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#コラム 買って良かった法律書2022〜勝手にLegalAC編〜

今年もたくさん本を買いました。
積ん読も大量にありますが、ちゃんと読んだ本もあります。
さらに、年末には、下記が出版されるなど、まだまだ買わないといけない本があります。どこかに、ぼくを待っている本がいるのです。

もちろん所属事務所でも大量に書籍や雑誌を買っていますが、ぼく個人でも(数えたくないですが)今年もnn万円以上は書籍を買っているように思います。このnoteは、普段は「純文学」の習作場所なのですが、他に公表の場がありませんので、ここで今年買って良かった書籍の私的ランキングを公開したいと思います!

なお、LegalACとは、企業法務系の「ナニカ」であるkaneko師匠(Twitter:@kanegoonta)が主宰する法クラ系法務系の年末恒例イベントです。残念ながら枠がないので、ぼくは、勝手連として、一記事を投稿いたします。
 表:https://adventar.org/calendars/7379
 裏:https://adventar.org/calendars/7567

CAUTION:
商法関係(商法・会社法・金融商品取引法・ファイナンス・ベンチャー)については、諸事情で選外とし、コメントもしません。

■1 昨年(2021年)のランキング

第3位(2021年)

【書籍名】
田中亘・MHM編「会社・株主間契約の理論と実務」(有斐閣、2021年)


第2位(2021年)

【書籍名】
岩田太ほか著「基礎から学べるアメリカ法」(弘文堂、2020年)。

【コメント】
この薄さで米国の六法が網羅されているって、純粋にすごくないですか。
めちゃくちゃいい。
ぼくは、本書を読むまでは、そもそも連邦法/州法の違い、刑事/民事の審理手続きなど一切知りませんでした(たとえば、本書外ですが、個人情報に関するCCPAはカリフォルニア州法ですが、連邦法制定の動きがありますね。)。また、副作用として、アメリカのリーガルドラマを見るときに、役立つかもしれません。最近、米国法を勉強し始めたぼくとしては、最終章の「アメリカ法の調べ方」も非常に参考になりました。


第1位(2021年)

【書籍名】
岡村久道「個人情報保護法の知識<第5版>」(日本経済新聞出版、2021年)。

【コメント】
個人情報保護法がブーム?になる、はるか前から改訂を重ねている新書です。信頼出来ないはずがない。「創業令和元年」の一見すると伝統がありそうな割烹とは、まず信頼が違う。
本書のガチ版である、同著者「個人情報保護法 <第4版>」(商事法務、2022。以下「ガチ版」といいます。)が今年でました。

ぼくも自宅用に買いましたが、ガチ版を1周すらできないよりも、本新書版を2周3周してたまにガチ版をみることの方が、(ぼくのような素人には)よほど有益だと思います。今年は、プライバシーポリシー関係本など多くの書籍が出版され、まさに、この分野は、群雄割拠感?玉石混交感?がありますが、本書(+ガチ版)は、宇賀先生本に並んで、やはり安定感があるように思います。


■2 CM(本年のランキングの前に)

いよいよ本年度のランキングでございます。
そのまえに、下記CMをご覧ください。
まあまあキレイにまとまった掌編です。是非、感想をコメントで!


■3 本年(2022年)のランキング

番外編(2022年)

注意:ご恵投いただきました。そのため、PR(プロモーション)の要素があると捉えられかねないので番外で評価しておりますが、自費でも確実に買っていた本です。

【書籍名】
「新アプリ法務ハンドブック」(日本加除出版、2022年)

【コメント】
本書は、いまや絶版となった「アプリ法務ハンドブック」(以下「旧版」といいます。)のアップデート版です。旧版は、BUSINESSLAWYERS LIBRARYに収録されているものの、書籍版は入手困難です。なにより、アプリ法務という分野自体、めまぐるしい速度でアップ・トゥ・デートが必要なジャンルです(各社規約のほか、個人情報保護法改正、資金決済法改正、定型約款等)。そのため、新版が待ち望まれていました。

旧版(※ 価格及び販売元に注意):

本書「新アプリ法務ハンドブック」は、アプリ法務分野で著名な編著者3名に加え、MHMの弁護士6名が分担執筆しておられます。これつまり(玉石混交のWEB記事とは異なり)信頼出来るので、リーガル・リサーチの手間が大幅に省けることを意味しています。言い換えると、大手事務所にアワリーを支払ってリサーチしてもらうか、本書を買うかということです。

