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暗号通貨市場におけるHFTまとめ

こんにちは。Hohetoです。

今回のnoteでは、暗号通貨市場で実際に行われているHFTの取引戦略を俯瞰的にまとめてみます。

はじめに

一言にHFTと言っても種類は様々です。

そもそもHFT(というよりもアルゴリズム取引全般)はITを利用した合理的なものがほとんどですが、一部にグレーな手法が存在したり、バーチュのような巨額の利益を出す存在が散見するため、全体としては世間にあまり好意的に受け入れられていない、という印象があります。

学術的には、HFTの取引戦略はある程度カテゴライズされています。今回のnoteでは、こちらの文献を参考にしています。

「高頻度取引の一考察」湯川心一
http://repository.seikei.ac.jp/dspace/bitstream/10928/930/1/hougaku-86_59-87.pdf

こちらの文献は、成蹊大学の学術情報リポジトリに掲載されています。
学術情報リポジトリとは、大学や研究機関の研究成果をまとめて保存し、インターネット上で公開するための仕組みです。

HFTの取引戦略の分類

さて、この文献では、主に株式市場で使われているHFTについて、体系的にまとめられています。それがこちらです。

1)受動的マーケット・メーキング戦略
2)裁定取引戦略
3)構造戦略
4)価格指向性戦略
 4-1)基礎的価値戦略
 4-2)注文予測戦略
 4-3)モメンタム・イグニッション戦略

これらのほとんどは、暗号通貨市場の中で実際に使われています。既存の成熟した市場と異なり、いまのところ個人投資家レベルでも比較的結果を出しやすい、という印象を受けます。

それでは順を追ってみてみましょう。

1)受動的マーケット・メイキング戦略

マーケット・メイキング戦略は、板に買いと売りの両方の指値注文(メイク注文)を置き、両方を約定させることで値幅分の利益を得ようとする戦略です。

別のnoteにも書いたのですが、マーケット・メイキング戦略の収益源はスプレッド、および取引所から支払われる手数料や報酬です。値動きによるポジション損益ではありません。

この戦略は、流動性確保のために取引所側から歓迎されるケースがあります。bitFlyerは一時期、出来高に応じたランキング報酬制度を採用していましたし、BitMEXはテイカー・メイカー手数料制度を採用しており、約定の際にメイク側に手数料を支払っています。また、取引所自体がマーケット・メイキング・デスクを設置しているケースもあります。例えば以下はBitMEXのマーケット・メイキング・デスクに関する情報です。

さて、暗号通貨市場ではマーケット・メイクというと、「MMbot」と呼ばれる高頻度取引を行うボットが頭に浮かびます。
これらは単純に指値注文をばらまくマーケット・メイク的なものもあれば、値動きを予測して注文を出すもの、テイク注文を出すものなど様々であり、厳密にいうとマーケット・メイクではないものまで一括りにまとめて「MMbot」と呼ばれています。
値動きを予測するようなものについては、後章で「注文予測戦略」として登場します。

2)裁定取引戦略

裁定取引についてもHFTの一戦略として分類されています。こちらも様々な手法が存在するため一括りにはできませんが、基本的には同じものを別の場所で「安く買って高く売る」という戦略です。

裁定取引では、他の裁定者よりも先駆けて注文を発行しなければならないため、高い「頻度」というよりは「速度」が必要になります。もちろん、こちらもマーケット・メイキング同様、一回の取引当たりの利ザヤはさほど大きくないため、なるべく多くの機会を見つけて多数の取引を重ねることは、収益性を高める上で重要でしょう。

暗号通貨市場ではトリッキーな裁定手法がいろいろと存在するのですが、現状のところ研究のためのリソースを割けていません。別の機会があれば、詳しくまとめたいと思います。

3)構造戦略

この戦略は、他の戦略のように具体的手法で分類されているのではなく、「市場や市場参加者の構造的な脆弱性を利用するもの」として分類されています。

これはつまり、フラッシュボーイズで話題となった「フロント・ランニング」を分類するためのカテゴリーです。

取引所の欠陥(あるいは良くない「仕様」)を突く取引手法は以前からずっと存在するようで、例えば、昔のナスダックでは特殊な価格で発注することで「価格優先の原則・時間優先の原則」を無視してキューの一番最初に並ぶことができました(「ウォール街のアルゴリズム戦争」より)。

