四字熟語2

四字熟語世界一決定戦 part2

前 回

 【帰巣本能】が入場ゲートに姿を現し、【一石二鳥】が西の空に飛び去ってから既に2分近くにもなるが、反対側のゲートからは誰も入場してこないまま。
 理由は単純にして明快。
 登場した瞬間にあの能力に曝されれが最後、あの2羽と同じ運命をたどることになるのを皆理解しているからだ。

 だが、思いもよらぬ者が【帰巣本能】の前に立った。

 対戦者の姿に観客席は一斉にざわつき始める。

 伸び放題でボサボサの髪と髭。
 ぼろぼろのスポーツウェア上下とダウンジャケット。
 背にはパンパンに詰め込まれたリュック。
 花道付近の観客が鼻をつまむほどの悪臭を放ちながら、その男はストックを突いてゆっくりとリングに歩を進める。

 「ひでぇ臭い」「にしても誰だよアイツ」「でも帰らねぇんだな」

 そう、男はすでに【帰巣本能】の能力の影響を受けているにも関わらず、まったく意に介すことなく前に進んでいるのだ。

 「ぬぅ......どういうことだ⁉」
 これには流石の【帰巣本能】も動揺を隠せないが、いかんせん彼の頭部は鳥籠なのでその内心は誰にも伝わっていない!

 「か……彼はひょっとして......」
 「知っているんですか解説の【博聞強記】さん!」
 「はい、ここまで【帰巣本能】のパワーを受けているのに全く帰る気配がないということは……」
 「ということは!?」
 「彼は【三界無宿】です!!」

 この世の何処にも落ち着ける場所などない──、すなわち帰る場所など何処にもない【三界無宿】がついにセカンドロープをくぐり【帰巣本能】と対峙する!

 「こ......この野郎ーーーッ!」
 先手を打ったのは【帰巣本能】だ! 発生の早い立ち中パンチ!
 【三界無宿】は回避も防御も試みようとしない!仁王立ち!直撃!

 「くぅ......」
 狙い違わず【帰巣本能】のパンチは敵の腹部中心を捉えたが【三界無宿】は微動だにせず!
 
 「はっ......そうか!」
 再び実況席の【博聞強記】が気づいた。
 「常に野宿を強いられる【三界無宿】の防寒対策は生半可ではありません!きっと5枚6枚レベルは余裕で着込んでいるはずです!」

 そう、何重にも重ね着された衣服の前では【帰巣本能】のパンチは十全に威力を示さず!
 
 「ハァーッ」
 常人には耐えきれぬ悪臭を口から放ち【三界無宿】は右手のストックを振り下ろす!
 「テノリブンチョ!!」
 直撃!鳥籠が無残にひしゃげる!!そのままダウン!
 レフェリーのカウントは6で停止、そのまま両手を頭上で大きく交差!

 カンカンカンカンカン!!! 【三界無宿】のTKO勝ちだ!

 しかし【三界無宿】がストックを掲げ勝利のアピールをしようとしたそのとき! 

 「幸福になる権利があります市民~♪ 幸福になる義務があります市民~♪♪」

 胡散臭い歌が会場に流れゲートからリムジン登場!ドリフト停車!
 後部座席から降り立ったのは金髪に赤ネクタイのスーツ姿、小太りの白人男性だ!
 花道のど真ん中をSPらしき集団に守られながら歩み来る!
 ポケットからドル札の束を取り出し無造作にアリーナ席に投げ込む!
 激しい奪い合いの発生もどこ吹く風!
 SPがロープを開けた間をゆっくりと潜り抜け、白人男性は【三界無宿】の前に立つ。

 内ポケットから携帯電話を取り出しいずこかへ架電。
 「私だ。目の前の彼に公営住宅と生活保護の手配を」
 突然かつ怒涛の展開に目を丸くする【三界無宿】

 「こ、これは【救国済民】です!【救国済民】の参戦!」
 
 仮住まい、そして定額収入を得た【三界無宿】のアイデンティティーが揺らぐ! 輪郭すらもすでに朧げ! そのまま前のめりにダウン!

 レフェリーはカウントを取るまでもなくゴング要請!
 【救国済民】が自慢げに両腕を天に突きあげた!!

 しかし観客の視線は対角のゲートへ!
 そこには深いスリットから艶めかしい太ももをのぞかせたスタイル抜群のオリエンタルチャイナドレス美女!

 アナウンサーが鼻血ブー状態で叫んだ。
【傾国美女】ちゃんだーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


【続く】 

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