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九州大学法文学部100周年記念モニュメントプロジェクト「待ち合わせ」|詩×彫刻

構想スケッチ

二限が終わったら昼食の時間になる。
友人と同じ授業をとっている。
ゼミの発表にはチームで取り組む。
サークルのみんなで作戦会議。

─── 待ち合わせる。
共に学ぶ人たちと。
待ち合わせは時間も空間も共有する。

1925年、ふたりの女学生が九州大学法文学部へ入学した。
そして、いま、
あらゆる違いの並立する、このとき
の礎に、ふたりの姿。

─── 待ち合わせる。
最初の女学生と。
待ち合わせは空間を超える。

広大なキャンパス。
同じ場所にいて、知り合うことのない人たち。
広大な世界。
偶然に出会う学友と、共通の記憶を抱けるように。

─── 待ち合わせる。
まだ見ぬ友と。
待ち合わせは時間を超える。

私たちはここで誰かを待ち、出会い、駆けより、そしてまた先へ。
同じ記憶を胸に。
現在は十全に、過去を受け取り、未来へと踏み出すために。

Poem:菅本千尋 Molding:原良輔


【制作に関して】
 大学のキャンパスというものは、現に通う学生のための場であり、またゴールではなく通過点なのだと考え、この作品の制作を始めています。
 私が現地調査・文献調査を行い、作品のコンセプトとして詩を書きました(最初から詩にしようとしていたのではなくコンセプトを練っていると詩になった、というのが正確ですが)。この詩をもとに、原が先行事例調査を行い、造形を考えています。そして詩と造形を往復させることで、「待ち合わせ」という作品になりました。
 原が用いたのは、竹を素材に用いる【竹筋コンクリート】です。私たち演劇空間ロッカクナットは竹の利活用をひとつの目的としており、最初の作品である「そここに、戯れ」及び、特設ステージ・竹箆舎は、放置竹林へアプローチするアートプロジェクトとして実施しています[詳細]
 竹はとても面白い素材です。今回も竹の地下茎(地上からはバラバラに見える竹が、地下では根のような茎を共有していて、同じ出自であることがあります)に注目し、あらゆる違いをもった人々が同じキャンパスでの学びを基盤にしていることと結びつけています。
 また調査のなかで、女性が大学で学ぶことが一般的ではなかった1925年当時、法文学部は2名の女学生を受け入れていることを知りました。このように、属性に関わらず、能力や熱意によって門戸を開く姿勢は、性の多様性を推進する現在の九州大学のあり方の”根”にあるのだと思います。

 私が九州大学に入学したのは2016年のことでした。文学部だったので2年生のときに研究室を選択し、箱崎キャンパスへ移って、壁いっぱいの本棚に囲まれ、両手に抱えるほど大きい絵画の図録は年季が入り、右も左も分からないままとにかく美学に関連する本を読み漁り、堂々と置かれた立派な机にはいつでも誰かの姿があって、授業や研究発表のときには学部生も院生さんも先生方もぎゅうぎゅうになって、そこにはたくさんの学びと対話がありました。原の入学は2015年です。彼は建築学科であったので、理系でありながら、文系と同じタイミングでキャンパス移転しています。つまり私たちは2017年〜2018年夏の1年半、同じキャンパスに通っていました。けれど当時、私たちは全く知り合いではなく、その後とある巡り合わせで出会い、いま一緒に作品をつくっていると思うと、人生はどこでなにと結びつくか分からない、と強く感じます。
 同じキャンパスですれ違っていたり、図書館や学食で隣の席を使っていたかもしれないひとと、卒業後に出会い、意気投合する、ということは今後も誰にも起こりうるのだと思います。こんなときに【共通の記憶】として、このモニュメントが作用しますように。
 モニュメントが長く、待ち合わせの場としてあることを願います。

文:菅本


九州大学法文学部100周年記念モニュメントプロジェクトに、演劇空間ロッカクナット「待ち合わせ」が採択されました。本作品は、2024年11月に九州大学伊都キャンパスに設置されます。
特設HP:こちら

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