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あなたの思い出、500円。

 「はい、それじゃ500円ちょうど。毎度あり」
 俺は疲れた様子のサラリーマンから500円硬貨を受け取るとひらひらと軽く手を振る。

 電車の通過する音が頭上に鳴り響く都内某所のガード下。
 小さな折り畳み式のテーブルと、その上に置かれた1枚のボード。
 これが俺の店だ。

 俺はここでずっと「忘れさせ屋」をしてる。
 嫌な記憶、忘れたい記憶、思い出したくない記憶、そんな記憶を一律500円で頭の中から綺麗さっぱりと消し去る稼業だ。

 売れない催眠術師だった俺は、あるときこの力に気づいた。
 強力な自己暗示をかけることによって相手の記憶を改竄する方法。

 こんなすごい能力が何故たった500円なのかだって?
 そこにはもちろんカラクリってやつがある。
 そら、さっき忘れさせてやったサラリーマンが引き返してきたぞ。

 「すまんけど...さっきのやっぱナシにはできんかね。どうにも気になってね」
 俺は黙ってテーブルの上のボードを指さす。
 そこに書かれているのはこの店の3つのルール。
 
 ・内容を問わず記憶1つにつき500円
 ・店主は記憶の秘密を漏らしません
 ・思い出す際には5000円を頂戴します

 「うへえ」という顔をしながらもサラリーマンは財布を取り出す。
 そう、大概の客は自分の忘れた記憶がどんなものか気になって仕方なくなるのだ。
 代金を受け取り暗示を解除する。
 (あぁ、これか。やっぱ忘れたままにしとけばよかった)
 今までの客と同じ顔をしてサラリーマンはトボトボと帰る。
 悪いな、これも商売だ。
 
 ──今日はここらへんで店じまいか。
 売上を数える俺の前に一人の少女が立っていた。
 15~18歳ぐらいだろうか。日本人じゃない。
 どこの国だろうか、見たことのない...民族衣装か?。それも相当立派な。
 呆けてる俺に少女はたどたどしい日本語で告げる。

 「アの...記憶、ゼンブ消してもらうコト、できるマスでしょーか?」 
 テーブルの上に山ほどの宝石がブチ撒けられた。

【続く】
 

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