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ガジュマルの上の香港

 今から30年以上前のことになる。はじめて研究のために香港に行った。先生が紹介してくれた宿は香港大学の宿舎、Robert Black College。名前からし普通の宿舎じゃない。

 香港大学は英国植民地下で統治をサポートするため、英語が話せる専門人材を育成するための大学だ(19C末、一番最初は社会問題だった伝染病の研究所だった)。

 そのRobert Black College、大学内の敷地にあるわけだが、場所がとてもわかりずらい。かつての支配者イギリス人の多くは香港島の山の上に住み、大学も山の斜面に位置している。そして、Robert Black Collegeは、大学敷地の一番高いところにあるのだ。

 行き方は2つ。山の上のバス停まで行く。大学の下にあるバス停から敷地に入って、ひたすらエスカレーターを駆使してたどり着く。まあ、どちらにしてもバスの旅になる。

 土地の狭い香港。しかも山道。英国仕込みの2階建てバスに乗ることになる(地元民はミニバスを利用してより早く目的地を目指すが、広東語しか通じないので、その頃の私には怖くて乗れなかった)。

 基本ミーハーな私はいつも2階最前列に座り、景色を楽しむ。山道に入ると、あることに気づく。路肩ギリギリにガジュマルが生い茂っているのだ。
さすが熱帯エリア。そして、その後にいつもの出来事が起こるのだ。

 バシッ、バシッ!

 ガジュマルの「ひげ」がフロントガラスにぶつかるのだ。これがなかなかスリルがある。ガラスが割れないか心配になる。その先の道でもたびたび「ひげ」と衝突する。

 香港島をバスで上がる度にこの歓迎を受ける。香港ならではの出来事かもしれない。私はこれがかなり気にいっていた。

 さて、やっとRobert Black Collegeに到着。鬱蒼とした緑に囲まれた環境。宿舎はひっそりとしていた。どこが入り口かもわからない地味で質素な建物。

 ようやく受付を見つけて入ると、若い香港人が英語で話しかけてくる。当時、私の第2外国語は北京語になっていたので、たどたどしい英語で返答する。香港大学内はどこでも基本、英語である。

 案内された部屋はいたってシンプル。全体的に白が基調で無駄なものが一切ない。モダンなデザインで統一されていた。これが実に落ち着く。

 その後、少し休憩しようと食堂に行く。そこには研究者らしき年配の西洋人が食事を取っていた。簡単な挨拶を交わす。品の良さを感じる。

 質素で清潔、コンパクトで洗練された建物、静かな環境と聞こえてくる英語。これぞまさしく英国が持ってきた空気なんだと実感した。

 

 その後、何度も香港を訪れ、地元の人のバイタリティある暮らし(香港マフィアとの遭遇もあった(;'∀'))を知ることになるが、私にとって、ガジュマルの「ひげ」にぶつかり、Robert Black Collegeで感じた静かな空気感を忘れることはできない。


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