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【大地の上と下】大地の上のものだけで暮らすなら平和、大地の下のものに手を出せば災いが訪れる

 京都大学の谷口正次特任教授は、著書「自然資本経営のすすめ」の中で、古代ローマの政治家、大プリニウス(AD23~79年)の予言を引用している。

 「大地がわたしたちに薬や穀物をもたらすのはその地表においてである。なぜなら大地は、わたしたちの役に立つすべてにおいて寛大で好意的であるからだ。しかし、わたしたちの喪失の原因、わたしたちを地獄に導くのは、大地の奥底にねむり一昼夜では形成されることのない様々な物質である。(中略)地表にあるものだけを、つまりわたしたちの周囲にあるものだけを欲していたなら、わたしたちの生活はどんなにか無垢で幸せで洗練されたものであったろう」。

 ここで大プリニウスの言う「地表」のものとは動植物や藻類、菌類、地表の水と土などのことであり、「大地の奥底にねむる」ものとは、化石燃料や鉱物、地下水などのことを指していると思われる。この予言の通り、人類が化石燃料や鉱物を湯水のように使い始めてから、大量生産と大量消費への道を猛スピードで突っ走り始め、自然環境はひどく傷ついた。化石燃料や鉱物がなければ現代文明はまったく機能しないが、それらは有限である。つまり現代文明は間違いなく終焉に向かっているということだ。大プリニウスが「わたしたちを地獄に導く」と書いたのは、そのことであろう。有限な資源を巡る侵略や戦争が絶えず、大国による資源の奪い合いに巻き込まれて疲弊し、不幸の底に落とされた国はいくつもある。

 考えてみれば、江戸時代までの日本は、もちろん貨幣や刃物など金属物は鉱物から作る必要があったが、それらを除く暮らしのほとんどは地表のもので完結していた。しかも江戸時代の循環社会の完成度は驚くほど高かったのである。

 誰もがこのままではいけないと思いながら、この便利な暮らしを手放すことは難しいと考えている。人類の乗った巨大な船の上では、なす術もなくズルズルと変わらぬ日々が続いているが、船は静かに滝壺に向かってまっすぐに進んでいく。

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