愛の闘避行
《それではミッドナイトTOKYO、今夜もお別れのお時間です。お相手はメリーでした!このあと1時からは...…》
こんなふうにお別れできりゃどれほどいいかとステアリングを握り直す。
深夜の東名高速下り、時速120㎞で疾走するBMW‐X1の車内。
出発からそろそろ1時間が経つ。
熱いコーヒーでも喉に流し込みたいところだが、SAの入口はついさっき通り過ぎたばかり。
前にも後ろにも車は見えず、ライトを上向きにする。
ただただ等間隔に外灯だけが俺たちを迎えてくれていた。
そう、”俺たち”だ。
助手席に視線をやる。
栗色の髪を後ろにまとめた若い女が静かに寝息を立てている。
出発したときのままだ。
まだ起きないでくれという気持ちと、さっさと起きてケリをつけさせてくれという気持ちがせめぎ合う。
──御堂薫。
21歳、東都大学犯罪心理学部卒。
同大学ミスコン準優勝。
両親は既に他界。実業家の祖父と2人暮らし。
つまりは頭も育ちもいいとこのお嬢さん。
残念だが面識はない。
面識はないがすぐにわかることもある。
例えば───まぁそんなことどうでもいい。
「対象を車に乗せて大阪まで送り届けるだけ」なんてのは嘘っぱちもいいとこだった。
「NO」と言おうもんならあの爺さん、俺の眉間にでっかい風穴を開けていたことだろう。
PU──!!
対向車のクラクションに眉を顰める。
そうだ、上向きだったわ。
(そら鳴らすわな)とライトを戻す。
そして思い立ってしまった。
まさかと思い助手席を見やる。
彼女が起きていた。
何も言わず、じっとこちらを見つめている。
俺があの爺さんに言われたのは2つ。
ひとつ、この女を無事大阪まで送り届けること。
ふたつ、この女から「赦す」という言葉を引き出すこと。
落ち着け。まずは挨拶からだ。
「おはよう。お爺さんから俺のこと聞いてるかな?」
BANG!
直後、女は銃を取り出し俺を撃った。
【続く】
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