また293頁というコンパクトさであるものの、GoogleやAppleの胴元のルールから解説がなされ、さらに、①利用規約例、②プライバシーポリシー例については、逐条解説付きです。

個人的にいいなと思うのは、脚注の引用がマニアックで、かつ各省庁の見解を中心に根拠を明示している点です。
法律には、2つの段階があります。すなわち、
 ①適法/違法というレベル
 ②当/不当のレベル(不当にはレピュテーションリスクを含みます)
です。

最終的な法解釈(適法/違法)は裁判所の専権です。そのため、行政による一解釈ないし指針(特に個人情報保護委員会のガイドラインやQ&Aを金科玉条のように取り扱うこと)については慎重でありたいと思う反面、行政解釈は、少なくとも「当/不当(レピュテーションリスク)」の判断には非常に有益であり、また依頼者への説明の際にも便宜になります。

リスクを説明し続け、あるいはビジネスを止めることが法務の仕事ではないはずです。「赤信号っぽいもの(≓不当)」を皆でわたることは推奨しません。しかし、「青信号っぽいもの(≓当)」を皆でわたることは、進んで検討されるべきです。

その意味でも、①各省庁の資料をはじめ、②最新のNBLや文献(例えば本年8月発売の古川昌平ほか「BtoC Eコマース実務対応」が参照されている!)を吟味・検討してソースとして示されている点でも信頼でき、座右に置きたい一冊です。なお、出版社が日本加除出版様なので、(座右のみならず)ぜひとも法律書サブスクにもいれていだきたいとも思います(httpでのリファーも多いですし)。


第3位(2022年)


※ 価格及び販売元に注意


【書籍名】
潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」(2017年、きんざい)

【コメント】
5年前の書籍ですが「今年購入して良かった」という意味でのランクインです。今年だけで2冊(事務所用と自宅用)購入してしまいました。

ぼくは、座右に「我妻・有泉コンメンタール民法」を置いています(LEGALLIBRARYBUSINESSLAWYERLIBRARYにもありますね)。

上記コンメンタールには普遍的な価値があるものの、既に多くのご指摘があるとおり、債権法改正部分(さらには物権法は?)については、説明がコンパクトに過ぎる箇所があるのかもしれません。その間隙を補うのが、本書「民法(債権関係)改正法の概要」だと思います。

2020年4月1日に債権法改正が施行されてから、一定程度の時間が過ぎました。ただ(人によるかもしれませんが)ぼくは、①訴訟では遅延損害金と時効、②契約書作成では契約不適合責任と定型約款以外では、あまり大きな影響を感じていません(なお、賃貸借契約を取り扱う先生では「保証」等は重要かもしれませんね)。それでも、債権法改正後の民法を引くときは(勉強不足ゆえに怖いので)どうしても慎重になります。

本書は、部会審議や部会資料に沿って解説されています。「沿って」というのは、かの重厚・バリカタ・濃いめ・油マシマシな部会資料のページ数を参照してくれているということです。部会資料は、ネットですぐにでてくるので、気になれば参照することができます。潮見先生のコンパクト解説に加え、部会資料が参照されているとう点で、座右においておくのに良い一冊だと思います(もちろん「一問一答」も必要だと思います。)。

なお、姉妹書として、下記があります。

また、ぼくは、いまさら債権法改正を勉強し始めました。まだ間に合いますよ。諸兄の先生方。

最後に、ぼくは直接にご指導を受けたことはありませんが、潮見佳男先生の各御著書を基本書にしておりました。特に、「法律学の森シリーズ」は今後も参照し続けると思います。最大級のリスペクトを込めて。


第2位(2022年)

【書籍名】
司法研修所編「民事第一審訴訟における判決書に関する研究 現在に至るまでの整理と更なる創意工夫に向けて」(法曹会、2022年)

【コメント】
本書は、表題のとおり、裁判官のための「第一審判決文の模範的な書き方」の書籍です。この「第一審判決文の模範的な書き方」の書籍ということは、これを代理人弁護士の立場から表現すると、①第一審判決文の読み方の書籍でありかつ②控訴理由書での第一審判決の攻め方の書籍ともいえます。

すでに「控訴理由書」を含む法律文書作成については、下記の優れた書籍があります。

田中豊「法律文書作成の基本<第2版>」(日本評論社、2019年)

