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歌い手界隈のもう1人の革命児 – キミはラッパー「nqrse」を知っているか!?

「歌い手」という言葉は、どこまで浸透してきたのだろうか。ボカロPだったハチが、作風を変えて米津玄師として活躍しているように、歌い手の中にも、あえてそのルーツにこだわらずにスタイルチェンジし、メジャーシーンで躍進していく人は多い。

一方で、歌い手出身であることにこだわりを持ち、歌い手界隈そのものの権威の底上げに力を注ぐ人たちもいる。彼らの活躍によって、歌い手はYouTuber同様、確実に市民権を獲得してきている。

その功労者たちが具体的に誰かというと、今ならまふまふ、そらる、天月-あまつき-、あたりの名前を挙げる方が多いのではないかと思う。特にまふまふはニコニコ動画にルーツを持つシンガーを集めて「ひきこもりでもフェスがしたい!」というフェス型のライブを毎年企画・開催している。これは今年、ついに西武ドームで行われるに至った。

蛇足かもしれないが補足しておくと、もちろん活躍しているのは彼らだけではない。多数の歌い手一人ひとりがそれぞれにベクトルを持って努力を重ねて来たからこそ、界隈全体の底力がついて来たわけである。今回は歌い手をあまり知らない人も読むことを想定しているため、こういう形で名前を限定することを許して欲しい。

前置きが長くなったが、今回私が語りたいのはnqrse(なるせ)という歌い手だ。実は先ほど名を挙げた全員と動画投稿やステージを共にしており、「ラップ」という切り口で歌い手界隈の拡大に貢献して来た。普段は他者の曲のスパイスとしてnqrseがラップ部分の作詞・歌唱を手がけることが多いが、彼自身は曲全体の作詞曲やミックスも対応できる。


今の所、そんなnqrse単体が表立って取り上げられている記事はない。歌い手界隈の発展を語る上で欠かせない1人であるのに、だ。

であるなら、このせっかくの機会にぜひとも知ってほしい。ゆるふわピンク髪の美少女アイコン、口を開けばハスキーボイスでゴリゴリのラップを放つ、歌い手ラッパーのnqrseを。


初心者もノれるラップで、歌ってみたを“武装”する

それまでシンプルな歌のカバーが中心だった歌い手文化に、ラップという彩りをもたらした。そんなnqrseの持ち味は、“初心者もノれるラップ”だろう。

こちらの歌ってみた動画のイントロで、いきなりパワフルなラップを展開しているのがnqrseだ。なお原曲にラップはなく、nqrseが自身でつけたもの。(原曲(buzzG):
https://www.youtube.com/watch?v=oYDzXhhtLp0 )

この動画でコラボしているあらきは、界隈随一の歌唱力を誇る歌い手である。XYZという歌い手ユニット(※)にも所属している2人は、この他にもよくコラボ動画を投稿しており、中毒性の高いグルーヴ感が人気だ。

※多数の歌い手を擁し、ライブや曲のコンセプトに合わせて都度キャスティングされる。luzがオーガナイザーを務め、9月には横浜アリーナに立った。

自己主張ではなく聴き心地を追求した、耳馴染みの良いnqrseのラップ。主役ではないが、脇役というにはいささか頼もしすぎる。私は「曲が武装する」とよく脳内で表現しているのだが、伝わるだろうか。

nqrseが活動を始めた頃のニコニコ動画は、正直、日常的にラップを聞くタイプの人間が視聴しているものではなかったと思う。そんな中でラッパーとして動画投稿を始めた彼。自身は、出演するライブのMCで「ラップを好きになってくれる人がもっと増えたら」とよく語っている。

