見出し画像

なんちゃってわさび漬け

オレには特別な力も能力もない。世の中の役にたつような資格もない。もちろん金もない。ただ、生きていくだけだ。なるべく、気持ちよく、せいせいと、そう思いながら。できてないけど。
そんなわけで、その晩も冷蔵庫を物色していたら小さなタッパーを見つけた。
オレは、竹輪を斜めの輪切りにして小皿にのせて、それからタッパーの中身を少し皿の脇にのせた。
そしてそば猪口にキクマサピンを注いで、椅子に座った。
一口、ぐびりと飲んでもう一度立ち上がって、箸と醤油をとってきた。
醤油を小皿にタラリとかけて、またぐびり。皿のはじっこにのせたのは、なんちゃってわさび漬けだ。
1週間程前、オレは冷蔵庫の隅で一年以上前の酒粕を発見したのだ。安い野沢菜漬けがあったので、そいつをザクザク刻んで軽くしぼって、酒粕と一緒にポリ袋に入れ、それからチューブのワサビをたっぷり入れた。それでモミモミしてしまっておいたのだ。
ちょっと竹輪にのせてパクリ。
お、ワサビ、利くなあ。寝かせた古い酒粕の方が深みがあって断然旨い。といっても二年近くたっていて、色もだいぶ濃くなっているし不安だったがかえって良かったらしい。
甘味や塩味を加えないで漬物の味だけで十分だ。
飲み過ぎても酒粕の効果でお腹の調子は大丈夫だ、と信じてぐびぐび飲むオレだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?