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2020年3月某日、東京・後楽園ホール 観衆0人(主催者発表)

バッスィィィーーーン!!!


 逆水平チョップが空気を切り裂くような破裂音を響き渡らせる。
 東京都文京区・後楽園ホール。
 

 ドスーーーーン!!!!

 体重120㎏を超える巨体が高く持ち上げられ背中からマットへと叩きつけられた。
 プロレスやボクシングなどの格闘技興行開催会場として長い歴史と知名度を誇っている。 


 ゴツン!!

 頭蓋骨を頭蓋骨へ打ち付ける鈍い音。
 しかし今、これらにリアクションを返すべき者たちはそこに居ない。
 特徴的なひな壇席、そしていつもならユニークな横断幕が掲げられているバルコニー。それらには人影一つ見当たらないのだ。

 COVID-334。
 先月アジア某国で発生したこの新型コロナウイルスは瞬く間に全世界へと
拡散。
 日本政府は感染拡大を防ぐために各種イベント開催の自粛を要請した。

 プロレス団体『プロレスリング令和』は同要請を受け、後楽園ホール大会を無観客試合とする苦渋の決断を下したのであった。

 「うおらぁ!」
 団体の看板レスラー『ベーコン肩田』が対戦相手をロープ越しに場外へと放り投げる。
 そこに観客が居ないことを感じさせないような、いつも通りの会場を広く使ったファイトスタイルのままだ。

 もちろん落とされた方も黙ってはいない。
 顔面をおどろおどろしい真っ赤なペイントで染めた悪役レスラー『逆恨みケンちゃん』は追ってきたベーコン肩田の股間を蹴り上げる!
 反則のロー・ブローだ!

 (BOOOO......!)

 (ん?)
 どこからともなくブーイングが聴こえたような気がして逆恨みケンちゃんは辺りを見回す。
 その視界に観客が入り込むことは無い。

 (気のせいか...)
 うずくまるベーコン肩田の髪の毛を掴み、無理矢理引き起こすとその腕を取って強引に鉄製フェンスへとホイップ!

 ガシャアアアアアアアアン!

 激しい衝突音。ベーコン肩田の体は勢い余ってフェンスの向こう側へ!
 その際、彼は右の踵に何らかの衝撃を感じた。
 踵はフェンスに触れたわけではない。では何故!?

 
 「グワーッ!」悲鳴!

 ベーコン肩田は怪訝な表情を浮かべる。
 そう、今の悲鳴は彼のものではない。
 では逆恨みケンちゃんの? もちろん彼のものでもない。
 ならばレフェリー?リングアナウンサー?

 否!

 ベーコン肩田の足元に転がり、腹を押さえのたうち回っているのは大きな1枚の布を持った覆面姿の男!
 
 読者の皆様の中に日本の歴史に詳しい方がおられるのであれば、これが隠れ身の術を行使していたニンジャであるとすぐに理解が及んだであろう!

 ベーコン肩田がフェンスを乗り越えた際に感じた謎の衝撃は、彼の踵がニンジャの腹部にめり込んだときのものであったのだ!

 何かを察したベーコン肩田と逆恨みケンちゃんは別々の方向へと客席を練り歩く!

 ドンッ! 何かとぶつかる! ニンジャだ!

 ドンッ! また何かとぶつかる! またニンジャだ!

 そう、どうしても試合の見たかったニンジャたちはステルス風呂敷を使用し自身を空席に偽装!世間的には無観客試合であることを装うため、言葉を発することなく奥ゆかしく観戦していたのである!その数およそ1800!後楽園ホールは超満員ニンジャ札止め状態であったのだ!

 だが待っていただきたい!肝心のコロナウイルス感染リスクは!?
 心配ご無用!ニンジャは血中カラテによるウイルスカラテ消毒が可能であるのだ!

 バレてしまっては仕方がないとばかり、1800人のニンジャたちは隠れ身を解除、ありったけの声援を送り始める!

 「「「かーたーだ! かーたーだ! かーたーだ!!」」」


 こうして熱狂の内にメインイベントは終了。
 1800人のニンジャには出禁が言い渡された。

【おわり】


※この企画は『サプライズ・ニンジャコン』です。



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