話は脱線するが、ラップと(ニコニコ動画における)歌ってみたは、実は親和性が高かったのだと思う。具体的に挙げるなら、下記の点だ。

■画面を見ながら曲を聞く文化
一般人が聞き取りづらいラップも、動画内の歌詞やコメントを見るので何と言っているのかがわかる
■愛のあるいじりが楽しいコメント
勢いのあるラップ歌詞は字幕化しやすく、コメント欄が盛り上がりやすい
■1つの曲を、いろんな歌唱者の動画で視聴する「歌ってみた」
全く知らない曲のラップパートは受け入れにくくても、好きな曲のラップアレンジなら聴いてみたい、という土壌がそもそもある
■二次創作・ファンアートを楽しむ場
ラップに対する固定概念を覆す、リスペクトある公式いじりや各ラッパーによるユーモアの詰まったリリックが楽しい

(なぜかニコニコ動画のリンクが埋め込めないのでYouTubeの動画を埋め込んできたが、ここはせっかくなのでニコニコ動画で視聴してほしい)
▼Happy Halloween Rap ver.
https://www.nicovideo.jp/watch/sm24812825

上記のポイントが作用した結果、従来のラップをそのまま輸入するのではなく、界隈のカルチャーと融和しながら、視聴ハードルの低い新しいラップスタイルとして溶け込んでいった。

ただしこれらは結果論である。振り返ってみれば美しい物語でも、当時最前線を突き進んでいた当事者たちからすれば暗闇だ。中高生リスナーが大多数を占める令和の歌ってみた界隈にとって、ラップがなくてはならない存在となっているのは、nqrseをはじめとする先駆者たちが多数の偉大な作品を生み出し続けてきたからこそだろう。

■部活の後輩のような、親しみやすい人間性

本題に戻る。ここからは、ラップ以外でのnqrseの魅力を語りたい。

見出しでなぜ「後輩」としたかというと、年上の同業者と絡むことが多いからだ。それこそ冒頭に上げたような歌い手に比べて、あるいはXYZの中で、nqrseは歳が若い方だ。配信やライブではみんなの弟よろしく天真爛漫に振る舞っているように見える。が、しばらく彼を追っていれば、その実、周りをよく見てブレーキ役としての機能を発揮していることがわかるだろう。共演者のイメージを決して落とさず、もちろん視聴者は楽しめるように、必ず毎回コンテンツとして綺麗に完結させるのだ。

もちろん本人がどこまで意識しているかはわからないが、どうにも私には、彼の進行には神業じみたものを感じてしまう。いわゆる「可愛い後輩」として懐に入っていき、誰も傷つけることなく盛り上げ、自らの出番が終われば鮮やかに去る。彼と相性の悪い存在が、私には思いつかない。

じゃあ、彼単体をトップに推し上げたいのかと言われれば、そうでもない

そう。そうでもないのだ。
なぜなら、彼は自らがそこに徹しているように、サポート役としてこそ輝くからだ。nqrseはなぜか、単独でのライブ公演を行わない。抱えているリスナー数を考えれば、かなりのハコでも実現できるだろう。

にも関わらず、彼はいつもサポートとして、ステージに立つ。自らのCDもあまり出さない。投稿する歌ってみた動画も、なんならソロよりコラボ・サポートの方が多いくらいだ。誰かの歌にラップを添えたり、誰かと一緒に歌うことで、曲全体に厚みが生まれる。それこそ、彼にしか成せない技であり、存在意義であり、魅力だ。

ちなみに、タイトルをにゃるら氏の超有名記事のオマージュにしたのは、一応理由がある。ビジュアルは可愛い女の子、喋れば男性という点、どこかで聞いたことがないだろうか?そう、まさに、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんことねこます氏と共通しているのである。まあ見た目の性別と中身の性別が違うのはインターネット黎明期から散見されるケースであったし、そこを(結果として)逆手に取った両者のキャラ形成は似てるも何も、あちこちで起きている事象なのだが。

余談はさておき、歌い手界隈が一過性のブームで終わらず、さらにはアーティストのキャリアパターンの1つとして確立しつつある裏には、彼のように縁の下でカルチャーを支える功労者の存在もある。私が真に彼を推したいポイントは、そういう所なのかもしれない。

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Instagram→ https://instagram.com/nqrse
YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/user/nqrse

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