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「君の唄が聴こえる#6」

「帰る場所があるということ」


旅行のコラム、カフェのレポート、神社の特集記事、

2泊3日の弾丸取材

新幹線で2時間半

旅行のコラム


コラム

カフェの・・


暖かい部屋

温かい温度


ずっしりと肩に、重い―――

静かな寝息


今月中に原稿を3本
締め切りは1週間後、10日後、月末

1本は、恐らく別の誰かが手放した仕事。
それでも、もらえるだけマシ。
こういう時に締め切りをしっかり守って、内容も充実したもの納めること。
小さなチャンスもコツコツ積み重ねていくこと。
そうすることで、次の仕事につながっていくのだ。

2泊3日

たまたま新幹線のチケットが取れた。
向こうでの宿泊先も決めないまま飛び出した。


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小さな村の、山の麓
真っ赤な鳥居

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写真をパソコンに取り込んで
使えそうなものを選んで


それから・・・

ああ、スマホ

カバンの中に入れたままだ


・・・はぁ-―――


猫が膝の上にいると動けない。

のなら、まぁ、いい。

私の膝の上は空っぽ。

けれど・・・


静かな寝息の主が、肩にずっしりともたれかかっている。

                    
                     ◆


夕方、3日ぶりにここに戻った。
玄関のドアを開けて、中は真っ暗で誰もいなかった。
猫たちはもちろん出迎えになんか来ない。

冷えた部屋に入り、足下に荷物を降ろして、テーブルの上で開きっぱなしになっているノートパソコンの電源を入れた。

窓の外は薄暗い空。

本当は知らない人の家の部屋。

それでも、旅行先のホテルよりは馴染みがある匂い。

部屋の照明を付けて、エアコンの電源を入れた。
テーブルの前に座ってから、取材ノートがカバンの中にあることを思いついて立ち上がった。

ドアの前まで進んで、ついでに廊下に顔を出してみる。
リビングにもいなかったあの子たちは、いったいどこにいるのだろう。

きっとエアコンがきいていないこの家のどこか、暖かい場所を知っているのだ。

ノートを持ってテーブルの前に戻った。

温かいカフェオレが飲みたい。

窓辺に立てかけたカレンダー
締め切りに○を付けないと。

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今月中に原稿を3本

締め切りは1週間後、10日後、月末。


カチャ


部屋のドアが開く音がして、顔を上げると、彼の姿が見えた。

「・・っえ」

と思うまもなく、私とソファの間に身体を納め、私の肩にもたれかかった。

「・・、ちょ」


恐る恐る覗いてみると、彼の足下にるんばのかわいい耳が見えた。
3日ぶりに見た私のるんば。

それから少し後に、後ろのソファが浅くきしみ、多分、タンゴが彼の背中の辺りで丸くなった。


それからもう随分と長い時間、私は何一つ仕事に取りかかれずにいた。

締め切りは1週間後、10日後、月末。

でも、もういいか。
とりあえず、今日のところは。

耳の後ろに静かな寝息を聞きながら、私はとっくにスリープしているパソコンの黒い画面に目を落とした。

はぁ・・・

カフェオレ、飲みたい。

でも、それもいいか。

ずっしりともたれかかる重さに、今日は私からも体重を預けてみる。

とりあえず、今日は少し眠ろう。

いい取材ができたし、いい写真もたくさん撮れているから。

明日から本腰入れても遅くはない。


ここへ来て、もうすぐ1年が経とうとしていた。

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