まず、shoya先生がおっしゃっている時点で、説明不要の名著です。
特に、前掲・田中230頁では、「控訴理由書作成の第一歩は、第一審判決を熟読し十分に咀嚼することです」として、事実認定の誤りの原因として11個の着眼点が列挙されています。これら着眼点については、(同書の重要なエッセンスのため引用はしませんが)①第一審判決を検討するときあるいは②控訴理由書を作成するとき、ぼくは、必ず意識したいと思っています。

ただ、上記の前提として「第一審判決を熟読して十分に咀嚼する」ことが必要です。そのためには、第一審判決を、正しく読むことが必要になります。その武器が「民事第一審訴訟における判決書に関する研究」だと思います。

たとえば、次のような指摘があります。

問題のある判決書として指摘されるのは、次のようなものである。
(1)冗長な記載 ~略~
(2)不適切な争点設定
当事者の主張に流されて、要件事実的な観点を十分に踏まえることなく争点を設定している。~略~
(3)不十分、不適切な事実認定、理由の説示
~略~ 中心的な争点であるにもかかわらず、「客観的証拠がない。」「認めるに足りる証拠はない。」などと記載するだけで簡単に結論を導いている。

民事第一審訴訟における判決書に関する研究・31頁より

これだけでも、①一審判決の妥当性の検討そして②控訴理由書を作成する上での大きなヒントだと思いました。手元に届いた第一審の判決文をみて、

(1)なぜ自分は重要だと思っているのに当該事実経緯がシンプルなのか。あるいは自分は重要ではないと考えているのに冗長なのか。
(2)争点設定が適切か。多くの準備書面をだして激論が交わしたのに、争点が2、3つにまとめられていることは少なくないと思います。
(3)なぜ理由が簡潔なのか。たとえば、司法研修所の民事弁護教官は、相手方の準備書面に「明らかである」との記載があるとき、本当に明らかなのかを疑えとの指導をしていると思います。それと同様に「認めるに足りる証拠はない」というように理由が簡潔な場合もやはり、第一審の妥当性を検討する着眼点になるように思います。

その他、判決文の書き方全般・各要素(前提事実とは?、争点とは?、当裁判所の判断とは?)の読み方・留意点について119頁というコンパクトにまとまっており参考になります。なお、本書は全190頁ですが後半は判決文の記載例が並んでいるだけです(これはこれで、マニア向けには非常に興味深いのですが…)。商業出版の要素が低い書籍であるために、あえてコメントすると、学生・修習生の方等は、いきなりポチるのではなく、書店や図書館で一読してみてもいいかもしれません。


第1位(2022年)

【書籍名】
消費者法<有斐閣ストゥディア>(有斐閣、2022年)

【コメント】
たしかに、
① 業務提供誘引販売とはが何か(特定役務等)、電話勧誘販売にZoomが含まれるか等は載っていません。
② 経産省の「電子商取引準則」についても言及がありません。
③ ウエブサービス展開で必須となる通信販売の表示についての詳説もありません。

しかし、上記は単なる揚げ足とりであり、本書とは用途が違います。
上記①〜③などどうでもいいのです。実務家が実践で利用するには、①消費者庁の逐条解説や電子商取引準則、②景品表示法の緑本、③上述「新アプリ法務ハンドブック」を好きなだけ読めばいいと思います。

本書は、その「前提知識」を入れる本だと思います。
コラム含めて本当に良い本だと思います。理由は3つあります。

1 多くの武器を持ちたい
武器(知識の引出し)の仕入れあるいは確認するためには、十分な知識量だと思います。武器の多さあるいは守備範囲の広さは、本書の巻末の条文索引からもわかります。

収録法令の一部ですが、民法・消費者契約法のみならず、貸金業法、割賦販売法、金融サービスの提供に関する法律、金商法、借借法、薬機法(旧:薬事法)、消費者安全法、消費者基本法、PL法、宅建業法、破産法、景表法、DPF(デジタルプラットフォーム)法などなどについて、大量の条文が参照されています。これらが301頁に収まっています。コスパのみならずタイパ(タイム・パフォーマンス)が良すぎです。

