けたことが明らかになる。 結局、おれたちは、蓮舫には投票しない。 これはやっぱり、東京という都市が、日本という国が、先進国と呼ばれる地域が、競争をし続けなければいけないからだ、と、おれは思った。

          あなご

          23時過ぎの電車で自宅最寄り駅に帰っていた。 車内には座っている人がちらほらいる程度で、だいたいの人が眠いか酔っ払っている。 インド人?のように見える30代くらいのサラリーマン(ワイシャツに革靴、リュック)が、隣に座っていた20~30代くらいの女性にスマートフォンを見せながら話しかけていた。 アヤーン(仮名)が酔っ払っている様子だったこともあって、女性はそれに取り合わず、差し出されたスマホに目をやることもなくただ首を振った。 するとアヤーンは諦めて、近くにいた別の男性(彼は酔

          アジア

          上司との面談。 「海外で行きたい勤務地はあるか」との問いについ口がすべる。 「インドネシアとかフィリピンとか。東南アジアですかね」 これは決して嘘ではない。東南アジアと呼ばれる地域の、ひとまず民主化されているような国に住んでみたいということを考えることはこれまで何度もあった。 へずまりゅう氏の都知事選出馬会見。 「当選したら給与は全て寄付します」 「知事をしながら農業をして生きていきたい」 ガーシー氏が落語家に転身。 「オレにしかできひんちゃうか、向いているなって」

          軽井沢の風

          地下鉄の座席で小さなメモ帳に、日記のような、自己分析のようなことをずっと書き込んでいる青年(20歳ぐらい?)がいた。 日々の中でスマホに記録した、「11:00バイト」みたいな各日の推移記録をもとにその時々のことをより詳しくメモに書き込んでいるようだった。 おれは彼が座っていた端の座席のさらに隣の、ドア横のスペースに立っていたので、メモに書き込んでいる内容をよく観察できてしまった。 その観察によると彼の1日は大きく、「バイト」と「声かけ」で構成され、メモ上で展開される分析の

          軽井沢の風