ドレスを用意してもらえない。
私が可愛くてあの時のあの子だったら、こんな満員電車に押しつぶされて、気に入ってもない惰性で買った服を着て、日焼け止めに眉毛を描いただけの姿で、嫌な気持ちになることもなかったのに。
それを見かけるたびにそう思う。
呪いのようだ。
もっと顔が可愛くて細かったら、バズるくらい容姿が良かったら、今頃集客に困るなんてことなかったかも。ノルマなんて余裕だった。なんで。
あの時のオーディションから跳ねたアイドル。毎日可愛くて誰かに褒められて、楽しそう。世間に見つかって良かったね。
ベースマガジンに載っていたベースヒロイン私の嫌いなバンド。日本の恥とすら思っているバンド。編集部はセンスがない。あの時ああしてこうしてたら、その枠は私かもしれなかった。
一時期、ダイエットしたことがある。
食べなかったしクラクラして体調を崩したけど、自分を取り巻く世界は相変わらず満員電車に揺られて電話を取るたび嫌な気持ちになる毎日だけだった。
何で私はあの子の顔に生まれなかったのか。
あれさえあれば私は全部上手くいっていたし、今悩んでることや嫌なことは全部全部解決したのに。
私だって姫様になりたかった。
最悪だ。
社会の中で、お姫様みたいなお洋服をもらえて、丁寧にお姫様みたいなお化粧をしてもらって、優雅に向かった舞踏会に出ればみんなから歓迎されるような人生ってどんなだったんだろう。
いいなぁ。
社会が私に用意したのは、ボロボロの青い制服とボロボロのスニーカー、雑な化粧、ぎゅうぎゅう詰めの電車で向かう。舞踏会の床掃除係、経理担当。誰も知らない。誰も興味がない。
前置きが長くなりました。
何で私がロリィタでロックバンドやっているのか、つらつらと書こうと思ったので書きます。今回はフィクションなしです。
ロリィタを着る理由は人それぞれだと思いますが、一定数、社会への反抗みたいな気持ちでやってる人もいるような気がする。
お遊戯会でドレスを与えられてきたような子はロリィタを着たいな、とか、わざわざ高いお金を出して欲しいな、と思う子は少ないと思う、勝手に与えられてきたから、わざわざ自分で用意する必要がない。
社会でもそうだ、やりたかったことや本当はこんなことではなく、お姫様をやりたかったのに、用意されたのはボロ雑巾になるまで身体も頭もおかしくなりそうな役。ネズミも出るし。暑いし。
涼しいところでチヤホヤされながら居るだけで偉いね〜かわいいね〜と言われて、用意されたかわいい服を着れるような人生ではない。
それは社会が与えた役割が、あの子はお姫様、お前は召使、あなたはかわいい服を着て世間からチヤホヤされてね、ボロ雑巾になったらダメだよ。かわいいからね。お前はボロ雑巾になるまで働かないとお金もあげないよ。ボロ雑巾になっても代わりはいるから俺たちは困らないよ。っていう雑な役回り。
私は社会から与えられた役割に順応したくないからロリィタを着ている。
ボロ雑巾になるまで、頭がおかしくなるまで働いて稼いだお金を握って、お店に行って、自分のとっておきのドレスを自分で選ぶ。自分のお財布からお金を出して、自分で着る。
誰も私にドレスを着せてくれない、誰も私に丁寧にお化粧はしてくれないから、全部自分で用意する。ボロ雑巾をお姫様にする作業。
社会が私に与えた役割ではない、お姫様という役割を、自分で用意する。
ロリィタを着ているのは私がお姫様になりたくて仕方なかったただのエキストラだからだ。
ロリィタを着ている人の中に、私みたいに与えられなかったお姫様が自力でお姫様をやっている人もいるだろう。
生粋のお姫様の中に紛れてしまうと、消えてしまいそうな。
ハリボテのメンタルで、誰からも与えてもらえないから全部自分で用意したドレス。
それでも自分で用意したドレスに誇りを持って、胸を張って戦っているのかもしれない。
バンドをやっているのだって同じような理由だ。現実の役割だけ真面目にこなしていたら多分発狂する。
シンプルに人と違うことがしたかった。社会人になってから、このままバンドに未練が残ったまま、誰かのサクセスストーリーの脇役でいるのは腹が立った。
ADDICTION を組んでから、割と人生計画が破綻している。会社の同期は結婚して出産したり同棲を始めたりとなんだか将来を見据えている。
本当は私が社会に求められているのはそんな役割なのかも知れない。大人しく、ボロ雑巾のように働いて、まともな人と結婚して、子供産んで...っていうような。私の幸せはそれではない。人からチヤホヤされてベース弾いてかっこいいロックバンドとしての人生をやりたい。
ロックとは反骨精神の音楽である。それならば私は私の社会への反抗を最大限に表現したお姫様の格好でロックンロールをやろう。
お前はお姫様ではないだろう、早く戻ってボロ雑巾になって全部諦めて与えられた役割んこなしなさい!と聞こえてくるような気がする。
思い切って中指を立てる。
いつか、本物のお姫様になれますようにと願いながら。