つい最近、botterたちで間では、bitFlyerの端数処理を利用したボットの存在が話題となっています。小数点以下の損益が丸められることを利用した戦術ですが、こちらも取引所の構造的な歪みを突いた手法の一つと言えます。

このような戦略は、構造自体が是正されると機能しなくなりますが、いち早く抜け穴を見つけて内密に運用することで利益を享受することができます。グレーな手法ですが、違法とまで言えるものではありません。

4)価格指向性戦略(ディレクショナル戦略)

この戦略は短期的な値動きを察知する、あるいは意図的に作り出すことにより、いち早く値動きと順方向のポジションを取り、値動きの終盤で手仕舞う戦略です。文献ではさらに以下の3種類に分類されています。

4-1)基礎的価値戦略
これは、「価格がファンダメンタルから乖離しているとき、その価値に回帰することを予測してポジションをたてるもの」という戦略です。文献ではニュース・マイニングが例として紹介されています。

ニュースが発表されるタイミングで、「ニュースの内容が織り込まれた時の価値」と「現在価値」の乖離に着目し、いち早く織り込まれる方向にポジションを建て、織り込まれたのちにクローズする、というやり方です。

ファンダメンタルとは異なりますが、同じような手法として、有名人のツイートなどをウォッチして、その内容を解析して高速でポジションを建てる、というやり方があります。

懐かしのマカフィー・チャレンジがこの手法を利用したものです。一昨年の年末、多数のフォロワーを抱えるJohn McAfee氏の「Coin of the Day」(後にCoin of the Weekに改称)のツイートによってアルトコインがパンプされるという出来事がありました。
これにAKAGAMIさんが反応し、スクリプトによってパンプの初動に乗ることに成功していました。

例えばトランプ大統領のツイートなどは多方向により監視され、個別の株の価格を一瞬にして変動させる力を持っています。今となってはニュースと同様、ツイート監視は非常に一般的なやり方なのです。

4-2)注文予測戦略
これは、注文の状況に応じてその後の値動きの方向を予測し、そちらの方向にポジションを建てる戦略です。
例として、アイスバーグ注文を検出したり、約定の歪みを検出して大口や情報筋の注文の方向性を探る仕手検出が挙げられています。

暗号通貨界隈では、さとちんさん作の「ちんイン」による仕手検出が話題になっています。

仕手検出と高頻度取引との関係ですが、検出時に高頻度に少額の注文を出すようなやり方もありますし、高頻度取引のロジック内部で方向性検出を行うようなやり方もありますので、用途は様々です。

一方、板や約定履歴に着目して、短期の値動きをある程度予測することができます。界隈のMMBotたちには、単純に指値をばらまくのではなく、ロジックの中にこれらの価格予測を組み込んでより有利な価格で発注するように工夫されているものが多いと思われます。

4-3)モメンタム・イグニッション戦略
最後に挙げられるのが、モメンタム・イグニッション戦略です。これは何のことかというと、いわゆるパンプ&ダンプです。
価格をわざと大きく変動させ、ストップロス注文を誘発してさらに変動を誘い、値動きの終盤近くで自らのポジションをクローズする、というやり方です。ビットコインのチャートでよくみられるシンプソンズ・チャートは、こうして形作られます。

パンプ&ダンプの過程で、
①一方に多くの注文を連発して出し、その多くをキャンセルする
②継続して買い上がる or 売り下がる
というように高速での注文を繰り返し行われます。

当然、価格操作&相場操縦の範疇であり、整備された金融商品であれば許されない行為ですが、一方で流動性が高まることから一部のbotterたちには好まれていたりもします。

まとめ

このように、暗号通貨市場はかつての既存市場が通ってきた道を高速で辿っています。
いずれ法整備が行われ、各種インフラが整い、機関投資家が参加して流動性が増え、市場がより効率的になったときにこれらの戦略はどの程度生き残っているでしょうか。

今回の記事は前編・後編に分けるつもりでしたが、まとめてしまったので少々長くなりました。
具体的なロジックや実装よりは、少し全体を俯瞰した内容にしましたがいかがだったでしょうか。
何かご要望やご質問があれば、Twitter(@i_love_profit)までお願いします。

それではまた。

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