たしかに、(ぼくを含めて)いまどきは弁護士でも、まずグーグルを叩いて関連法令や情報を調べることが多いかと思います。しかし、やはり玉石混交のウエブの世界で「あたり」をつけられるだけの前提知識は必要かと思います。さらにいうと、当然「相談者」も同じようにグーグルで調べています。相談者の期待(あるいは知識)を超えるために、まずは、ミニマムな知識という「武器を配ってくれる」本書はオススメです。

2 コンパクトながら図表/最新トピック/Columnが豊富である
(1)図表がたくさんあります。
下記に限らず、クレジットカード決済の仕組み、マルチ商法とネズミ講の違いの図などが、ページ数の割に多くあります。自分で書くのは大変なので、助かります。


(2)近時のホットイシュー(バズワード?)もたくさんあります。
たとえば、つい先日(令和4年12月12日)、下記最高裁判決がでました(ぼくは、この判決には反対です。明確に誤りだと思いますが、ここでは詳論しません)。

「家賃滞納で明け渡し」条項は違法 最高裁が初判断: 日本経済新聞

この最高裁判決は、「当事者に代わって訴訟を起こす適格消費者団体の『消費者支援機構関西』」「条項」「差止め」を求めたものです。民事訴訟法のみの知識からすると、当事者適格は?差止めの訴えの利益は?それでは損害賠償請求は?となると思います。これは、消費者団体訴訟制度というものであり、もちろん本書でページを割いて解説されています。
さらに、ターゲティング広告、アフィリエイト、(サブリースに関し)シェアハウス問題、給与ファクタリング等のバズワードの説明も多くあります。

(3)コラムも多く、沿革もきちんと説明されています。
恥ずかしながら、ぼくは、
① ジャパンライフ事件や安愚楽牧場事件は知っていましたが、豊田商事事件は名前しか知りませんでしたし、2021 年に預託法が改正され、預託等取引が原則禁止されたことも知りませんでした。
② グレーゾーン金利も(世代ではないので)あまり知りませんでした。
③ その他、コラムが面白いです(めっちゃ書きたかったんだろうな、という強い思いを感じます。面白いColumnとしてたとえば下記参照)。

Column14 諸外国における集団訴訟
EU法では、事業者があらかじめ作成した約款の意味が不明確である場合には、消費者にとって最も有利な解釈を優先させるという、いわゆる「作成者不利の原則」が個別訴訟については、適用される。これに対し、差止訴訟については、この原則が適用されないことが明示的に定められている

消費者法(有斐閣ストゥディア)・152頁



3 「消費者法」は町弁/企業法務/インハウスを問わない

消費者法と聞くと、学生・修習生の方などは「消費者系弁護士」「労働者側弁護士」をイメージするかもしれません。しかし、その反対側にいるのは、当然「企業法務系」弁護士です。また、いわゆる町弁の先生方の多くは、消費者側・企業側の両方を巧みに取り扱っておられるかと思います。

具体的にみても、①利用規約(定型約款を含む)作成の場面、②労働法(先日も都労委においてUber Eatsユニオンについて労働組合法上の労働者性が肯定されました)、③独禁法(と下請法)、④商法上の商人概念との交錯(たとえば、特に、法学教室2022年5月号の西内康人「商法総則・商行為法の現代化に向けて〔第2回〕商人・事業者・消費者―概念の相互関係」参照)など、「BtoC」の「C」あるいは「消費者」とはいったい何なのかが、いま、問題となっているように思います(本書50頁column4にも「消費者的事業者・事業者的消費者」として言及があります)。

町弁/企業法務/インハウスという抽象的な区分を超えて、「消費者法」の知識は、「著作権法」「個人情報保護法」と同様に、今後、さらに必要になると思います(なお、来年すぐに消費者法の新刊が出版予定です。)。


4 まとめ
提灯記事のようになりましたが、本当に良い本だと思います。
この本だけで、実務の消費者法分野にすぐに詳しくなるという性質の書籍ではありません。しかし、ボディーブローあるいは漢方薬のように必ず効く、絶対的No1の書籍効く良書です(※ 景表法や打消表示については、少し古いですが古川昌平「エッセンス景品表示法」(商事法務・2018年)がコンパクトで勉強になります)。
(生意気ながら)個人的には、これからの修習生の方にとっては、就職先を問わずに必要な知識になるかもしれません。また、学部や法科大学院で、消費者法を勉強する機会がなかった方にもおすすめします。

おわりに・・・
今年も、いっぱい本が出版されて嬉しい限りです。
来年も、良書がたくさんでますように。

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