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事故物件最後の日

 「お願いやめて助けて!付き合ってあげる!付き合ってあげるから!...ウグッ!」
 涙声での懇願直後に短い悲鳴。 
 返り血に塗れた男は、もう動かない女をいつまでも見下ろしていた。

 「僕の芸術を理解してくれる人たちの居る所にいきます。さようなら」
 西陽の射す室内、手書きのメモ紙の上で宙に浮いた両脚が揺れていた。

 「私はついに知ってしまった。世界の真実を。もう永くはないだろう。今そこに真の闇がやってきている。ああ、窓に!窓に!」
 喉を食い破られた死体が机に突っ伏し、書きかけの日記を鮮血で濡らしていた。

 「ストーカーごときがアタシに勝てると思うなよ!チェリャー!!」
 「オゴボォーッ!」
 床に倒れたサラリーマン風男性を狼牙棒で執拗に殴打するキャバ嬢女!

 「僕の芸術を理解しない奴は死ぬべきなんだーッ!」
 POW!POW!
 椅子に縛り付けられた初老の男性の眉間と心臓に銃弾をぶち込むベレー帽の若者!

 窓を割り侵入したこの世ならざるものに対し武術技能で反撃!ゲームKPを脅して手に入れたキック技能99が火を噴きクリティカル!バラバラになったクリーチャーの肉片が室内に散らばる!

 暗黒武術大会決勝!ストロング強山の剛拳が相手の体を消し飛ばし血煙にに変え室内に充満!

 
 
 契約時に不動産屋が話したことはみんな嘘っぱちだったのだろう。
 でも駅から徒歩1分、ユニットバス付1LDK、冷暖房完備、オートロックとで月3万4000円というのは本当だった。
 
 友人も彼女も気味悪がって近寄ろうともしなかったが、結局大学4年間はここで何事もなく過ごした。
 今日が契約の満了日。親父の家業を継ぐため俺は田舎に帰る。

 ピンポーン

 インターフォンの音。
 モニターの向こうには80歳ぐらいの老婆。
 ここの大家さんだ。
 入居するとき以来の挨拶にいったばかりだけど、何か手続きがまだあったんだろうか。
 「はい今開けますねー」
 チェーンと錠前を外しドアがわずかに開いたその隙間!
 ものすごい速さの手刀が頬を掠める!

 直後強引に押し入ってきた大家から立ち上る殺気!
 「アンタが住んでたことをすっかり忘れてたよ...!この部屋に住む奴は皆死んでもらうのさ!」
 俺は状況が飲み込めない。
 「あたしの真の名はストロング強山!覚悟しな若造!」
 マッハの踏み込みから正拳突きが繰り出された!

 【続く】

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