バトル・オブ・パラドックス
《こちら渋谷02。被疑者は北西方面に逃走中》
右耳の高性能補聴器が警察無線の内容を拾う。
逃げ込んだ近くの雑居ビル空きフロア。
右手に握ったレーザーガンのエネルギー残量を確認する。
ため息をひとつつき、俺は状況の把握に努める。
ターゲットの行動は完全に把握した上で計画に臨んでいたはずだった。
シミュレーション成功率は常に100%。
だが、俺の放った弾はターゲットに届く前に砕け散った。
俺とターゲットとの間に立ちふさがったのはスーツ姿の男。
手には虹色の光を放つ正六角形の力場発生装置。
【アンチ・レーザー・フィールド】だ。
もちろん、2020年の人類がこのような科学力を有しているはずはない。
間違いない、時空保安官だ。
計画が露見していた?何故?
【タイムパラドックス】って知ってるか?
産まれる前の時代に行って自分の親を殺してしまうと自分は産まれなくなるはずなのに、産まれなければ親が殺されるはずがない...という矛盾が生じるやつだ。
《ピピピ...ガガガ...》
また警察無線が入ってくる。
《標的とおぼしき男性は16歳。氏名はトキタ・アラタ 高校生》
───トキタ・アラタ。
───俺の父親だ。
俺はこいつを殺し、タイムパラドックスの不存在を証明しなくてはならない。
通信装置を作動させベースへ連絡を取る。
計画を練り直さねば。
〔ベースとの接続が確立されました〕
装置の向こうは2060年だ。
「ジェーン、すまない。しくじった。察知され...」
「やっと繋がったわ!シーナ!急いで!」
パートナーのジェーンが鬼気迫る表情で俺の言葉を遮った。
「どういうことだジェーン、何が起こってるんだ?」
「貴方のお母さんよ!ついさっきマシーンに乗り込んだの!ああもう時間がないわ急いでったら!」
「落ち着いてくれジェーン!お袋がどうしたってんだ!?」
「貴方がお父さんを殺す前に、過去の貴方を殺すって言ったのよ!」
【続く】
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