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この子 ワンマンライブ「storia 〜月光のささやき〜」レポート

2014年に活動を開始した歌い手・この子。初投稿時から際立っていた歌唱力、またアイコン性の強いビジュアルで、若い男女から人気を集めている。色素の薄い髪に、お人形のような顔立ち。被写体としても無二の魅力を持っている彼女は、2月9日に活動6周年を迎えたばかりだ。

そんな可憐な彼女が、ライブでは、ときに力強くがなり、ときに妖艶に誘い、ときに蝶のごとく舞う。ネットの歌姫、という呼称があるとするならまさに彼女のためのものだろう。今日は品川インターシティホールへ、この子のワンマンライブを観に行った。

今回のライブはこの子自身が綴った、「月光神社」を舞台とする物語と共に進む。
純白のワンピースで登場すると、「Rabbit-僕の中の君-」そして「Unravel」で物語の幕を開ける。華やかなワンピースとは裏腹に、悲壮感すら漂うほどの歌声は、早くも聴き手の心を虜にする。

華奢な体躯のどこから出しているのかと思うほどのパワフルな歌声。質量を伴っているかと思う程のその声は、バンドサウンドに乗っかるというより、もはや自ら手綱を握って率いているようだ。

羽織をまとい和洋折衷のファッションになると、「月陽-ツキアカリ-」へ。アップテンポな曲に舞えば、衣装の袖や裾が広がる。「結ンデ開イテ羅刹ト骸」ではダンサーだけでなくこの子自身も踊り、見応えあるステージングを繰り広げた。

オリジナル曲やボカロカバーなどを織り交ぜながら進んでいく中、中盤ではおなじみ「紅蓮華」も披露。特にタイトルコールはなかったのに、歌い出しの瞬間、会場の心拍が大きくなったのが肌でわかった。

「みんな立つでしょ!?」の声で、観客は解き放たれたかのように次々と立ち上がる。LiSA続きで「ADAMAS」を放てば、何かを解禁されたかのように、それまで控えめだった観客は全力でペンライトを振り始める。

バンド・ダンサー紹介を終え、満を持して披露されたのは自身が初めて作詞作曲を務めた「storia」(※執筆時点で公式表記未発表)。個人的なレポのため詳細は伏せるが、私の感想としては、「まっすぐ最短距離ではないけれど、それでも誰かを目指して懸命に届けられる曲」。そんな印象だった。

歌ってみた動画が記憶に新しい、「asphyxia」。変拍子の難曲を、ピアノ・ボーカルのみという、一層ごまかしのきかないシンプルなスタイルで披露。それがかえって彼女の持ち味、そして曲の良さを引き立てる。高音では空をノックするような仕草で、刻むように歌い上げた。

本編最後は、「懺悔参り」で艶やかに。「今日も今日とて眺めてみようか」の部分では手をおでこにあててゆっくりと客席を見渡す仕草があったり、ダンサーとともに舞う姿など、耳から聴こえる音楽だけでなく目で見るステージングも、細部までこだわり抜かれている。

アンコールに導かれて再度ステージに上がったこの子は、緊張の糸が解けたように「アンコール呼ばれなかったらどうしようかと思った」と笑い、時々方言がまじる口調で今回のグッズを紹介。「体力有り余ってるよね?声出せますか?頭振れますか?みんなの体力全部持って帰りたいんですけどいいですか!?」と煽ると「ゴーストルール」「ヒバナ」と立て続けにロックナンバーを展開した。

本編ではほとんどMCがなかった今日。我慢していたかのように、アンコールでは率直な気持ちを紡いでいった。

「ワンマンって、自分を好きな人たちが来てくれる。そういう人たちに向けてどういうライブをしようかなあって考えるのが楽しくて。今は、終わっちゃうのが寂しいなあって思います」「みんなのことが大好き!みんなが、パワーの源なんですよ。ぜひワンマンっていう機会がまたできたらいいなって思います」

ラストはとっておきのお祭りソング、「極楽浄土」。扇子を持って、この子も歌いながらダンサーとともに踊る。今日はとにかくダンス付の曲が多く、キレのある踊りにシンプルに驚くとともに、彼女のこれからへの期待も高まっていく。「踊れや踊れ」という歌詞のごとく、ホール中をペンライトの白兎たちが跳ねている景色が印象的だった。

インターネットが産んだ令和の”歌姫”は、用意された物語の城で王子様の迎えなんて待っちゃいない。自らの歌で、物語を紡いでいく。この子が次に奏でる音楽は、いったいどんな物語を紡ぐのだろうか。

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