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ひきこもりと娯楽

私はデジタルネイティブの世代ではない。
生まれた時から当たり前のようにパソコンがあったわけではなく、ひきこもり生活を送っているときに本格的にネットに触れるようになった。

昔は今のようにネットがサクサクと動くものではなかったと思う。
接続したときに「ピッ!ピッーー!ギーーーーガラガラガラ・・」とかって音がしていたし、その音がしている間は繋がるまで少し待っていた記憶がある。

すっかり私はネットにハマった。しかしそれを使う人間の質は重要で、私はポルノばかり見ていた。

刺激を求めてポルノサイトをサクサク進んでいると、サイトが突然止まった。
そしてパソコンを購入した某家電量販店から連絡があった。

「お宅のパソコンがシエラレオネという国のサーバーにつながっていまして・・ちょっとこれは何かの間違いかなと思ったので、回線を止めさせて抱きました・・・」

血の気がひいて行く。

ちなみにシエラレオネとは西アフリカの国で「アフリカの最貧国」「平均寿命が最も短い国」という不名誉な別称がある国だった・・。確かにおかしな話ですね。はい・・。

そして、しっかりとその後正式に請求書が我が家に届いた。
不用意に閲覧したポルノサイトからシエラレオネのサーバーに繋がった代償が3万円の通信費だった。

私はなけなしの貯金を下ろし、姉に3万円を渡した。
姉も家電販売店の店員さんも皆きっと気づいている・・。「こいつ・・エロサイト見てたな・・・」と。

フリースペースでエロサイト

私は元ひきこもり。17歳のときに突然体が動かなくなって学校に行けなくなった。

23歳の頃に「社会的ひきこもり」者が集まるフリースペースに通い始めた。
フリースペースはネットが繋がるパソコンが一台置かれていた。

その日私はフリースペースに泊まっていた。同居人として30代のメンバーがいたのだが、彼は物腰が柔らかくとても話しやすい人だった。

若い頃は彼はナンパ師だったようで女性経験が豊富であったらしい。現状を見ると嘘くさいものがあったが、話す内容が豊富なことや物腰を見ているとモテないことはないか・・と思うような不思議な魅力がある人だった。

「昔は風俗とかにも行ってたんですけどね〜。今はもう性欲がない」

しかし彼がよく触っていたパソコンの履歴を見てみると、しっかりとエロサイトを閲覧した履歴が残っていた。

私はシエラレオネに飛ばして3万支払った前科があるので、エロサイトの閲覧へと彼を促した。

夜中2人っきりのフリースペースで押し問答があった末に、結局エロサイトを2人で見ることになった。

危険なサイトに突撃してフリースペースのパソコンにウィルスをばら撒くわけにはいかないので、慎重にサイトを吟味した。圧倒的に私より彼の方がネットに詳しかった。

普段は大人しく口調も柔らかく動きも緩慢な彼が、ポルノ検索をするときはブラインドタッチで素早かった。

「その素早い動き・・もっと有意義なことに使えよ・・」と内心思うのだったが、私も同類だった。

芸能人の流出ものを2人で見て、これが本物かどうかという激論を夜な夜な2人で闘わせるのであった。

フリースペースのその他の娯楽

フリースペースはやることが無い。
娯楽は漫画とUNOというカードゲームとジェンガという積木のゲームしか無かった。

主に20代前半のメンバーが多かったのだが、平日の日中に体は元気な男性たちが集まって、くる日もくる日もUNOとジェンガばかり行っていた。

ある日、フリースペースに新しい部活が立ち上げられた。それはプラモ部と呼ばれるもので、模型屋さんに行ってプラモデルを購入して組み立て、プラスチックのショーケースに飾るというものだった。

私は子供の頃からガンダムに疎かったので、プラモ部には参加しなかった。彼等のプラモデルの完成品をただ鑑賞するのが仕事だった。

シールだけではなく塗装に凝るなど製作は本格的なもので、とにかく男性はガンダムが好きだった。

プラモ部が数ヶ月続き、プラスチックのショーケース内に続々とモビルスーツが飾られていくと、メンバーの1人がこのようなことを言った。

「いや〜思うんですよね・・。何でこんなことやってんだろう・・・・。」

彼はプラモデルを組み立てながら呟いた。

どうやら当初は楽しかったそうなのだが、なぜこんな凝ったことをしているのか自分でもわからなくなってきたそうだ。それ以来彼はプラモ部から離脱。

そしてプラモ部の活動は徐々に停滞していき、自然消滅していった。
それからもとのUNOの日々に戻るのであった。

カラオケ

私と私がライバル視していた彼は童貞だった。

同じ「ひきこもり」でも高校生の頃に晴れて大人になったメンバーもおり、私たちはそういうメンバーを異次元の存在だと崇め奉った。

彼女ができたらカラオケぐらい行かないけまぁ・・・。彼女ができる予定もないが、来たるべき時に備えて、童貞の私たちは2人でカラオケに行くことにした。

カラオケが楽しいとは思わない。私からするとただ緊張する娯楽なのだが、皆が行っているし女の子はカラオケ好きっしょ?だから慣れておかないと・・・。口には出さないが我々にはそんな思いがあった。

2人で迎え合わせに座り、一曲ずつ順番に入れていった。「下手」とか「ダサい」とか禁句である。

彼は音楽をよく聴いていたので、最近の曲をよく知っていた。
しかしアニソンのチョイスが多く、オタク気質の片鱗を覗かせていた。
一方で私は生活に音楽がないので、選曲がすべて古かった。

自分の曲を歌い終わると、私はテーブルの下で、携帯電話に歌える曲を前もってリスト化していたメモを見た。

選曲リストを前もって準備していることがダサいことのように思えたので、隠していた。

気付くとボックス内が静寂に包まれていた。
彼の番なのに歌っていない。
見上げると彼もテーブルの下で携帯電話に打ち込んだメモを見ていた。

考えることは一緒だった。
お互いに笑い合い、それから堂々とテーブル上でメモを見ながら歌った。





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