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Sicario

邦名はボーダーライン。個人的に好きなDenis Villeneuve監督の作品のひとつで、メキシコ麻薬カルテルに超法規的介入をするアメリカ政府の作戦へと、何も知らぬまま放り込まれるFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)を描いた映画。国境を通してアメリカへと侵入する麻薬カルテルの恐ろしさはもちろん、正義と悪の境界までも曖昧になるというテーマ。正規の手続きを踏んで犯罪者を検挙することにこだわる主人公ケイトは、法という枠組みの存在しない世界に翻弄されます。

以下の動画(カンヌでの記者会見の様子)で監督も話している通り、監督には、アメリカ国境付近で起きていることがまったく世に知られていないという問題意識があったようです。また役者陣と監督、撮影監督が互いにそれぞれの貢献をして映画が出来上がっているのがわかります。

印象的だったのはマット役(CIA)のジョシュ・ブローリンの言葉で、彼は演じている最中は最終的なアウトプット(映画)がどうなるかまったくわからなかったといいます。ただ監督の方向性はしっかり決まっているから、やって欲しいことは伝わる。そして最後に完成した映画を通して見てみて、その完成度の高さに驚いたようです。役者の演技の主観的な完成度で映画の出来は決まらないことが窺えます。

この映画の魅力はたくさんありますが、具体的ストーリーを話すのはやめて、要点だけに絞って紹介させてください。

撮影の構図

カメラワークに注目していただくと、その構成のうまさに圧倒されます。特に主役ケイトの不安と猜疑に満ちた心理がカメラワークにうまく反映されている。また、時折挟まれる空撮は、鑑賞者に場面の滑らかな移り変わりを感じさせるとともに、これから突入する未知の世界への不安を掻き立てます。カメラの視点が固定的・客観的でなく、人物の中に入ってそこから映画の世界を眺めている気分にさせるのがすごい。

麻薬カルテルの実情

おそろしいの一言に尽きます。映画公開にあたって、実際はもっと治安がよくなったというメキシコ政府からの批判があったようですが、以前は少なくとも映画のような惨状だったということを考えるだけでゾッとします。警察内部にも汚職警官が無数に入り込んでいて、誰が味方かもわからない。カルテルに楯突くものなら家族全員に危険が及ぶ。実際、登場人物の一人アレハンドロにはそのような暗い過去があります。麻薬カルテルを扱った映画は数多くありますが、少しマイナーなものとしてElite Squadがあります。こちらは汚職警官がメインかな。

ベニチオ・デル・トロの卓越した演技

復讐の鬼と化したアレハンドロがふとした瞬間に垣間見せる父親の深い愛情まで完璧に演じきります。

新作に期待

2020年に公開予定のDune。Denis Villeneuve監督のSF映画といえばArrivalですが、どのような世界観を構築するのだろうかと今から楽しみです。俳優陣も豪華。Sicarioのジョシュ・ブローリンのほかアクアマンのジェイソン・モモア(私は監督のジェームズ・ワンの大ファン。彼のホラー映画は大好きです。例えば死霊館インシディアス)やThe Greatest Showmanのレベッカ・ファーガソン、ボーン・レガシーのオスカー・アイザック(ジェイソン・ボーンシリーズも大好きです。特にアルティメイタムのイスタンブールでの死闘とスプレマシーのカーチェイス)など、錚々たる顔ぶれ。わくわくが止まらない。同時にクリストファー・ノーランのTenetも今年公開ですね。こちらも見逃せないでしょう。

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